月の道4

もちろん大丈夫のつもりで走り始めたが。
月がつくる木の陰草の陰。
そこには人影が見える気もする。妖しい影も見えてくる。
辺りに何か音がする。
それは自らがたてる足音。
それが自身を追いかけてくるような、待ち伏せているような。
「ううっ。鬼が出たらどうしよう。」
寺に向かう足は速くなる。
「みえたっ。」
ボウの目に寺の階段がみえる。
寺の長い階段がいつもよりも長く見える。
元気の固まりは勢い落とさず駆け上がる。
「よしっあと十段ぐらいだ。」
ボウが階段を上りきり、敷地へと目を向けた瞬間。
「わーっ出た。」
目の前に大きな影が立ちはだかり、間髪なくガバッと抱えあげられる。
「わーーっはなせこのやろう。放せっ離しやがれっ。おいらなんか喰ってもまずいぞ。」
捕まった。
鬼は寺へと来ていた。
おしまいだ。ボウは嘆き、鬼につれていかれる場所はこの世のおわり。我が身の終わり。
それだけは御免と暴れに暴れ。行き着く場所には行き着かないぞ。
鬼の腹なぞ行くものか。
が、力の差を思い知らされる。いくら暴れたところで、鬼の力は緩む気配はない。
「ああー。せめて死んでからは・・先祖でいい・・身内に逢いたい。」
諦めかけるが、
「くそ。鬼のやつなんかに喰われたくないやっ。」
小さな身体で、出せるだけの力を出そうと、あるだけの元気を出して暴れまくる。
鬼も「こ、これは手におえん。」
力を緩め。
「これ、これ、子ども暴れるな。」
鬼は人の言葉で話しかけてくる。
元気の塊は、
「鬼のくせに人の言葉を話しやがるかっ、このやろうっ。」
きかん気の性根が、おのれの人生の先に、最後まで反抗しようと暴れまくる。
「こらこら子ども。儂だっ。旅の途中の坊主じゃ。ここしばらく寺に厄介になっとるじゃろう。」

声の主は顎を殴られ、脛を蹴られ、腕を噛まれ股間を蹴られ、生涯の怪我を身にまといつつ。
「儂じゃ、おとなしくしてくれ。珍しい菓子もやったろう。昔話にお伽噺にしてやっただろう・・・。」
動きがとまる。
「・・・うん。」
抱えられている元気は急におとなしくなり、鬼の脇に抱えられているまま、抱える鬼の顎を見上げる。
「あっ旅の坊主。」
ぽつりと呟く。
「旅の坊主とはなんだ。・・・まったく元気だけは鬼以上だ。」
抱えあげている脇からボウを下ろし、
「おーイタイ。あちこちと痛い。」
身体のあちらこちらを擦りだす。
その姿を見上げ。
「なんだ旅の和尚じゃないか。どうしたんだい、顎を猫にでも、引っ掻かれてるじゃないか。」
笑顔を出して顎を指差し。
「猫に悪さするから血が出てる。」
「馬鹿者。何が猫じゃ。よい大人がそんな悪さはせん。おまえが引っ掻いたんだろうが・・・おー痛い。」
「・・・ごめんよ。」
ボウは笑顔を消して。
「でも和尚が悪いんだからね。子どもを脅かすもんじゃないよ。」
子どもは旅の坊主に説教を始める。
「孫子とか韓非子など読んだことないのかい。脅かすもんじゃないよ。」
寺に世話になる旅の坊主は苦笑い。
「・・・それもそうだな。」
子ども好きとわかる笑顔で、
「しかし、子どもが一人で夜中に走り回るのも変たぞ。」
坊主が額の傷を擦りながら言葉を返す。
「儂はすっかり物の怪かとおもった。・・・どうした、こんな夜中に。」
坊主がそこまで言うと。
「あっ、いけない。怪力和尚の出番だ。坊主と遊んでいる暇はないや。」
ボウは言いたいことを言うと、ここ幾日か可愛がってくれる旅の坊主をおいて走り出してゆく。
「コレコレ待て。話して行け。この坊主に事の話をしろ。」
走り去る子どもは振り返り。
「鬼が出たんだ。オイラもみた。」
立ち止まり、事の成り行きを話す。
旅の坊主は表情変えずに、
「なんと。」ボソリと呟く。
「和尚も鬼に拐われるといけないから早く寝たがいい。」
そう云うと踵を返し。
「和尚様ー。」と走り出す。

「おいおいっ、まてまて。お前は一人で帰ってきたのか、これ・・・。」
元気の後ろ姿を見送る坊主。
「・・・まるで鬼の子だ。」
元気の塊が走る姿に笑みを浮かべ。「ふー。」と息を吐くと笑みを消し「困ったぞ。」と村へと顔を向ける。
「どうしたものか。」呟いたあと寺の裏山へ身体を向けた。

旅の坊主は腕を組み。痛む顎へ親指伸ばし、擦りながら
「こまった。これは困った。」
寺へと歩き出す。
「うむ・・・こまった。」




自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!