短編小説|ある踊り子の話
ある踊り子は
湖のほとりに立っていた。
すると、向こうからポンポンと
泡立つような音がした。
「誰かいるの?」
踊り子はまだ見ぬ何かに話しかけた。
すると音が消えた。
踊り子は自分の胸に刻まれたマカーム(音階)に合わせて踊り始めた。
すると、さっきの泡がゴボゴボ、ブクブクと微妙に音を変えながら泡を立てた。
踊り子は気にせず踊った。
そのマカームは涙という名前だった。
泡が大きくなりやがて渦になった。
渦はどんどん大きくなり
踊り続ける踊り子を囲んだ。
踊り子が動くと渦も一緒に動いた。渦は踊り子を水の中に入れないように、踊り子を護るように動いた。
自由に動き続ける踊り子は、やがて踊りをやめた。
踊り子は自分がどこにいるのか分からなかった。周りには水の壁しかなかった。
すると、水の中に1匹の大きな魚が、踊り子のまわりをグルグルと回り始めた。
魚に釣られて踊り子は楽しくなって、また踊り始めた。魚が行く方に踊り子もついてった。
ふと気づくと、踊り子は大きな光に包まれていた。