韓国でAI教科書が始まること
まだ年明けということもあり時間があってnoteを書く余裕があります。どこまで続けられるかですが、できるだけ毎週書いてみようと思っています。
今回は今年3月から韓国で始まる「AIデジタル教科書」のことを。
日本ではほとんど話題になっていませんが、韓国では世界初とも言われていますが、AIを組み込んだデジタル教科書が2025年3月から提供されることになっています。
日本の報道では具体的なことがほとんど報じられていないので、韓国国内の報道や韓国政府が公表している技術資料等から読み解いてみます。
結構、日本の"デジタル"×"教育"の政策を考えるうえでも重要な点が多かったので、その辺りの動向を気にしている方は必見かも、です。
2025年3月から始まるAIデジタル教科書@韓国
「韓国 AI教科書」と検索して一番上にきたのは以下でした。
紙の教科書と併用。2025年3月の最初は、小学3~4年、中学1年、高校1年が対象で、教科は英語・数学・情報の3科目。
2027年以降、対象学年・教科を拡大していくことになっています。当初は2026年から対象学年・教科拡大だったのですが、現場の反発もあって1年遅らせ、教科も国語などを除外するなどしているようです。
AI教科書ってどんな機能があるの?
では韓国のAIデジタル教科書って、どんな機能がどんな仕組みで開発・提供されるのか。
いくつかの報道を見て見ると、日本で言うところのAIドリル的な機能や、データを可視化するダッシュボード、AIチャットボットによるチューターなどがあるように報じられています。
一番詳しくレポートしてくれているのは、KDDI総合研究所の調査レポート。これを無料で公開してくれているKDDI総合研究所さん、さすが。
概要理解は上記で十分ですが、より詳細をとなると韓国国内の報道を見ても断片的な情報しかなく、、、
仕方ないので原典に当たれってことで、韓国政府(KERIS)が公表している「AIデジタル教科書開発ガイドライン」を読み込んでみました。
全文ハングル。翻訳ソフト使っても画像は読み込めないため、生成AIでの画像翻訳など活用し、3時間ぐらいかけて191頁全文読み込みました。うーむ、なかなか辛かったけど、以前なら絶対読み込めない。良い時代になったもの。多分、韓国のAI教科書の仕組みについては、日本で5本の指に入るぐらいには詳しくなったはずw
AIデジタル教科書ですが、機能としては大きく3つに区分されています。
共通での連携機能
個別学習サポート
学習デー収集・管理・送信
それぞれざっくり解説してみます。
共通での連携機能
AIデジタル教科書といっても、官民がどういう役割分担になっているのか。どこまでの機能をAI教科書が提供し、どこが共通部分になっているのか。個人的に一番知りたかったところですが、報道ではほとんど分からずの部分でした。
AIデジタル教科書の全体像、大まかなシステム構成は以下のような感じです。
大きくは以下の3つの要素で構成されていて、2の部分がAIデジタル教科書の本体と言える部分です。
AI教科書ポータル(国:韓国教育学術情報院(KERIS))
各教科のAI教科書(民間:教科書会社&EdTech企業)
学習データハブ(国:韓国教育学術情報院(KERIS))
共通部分であるポータル機能やダッシュボード、データ格納場所は国が用意し、民間はコンテンツ部分に注力できるような役割分担です。そのうえで、国の基盤とデジタル教科書本体は連携するよう要求されています。
標準化によるシステムの相互運用
例えば利用者認証(シングルサインオン)については、国が国民の公共サービス利用のための認証基盤であるDigital One Passと連携することが求められています。
日本で無理やり例えると(色々用途などが違うところあるけど)、デジタル庁のデジタル認証アプリと学習eポータルが組み合わさった感じです。
読み込んでいて個人的に一番すごいと思った部分は、国側でカリキュラム(日本でいう学習指導要領・教科書単元・学習要素とその関連性)が構造整理されており、達成・評価基準が策定されていること。さらにはそれらがCASEという技術規格で整理されていることでした。
ハングルなので上記画像は読めない人がほとんどだと思いますが、、、1つ目の画像はカリキュラムの構造分解とコード化、2つ目の画像は学習内容の他項目との関係性とルーブリックをを表しています。
AIデジタル教科書の開発にあたっては、この体系に沿ってつくることが必須で要求されています。
これは個に応じた学びをサポートするうえでAIの精度向上に大きく資するだけでなく、学習データの評価や分析においても相当効いてきます。
むしろこの整理なしの学習データ分析ってほぼ意味がないのでは、と個人的には思ったりしています。
日本も学習指導要領をコード化していますが、あくまで読み物としての指導要領に付番をしているだけ。そもそもデータとして取り扱うよう構造化する意識はありません。このカリキュラムと評価のデータとしての構造化は、日本は相当遅れをとっている部分だと改めて実感しました。
日本でも今まさに学習指導要領の諮問が開始されたタイミング。ここから2年の議論で、この点がしっかり考慮できるようしないと。どこかでこの部分だけでもnoteを1回分、ちゃんと書こうとも思いました。
他にも「学習データハブ」への学習データの送信について、xAPIという国際標準規格が推奨されているなど、相互運用性についてもしっかり考えられています。しかも、国として分析する軸が明確で、データ項目の例示がなされつつ、ちゃんと匿名・仮名化することが必須になっていたり、、、
さすがはKERIS、これが日本だと、、、
ここまで読んでいて「さすがは韓国教育学術情報院(KERIS)」というのが個人的な感想です。日本だとここまでのドキュメントを政府機関が独自でつくることは本当に稀なので。
もう10年ぐらい前ですが、自分も総務省との仕事でKERISを訪問し意見交換したことがあります。強い技術者 兼 研究者がいる公的組織でした。めちゃくちゃ技術に精通していて、(こんなこと書いちゃダメですが)日本の公務員相手では全くできたことのない突っ込んだ議論ができて、すごく盛り上がったことを覚えています。
日本の場合、公的機関だけなく民間もそうですが、自らの組織でエンジニアを雇用・育成せず、いわゆるシステムインテグレーターに丸投げする文化が根づいていることが要因の1つに見えています。
なので、日本の場合は今回のAIデジタル教科書における「ポータル」「認証」「データストア」のような協調領域とも言える部分について、民間サービスを活用する選択肢が現実解だったりします(学習eポータルの構想もまさにそういう制約条件からきている)。
が、それにしても日本はもっと公的組織でもっとエンジニアをちゃんと雇わないと太刀打ちできないっすね。
「お前が所属している組織(デジタル庁)がそうだろ」というツッコミきそうで、まさにその通りではあるのですが、正直なところまだまだ技術に対する議論や力のかけ方が全然足りていないのが実態です。うーむ、もっと頑張らねば。
長くなってしまったので前後編に
書いていたら思ったよりも長くなってしまったので、今回は一旦締めて、後編を来週UPしてみたいと思います。
AIデジタル教科書本体の機能:個別学習サポート
学習データハブやダッシュボード
提供する会社や提供価格
この政策から見えてくる韓国政府の戦略
あたりを来週の後半で解説してみたいと思います。ボリュームありそうで1本で終わらないかも。
ではまたー。