めぐりあひて
「久しぶり〜〜!!あ〜〜ごめん、これから仕事だから行かなきゃ!また今度お茶しよう!!またね!!」
予想外の再開もそこそこに、幼なじみはわたわたと走り去ってしまう。驚きと嬉しさ、寂しさと感情が忙しい。そういえば学生の頃、彼女とこの駅で電車を待っていたっけ。駅近のファストフード店で一緒に時間を潰していたな。途端に懐かしい思い出が沸いてくる。ただ昔の思い出に浸れる時間はあまりなさそうだ。
物思いにふけなくなったのはいつからだろうか。
大学を卒業してすぐに仕事につくと、働くことが体の一部になった。新人の私は会社の先輩についていくだけで精一杯。日々新しく覚えることだらけで忙殺され、プライベートにさく時間はない。自分の不甲斐なさでたまにヘコむ。水泳で息継ぎするみたいに次の休みが待ち遠しい。寝て起きては職場へ行き仕事に疲弊して家に帰り寝るそしてまた次の日起きて仕事へ行く。そんな毎日を機械のように繰り返していた。
そういえば、昔紫式部がこんな和歌を読んでいたっけ。
『めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に
雲がくれにし 夜半の月かな』
意味は『めぐり会い、見たのかどうかわからぬうちに雲に隠れてしまった夜中の月。そのように、久しぶりに会ったあの人も慌ただしく帰ってしまわれたことよ』
幼い頃の紫式部は父の仕事の都合で都から福井へ住む地が変わった。そんな中で久しぶりに友達と再会したが、挨拶もせずに別れてしまった。そんな寂しさを月の光に例えて詠んだ和歌だったか。
時は平安。電話も鉄道もない時代。京都と福井で別れるのはどんな思いだったのだろう。