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自分の面白いと思う方へ―文理選択に悩む若者に伝えたい、地域コーディネーター・坂下佳奈さんのお話 ―

>坂下佳奈さんのプロフィール
地域コーディネーター。富山県出身で長野県木曽町在住。関係性のデザインをテーマに地域プロジェクトに関わる。大学時代にESDプラクティショナー(ESD:持続可能な社会を考える教育)を取得し、社会の中で学ぶ場に興味をもつ。印刷会社勤務を経て、木曽町地域おこし協力隊(2021年3月卒業)に着任、コワーキングスペース「ふらっと木曽」の立ち上げ・運営に携わる。2020年より木曽地域の新しいもの・ことをつくる「里らぼ」を企画・運営。本好きで、本を媒介にして人をつなげるプロジェクト「本を返す旅」などをも企画・運営する。

【文理選択に悩む高校時代と大学選択】

― 人生の岐路や進路選択について教えてください。

小学校のときに本を読むことが好きで、特に車に引かれた狸の「ぽんちゃん」をトラックの運転手が助ける実話が書かれた『生きるんだぽんちゃん』という物語が好きでした。担任の先生が話してくれた生い立ちを文章で表現する授業があって、そこで書いた文章を褒めてもらえたことや、作文で大賞を取ったことがとても嬉しくて、昔はジャーナリストになりたいって思ってたんですよね。

ー小さいことかもしれませんけど、そういう褒めてもらえて嬉しかったという体験が、後々の進路選択するときに効いてくるんですよね。

そうですね。でも、中学生の頃は猿が好きで、将来は猿回しをする猿の調教師になりたいって言ってたんですけどね。

―あ、そうなんですね。(笑)猿が好きだから動物園の飼育委員じゃなく、調教師なんですか。(笑)

調教師でしたね(笑)当時は猿回しの給料や調教師になる方法についてかなり調べてました。

ー猿の調教師を目指していた中学生の頃は、どのように進路選択をしましたか。

調教師は一時の興味対象だったので、現実的な進路についてあんまり深くは考えていなかったんです。だから、自分の成績を見つつ、仲の良い友達が目指していた高校を受験し、進学しました。

ー高校生の頃の生活はどのようなものだったのでしょうか。

自分が高校時代に悩んだことは、高校1年生の頃に決めなくてはならない文理選択でした。正直「両方ともつながってる部分があるんだから、文系と理系に分けれないじゃん。なんで2つに分けるの。」って思っていました。(笑)

―それ、私も高校生の時に思いました。(笑)文系も理系も学びたい人にとっては、文理選択によって、学びが浅くなってしまうのはとてももったいないですよね。

私は数学や理科がわりと得意だったので理系が向いてるなと思いながらも、社会学には興味があって、将来ジャーナリストになるなら文系なのかなと悩んでいました。結局、自分が将来なりたい方向へ進むために文系を選びました。

―「得意なこと」と「得意ではないこと」、「興味のあること」と「興味のないこと」という4つの基準があって、得意ではないけれど興味のある教科や、得意だけれどあまり興味のないものとして認識している教科があると、文理選択に悩みそうだなと思いました。

―文系を選択し、高校3年生の頃の進路はどのように選択されましたか。

実家を出て、一人暮らしができるくらい遠くへ行きたかったんですよね。中学生のときに親が大阪に単身赴任していて、大阪に遊びに行った際に、大阪のノリが好きだなと思っていたので、行くなら東京じゃなくて大阪の大学だなと思っていました。

―大阪のノリが決め手だったんですか。(笑)

そうですね。大学は関西に行きたいというのと、文系も理系も学べる学部にこだわってましたね。最終的には文系も理系もある神戸大学の発達学部に入りました。

―ジャーナリストなら文系に進まれるのが一般的かと思いますが、選択の際に文系も理系も学べる大学を選んだのはどうしてだったんでしょうか。

大学選択で興味の幅を狭めるよりも、自分が面白そうな分野に出会える余地を残しておきたかったんだと思います。でも大学に入ってみると、文系の学部に所属していても別の学部の勉強をしている人もいるし、興味のある分野が変わる人もいるから、そんなに気にする必要もなかったのかなとは思いましたが。

― なるほど。確かに、大学では必修科目を学んでさえいれば卒業ができるので、自分の学びたい科目の講座を取れば講義に出ることができますね。私も文系も理系もある大学に行ったのですが、医学部や工学部などの学生と関わることができたのはとても面白かったです。一緒に子どもキャンプをしたんですが、子どもたちに対する見方や物事に対する考え方が違うから、子どもの行動を多様に解釈できることに気が付きました。


【人の生き方に興味がありました。】

大学は、文系も理系もある学部へ入ったんですが、結局は社会学について勉強していました。(笑)

