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【短編小説】感情を食べる怪物2
街へ復活した直人には時間がなかった。神との約束では人間界に出現できるのは一日10分が限界だった。
直人「やばいやん。調子にのりすぎたわ」
直人は困っていた。威勢良く生き返ったのはいいものの、世界を変える方法が思いつかなかった。
直人「こんなときはえびたに相談しよう」
男前のえびたなら良い助言をくれるはずだ。直人は走り出す。
* * *
えびた「え…………?なんで直人がいるんだい…………?」
えびたはひどく驚いていた。死んだはずの直人が目の前で歩いている。
直人「おう、えびた。俺には時間がない。びっくりするかもしれんが、急いで聞いてや。俺は今--」
直人はこれまでの経緯を説明した。
* * *
えびた「つまり、直人は世界を変えなければならないのか」
えびたは我ながら信じられないセリフを話しているなと思ったが呑み込んだ。今一番動揺しているのは直人だからだ。
直人「そうやな。でもどうすればいいのかわからんねん」
えびた「それにしても夢のような話だね。まさか一回生き返るとは」
直人「そやな。こんなことあるんやな」
えびた「せっかく復活したのだから、考えないとね」
直人の助けになりたい。えびたは考えた。直人にできそうなことは何だろうか。直人の制限時間は一日10分だ。この時間で商人をするのは厳しい。直人がいない時間はえびたが直人の代わりをすればいいが、それでも直人の商才をフルに発揮するのは難しいだろう。そんなことでうまくいくほど商人の世界は甘くない。それに条件は直人が世界を変えることだ。えびたが直人の代わりになるのはルール違反。直人が直人自身の手で世界を変えなければならない。とはいえ10分で何ができるのだろう。
えびた「神様は他人から物を盗んだり、自分だけ助かろうとすることを"悲しい生き物"だと言っていたのだよね?」
直人「そやなあ。でも誰だって自分は助かりたいし、死にそうになれば他人から物を盗んででも生きようとするのは当たり前やんか」
えびた「でも直人は死にそうになっても人から盗まなかった。自分が苦しくても自分を見失わないように努力する。だから死んじゃったんだよね?命をかけてでも自分の生き方を貫く。そんなかっこいいヤツなんだよね」
直人「やめえや。俺が言うのもあれやが、死んだら元も子もないねん」
えびた「まあまあ。でも現に僕は勇気付けられたよ。…………ん?」
直人「どしたん、えびた?」
えびた「うーん。もう少しで良いアイデアが出そうな気がするのだけれど、はっきりしないな」
直人「なんなんやろな。俺も気になるわ。悩んでるとこ悪いが、俺はそろそろ10分やから消えるで」
直人の身体が半透明になり輝き始める。この世界から消える前兆だ。
えびた「唐突に消える感じなのかな? そうしたら時間もないから用件だけ簡単に伝えておくよ。明日この時間に山田商店で再会しよう。直人がいない間何個か作戦を考えておくよ。それじゃあ、また明日ね」
直人「おう。ありがとうな、えびた。また明日」
しゅぽん。直人はこの世界から消えた。
えびた「直人だって動揺しているはずなのに、いつも通り明るく振舞っていた。僕もしっかりしないと」
えびたは気合いを入れ直す。全ては親友と世界を変えるため。そうしたら直人は生き返るかもしれないと信じて。
* * *
夜。月が街を照らす。人々が熟睡している頃。
夜勤で警備をしていたある青年がいた。えびたの同僚だ。
同僚は提灯を片手に、街を歩いていた。
同僚「そろそろ交代の時間か。寒いから早く帰って温まろう」
--ぴきり。
唐突に枝の折れる音。同僚の後方からだ。
同僚「ん?誰かいるのか?」
同僚がゆっくりと確認しに行く。
そこで--
同僚「誰だいこんな時間に?…………ぎゃあああああああ!!!!!!!」
影は同僚を呑み込んだ。