河童55

坊主の姿に康介が近寄ろうとするが、我が身の不自由が腕だけを伸ばしてゆく。
「坊主どの」
その場から動けない。
「うっ」
我が身の痛みも少し増したように感じる。
坊主と康介は、痛みの面倒を見るのが精一杯になっていた。
「うっむっ」二人が唸っていると、
「あっ」と、小気味よい言葉をこぼし、気を取り戻した娘が辺りをうかがう。
頭を押さえ戸口に目を向ける坊主。
「うむ、やはり解りあえぬ」
そして痛む頭を抱え下を向く。

起き上がる娘が坊主の言葉の意味を理解する。
不安に目を開け口を開け、背中丸めてガタガタ小刻みに震える。
坊主の頭の傷に坊主の呟く言葉。状況さとり、この期に起こるであろう事を漠然と感じる。

坊主は頭を振りつつ立ち上がると、石が雨のごとく社に降ってくる。
パシパシと勢いある音。打ち付ける音は大きくなってくる。
石の大きさも増している様子。
社の板壁はガツンゴツンと重みある音になりバシッと裂けて石が転がり込む。
坊主が、康介が、娘が、裂ける音のする壁をあちこちと不安げに見回す。
康介と娘は坊主が何とかしてくれるのではと、期待がある分落ち着いて裂ける板を見回している。
坊主はどうしようもなく、焦りと恐怖が思考をもぎ取り、どこかへと隠し去る。
坊主自信、我が身から血の気が引くのを自覚する。
坊主は目の前が白くなる。娘のごとく、素直に気絶出来ない自分を恨めしくも思う。
意識を戻すため頭を振り、引け気味の腰で二歩三歩よろめく。
「くそっ、どうすれば。」
不安も隠さず右に左に辺りをうかがう。
静まる。
辺りは再び静寂を迎える。
「おっ、おわりか・・・。」
そう思い息を止めていると。
バキッッ
社の板壁は鋭い裂け目をつくる。
河童の体力で作れる裂け目には思えない。
「岩を投げたか」
康介は叫ぶが、坊主には思えない。「河童の体力でこんな裂け目を作れるのか・・。」
音と裂け目から人の頭ほどの大きさがありそうだ。
河童が投げれると思えない。
しかし裂け目はある。
「思うより力があるのか。あの青白い身体に・・・。」
見た目の体の大きさを超える力。新たな恐怖が沸き起こる。
「やはり解りあえぬ。畜生だ。」
坊主が強めに呟く。
ただ事ではない。
康介と娘に、坊主の恐怖が伝わる。
「解り会える相手ではない。」
さけぶ。

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