―あ、そうだったんですね。

ただ、社会環境を分析する視点を持ちながら、人間心理など個々にもスポットをあてて考えることができる学部だったので、それは面白かったです。

ー人そのものや、人の行動に興味があったんですか。

そうですね。人の生き方に興味がありました。そうそう、私は個人商店が好きなんです。個人商店があることが、私が木曽町に移住してきた理由の一つでもあるんですけど。
お店の空間にその人の生き方や価値観が出ているのが好きで、その人の話を聞いて「この人はこういうことを経験して、だから今ここがあるのかな」と聞きながら考えるのが好きで。そういうことには未だに興味があります。

―私も人の価値観を知り、その背景について考えるのことが好きなのでとても共感してしまいます。坂下さんが個人商店に訪れて人の話を聞いて感じる「好きだな」という感覚はどのような感覚ですか。

人の話を聞くと、自分が全く見てこなかったものを見てきているから、同じものを見てても違うことを感じるんだと思うし、それに出会ったときに「そんなふうに思うんだ」とか「そんな世界があるんだ」っていうことを知れるのが楽しいという感覚だと思います。

商店街の近くにずっと住んでいました

それから、なぜその人が今それをしているのかという、現在に至るまでの道筋を知って現在の行動や信念と過去との関連性を知るのが好きです。私は昔から地理が好きで、地理って地形や歴史や気候が繋がって答えが導かれるのが面白いんですよね。人の話を聞くのも、そうやっていろいろなことが繋がる瞬間があってその面白さを味わえるから好きなのかもしれません。

―坂下さんは個人商店がお好きとのことでしたが、個人商店のどこがどのように惹かれるのでしょうか。

顔が見える人から物を買える安心感があるところは、まず好きですね。私自身がご近所付き合いに憧れがあったのかもしれないです。あとは、日々の生活の中に溶け込んでいる場所で、そこに来る常連さんにお店のことを教えてもらったり、常連さんにどのような接し方をしているのかなどからそのお店の人の人柄について知ったりとか、レイアウトや人間関係、人柄とかそういうものが一つの空間にぎゅっと詰まっている感じとかが好きなんです。

―ミニチュア版の家があるじゃないですか、昔だとシルバニアファミリーみたいなおもちゃとかがその典型だと思うのですが。実物大の家を見たときは迫力に圧倒されますが、ミニチュア版の家を見たときは全体像を見られるから安心できるみたいな、そういう感覚ですかね。(笑)

その喩えは面白いですね。(笑)

―その反応は、たぶん坂下さんの意図と違っていますね。(笑)

いやいや、そういう感じだと思います。

ーじゃあ、そういう安心感ってことにしておいてください。笑

【興味を持って体験していたことが今に活きる】

坂下さんは、子どもたちの探求塾「KISO BASE SCHOOL 」をされていらっしゃったとのことでしたが、いつから、どのような活動をされていたのでしょうか。

地元の4年生から6年生までの小学生5人と一緒に2018年の夏から2020年の3月まで、毎週定期的に開催していました。探求塾では、「社会の中で学ぼう」をテーマに、商品の開発をしたり、自分たちでカードゲームを作ってみたりしていました。

ー面白そうですね。探求塾の活動の具体例を一つ教えていただけますか。

人狼ゲームに新しいカードを加えるならどのようなカードが良いかと考えて、子どもたちが新しいカードを作り、そのカードを使って実際にゲームしてました。

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最初は、商品開発というテーマを持ちつつ、基本は自分たちのやりたいことやっていきました。

ーどうして探求塾をやろうと思われたんでしょうか。

その頃、ちょうど教育に興味のある大学生に出会ったことや、地元のお母さんたちと話をしているときに、20から30代の親ではない年齢層のお兄ちゃんやお姉ちゃんが教えてくれるような塾や活動があったらいいよねという話をしていたことがきっかけだと思います。
私は大学時代にESD*について学んでいて、当時は市民と科学者が対話する場や子どもたちが農業体験をするイベントに参加していました。地域社会で学ぶ場に触れる中で、子どもと大人が出会うのは双方にとってとてもよいことだなと思っていました。だから、塾をするなら、教科を教えるよりも、地域社会で子どもと大人が学ぶようなことをしたいと思っていました。

ESD*(Education for Sustainable Development):持続可能な社会の創り手を育む教育のこと。2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で日本が提唱した考え方であり、ユネスコを主導機関として国際的に取り組まれてきました。持続可能な社会とは、今生きている人たちが豊かに生活できればよいのではなく、これから生きていく人たちも豊かに生活していけるようにするために、身近なところから自分たちのできることをしていこうとする社会のこと。(文部科学省「持続可能な開発のための教育」より筆者抜粋・編集)詳細は、記事最後へ。


