小説|ともに生きる②
ノリコは夫(敏夫)が出かけてから、しばらく寝て少し熱も下がり始めて落ちついてきた。
子供を産んでから、何もしていないことがほとんどない生活だった為、寝ているだけでは落ちつかなかった。
ノリコは体調も少し落ち着いたし、敏夫の仕事にも迷惑かけられないなと考え、子供が帰ってくる前に病院へは一人で行くことにした。
敏夫にその事を伝えようと何度か電話をしているが、まったく繋がらなかった。会議中かもしれないので、あまりしつこくかけないように、LINEのメールで病院には一人で行くことを伝えた。
「この時間ならまだ午前中の診察に間に合いそう」と思い、少しフラフラするが急ぎ気味で準備した。
病院に到着した時刻は11:15am過ぎ。混んでいたため、診察までしばらく待たなければならなかった。
ノリコはあまり動けないが座って待つだけなら、大丈夫と少し目を閉じて待っていた。
しばらくすると、遠くで聞き覚えのある声がした。
「すみません、まだ午前の診察は受け付けてますか?」
ノリコはふと目を開けると、受付に敏夫の姿があった。
「あれ?!敏夫、私のメール見て、病院に来てくれたのかしら?嬉しい♡」ノリコは敏夫の優しさに少し安心した。
そしてノリコは「敏夫!」と声をかけようとしたが、目線の先に見知らぬ女性の姿が目に入り戸惑った。
「え?誰???かしら、、、」
2人は全くこちらに気づく様子もなく、待合室の椅子に座った。そこには女性が問診票を書いていて、隣には心配そうな眼差しで寄り添う敏夫がいた。
ノリコは混乱した。
今日は午前中に会議って言ってたけど、私のメール見て来たんじゃないの?
どういうこと?
あの女性は一体誰???
でもどこかで見た事あるような・・・
昔一度会った社長の奥さん?にしては若いし、それとも職場の人で会社で体調悪くなったとか?でも、それならわざわざ敏夫が大事な会議を欠席してまで、付き添うことなんてないはず。
それとも、私の知らないところに大切な人がいるの・・??!!!
「38番でお待ちの方〜」
「38番の方〜〜???!!」
「あ!!はい。私です。すみません。」ノリコは混乱しながらも、慌てて診察室へ入っていった。
ノリコは熱以外にも、この頃耳鳴りなどの不調が続いていると話したら、念の為に少し検査をすることになり別室へ移動させられた。
ノリコは普段、主婦として家事のかたわら、将来子供の進学の為にと、15年前から習っていたフラワーアレンジメントを出産後からは仕事にして教えていた。
誰もが羨むほどの容姿端麗なノリコは、出産前まで証券会社の美人営業受付として働いていた。どの男性もはじめはノリコの美貌に虜になり、証券取引よりもノリコをモノにしたいお金持ちの男性が後を絶たなかった。
当時のノリコはそんな男性としばしばお付き合いすることもあったが、一夜を共にしたあとくらいから、男性からノリコへの想いがだんだんと冷めていく様子を感じ、繊細なノリコはそんな男性達にうんざりしていた。何度かプロポーズされた事もあったが、気が進まず最終的には断ってばかりいた。
そしてノリコ自身、もしかしたら自分の性格やSEXに問題があるんじゃないかと、自分に自信が持てなくなっていた。
そんなノリコは、ある日お客としてきた敏夫と出会った。はじめは仕事上のやりとりから、次第にお互いに惹かれあい、デートするようになった。敏夫の猛烈アピールと、いつも変わらない素直で正直な優しさに惚れた。敏夫からプロポーズされた時は、ノリコ自身も初めて心の底から結婚したいと思える相手に出会えてとても嬉しかった。
その後二人は結婚出産と順風満帆だったが、実はノリコの出産以来、二人の性生活は全くなかった。どちらかが拒否するわけでもなく、お互いに求めるわけでもなく、気づいたら息子は6歳になっていた。
ノリコはそれが問題とも思ったことはなかったが、どこか寂しいような、そんな気分になることがしばしあった。
ノリコは一通り検査を終え、お会計をして家に戻った。
いまだに敏夫のことで混乱しているが、また熱が上がってきたため、それどころじゃなかった。フラフラの身体でなんとかベットまでたどり着き、気を失うように倒れこんだ。
しばらくすると声が聞こえた
「ママ、ママ、大丈夫??」
「???」
ふと目を開けると、目の前に息子が心配そうに立っていた。
「あ〜、直弥。ゴメンね〜。ママ、ちょっとだけ頭熱くてね。でも、大丈夫よ。(^-^)」
まだ高熱はあったが、息子の前では強くいなくちゃと、ノリコは無理矢理元気なフリをした。
ふとスマホを見ると、LINEのメールがきていた。
それは敏夫からだった。
「ゴメンな!会議中で、返信遅くなった🙏💦体、大丈夫か??」
返信時刻は12:38pm。
ノリコが検査を終えて、支払いをしている頃だ。
自分が見たあの光景は幻想だったのか。。。
ノリコは再び混乱した。
そして、ふと半年前に敏夫の会社の家族やパートナーも参加するBBQを思い出した。
「あ、あの時、新人の営業って言ってた女の子・・・!」
病院にいたのは間違いなくあの子だったのをノリコは思い出した。
でも、なんで?!敏夫がわざわざ連れてきてるの?
それに彼女は普段着だったし、仕事してるような服装じゃなかった。
なぜ??、、、、
考えても答えにたどり着かない、まるで出口のない迷路の中に入ったようだ。
ノリコは敏夫の真直で正直な性格に惚れて、今まで信じて一緒にいた。それに、なにより息子もいるのにそんなに簡単に裏切るとは思えなかった。
が、、、
ノリコは直感的に敏夫がメールで嘘をついてるのが、なんとなく分かった。
なにもこんな時に、、、と、疑問や不安で整理がつかない複雑な気持ちになり、ノリコは心身ともに疲れ果て、再びベットで寝込んだ。
「おーい、ノリコ?!ノリコ?!」
ノリコは少しうなされながら熱のある身体と闘っていた。
敏夫の呼びかけに返事することなく、苦しそうに喘いでいた。
敏夫は「今日は悪かったな。」と独り呟きながら、ノリコの傍で必死に看病した。
「ママ、大丈夫かな??」
心配そうな眼差しで息子は父親に聞いた。
「大丈夫だよ。パパがママを守るよ。」
敏夫は息子を寝かせて、今日はノリコの傍で看病しながら寝ることにした。
……続く