ー結果的に、大学時代に学んでいたESDや、その教育に触れて興味を持ち参加した様々な体験を通して感じていたことが現在の活動に活きているんですね。

ー探求塾の実践について、子どもたち主導で活動していくためにサポート(支援)の仕方を工夫されたのではないかと思うのですが、実践時はどのようにサポートしていかれたんでしょうか。

押し付けない、否定はしないなど「◯◯はしないようにしよう」と最低限のルールだけは考えて活動していました。私自身が子どもたちに教える経験はなかったので、やり方を提示するのではなくて、「こうやったらいいんじゃない?」という選択肢を多く提案をしようと思いながらサポートしていました。

ー最低限のルールがあれば自他の自主性や自由を守ることができますもんね。

あとは、商品開発をする際に、段階的なワークを設定していました。新しいことを生み出そうとすると、今既にある物を前提に考えてしまうので、発想を飛ばすために、今ある商品はどんなもので、10年後にはその商品がどのように変わっているんだろうと考えるワークショップ(活動)をしました。そのワークショップの後は、実際に商店街でどんな商品がどんな人によってどのように売られているのかを観察する活動をしました。そうすると、自分で商品を作ってみたいと言ってくれた子どもがいたので、その子を中心に、私も一緒に商品を考えて商品開発をしていきました。

kisobase_取材_喜しろう

ーなるほど、確かに無から何かを生み出すことはできないし、かといって既存の物だけ見ていても同じものを作ることになってしまいますもんね。探求塾は2020年までで終了されましたが、今後も探求塾のようなことをされたいと思っていますか。

そうですね。集団ではなく、個別に対話しながら、探求塾でやってたようなことをできればいいなと思っています。地域の中に面白い大人たちがいるのでそういう人々と連携しながらできたら面白いなと思っています。

ー私も地域おこし協力隊の活動を通して、アンテナを張っていろいろと情報収集していると、これからの社会をもっと面白く創造していこうとされている方々がいらっしゃることに気づかせて頂いています。ちなみに、集団じゃなくて、今度は個別にサポートされていきたいと思われた理由やきっかけは何だったのでしょうか。

意見交換したり、それそれにとっての刺激があったので、集団でやっていたからこそよかった点はたくさんありました。ただ、複数人いると、個々の話をじっくり聞く前に、事前にこちらでワークなどを用意することも多くありました。それによって、子どもたちの進む方向性を決めてしまうことになってしまい、子どもたちの自主性を制限してまっているのではないかと感じていたからだと思います。それから、子どもたちは優しい子が多く、よく主張する子どもの意見が集団の意見として採用されてしまうようなこともあったので。

ーまさに、授業をする先生方が悩むようなことではないかと思います。授業をする際、子どもたちが授業を通じて何を学んで欲しいかを考えて学習目標を立てるんですが、それによって、子どもたちの学びの方向性を操作してしまうようなことが起こることもあって。笑 本来、学びを意図することはできるけれど、その結果、子どもたちが何を学ぶかは管理できないんですよね。

ー最後に、進路選択に関わり、子どもたちに伝えたいことはありますか。

楽しいなとか面白いなと思うこと、自分の好きなことや興味のある分野を大切にしてほしいなと思います。周りにいる面白そうな人の話を聞くことがけっこう参考になるんじゃないかなと思います。地域の怪しそうじゃないおじちゃんおばちゃんとかに。笑

大好きな農家さんがふらっと木曽にて販売中

ー怪しそうじゃないかどうか判断するのは難しいですね。笑

そうですね。笑
例えば、授業などで大人に会う機会があったら、いろいろ聞いてみてはどうでしょうか。間違えたことや失礼なことを質問してしまうんじゃないかと心配せず、率直に聞いてみていいと思います。

ー人によるかもしれませんが、もし私が子どもたちが最も知りたいと思っていることを自分の言葉で質問してきたら、嬉しいと思います。子どもたちに言うからには、私もどんどん質問していきたいと思います。さあ、インタビューの第2ラウンドを始めますか!

今日はここまででお願いします。笑

ーそうしましょう。笑

ESD*(Education for Sustainable Development):持続可能な社会とは、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等、人類の開発活動に起因する国際社会の様々な問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来も恵み豊かな生活を続けていけるように、身近なところから取り組むことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動です。ESDは、2015年に国連サミットで国際社会全体の目標として定められた持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進する」のターゲット4.7に位置付けらているだけではなく、SDGsの17全ての目標の実現に寄与するものであることが第74回国連総会において確認されています。(文部科学省「持続可能な開発のための教育」より筆者抜粋、編集https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm)