フリーライターはビジネス書を読まない(14)
インタビューが始まった
ダサいことこの上ないラジカセの、録音ボタンを押した。
ここにいる全員の認識を統一するために、編集者が企画の趣旨をあらためて説明する。
そしていよいよ、インタビューだ。
編プロの社長が、項目案に沿って「○○について、お話をお願いします」というと、証券アナリストが自分の経験と知識を話すという流れで始まった。
話の成り行きで、横道にそれることがある。それでも社長は、敢えて元に戻そうとはせず、話したいように話させているようだった。
「横道にそれた話には、思わぬ情報が隠れていることがあるんですよ。それを本文にうまく盛り込めたら、内容の価値はグンとアップします」
インタビューが終わってから、社長はそう教えてくれた。
後々、インタビューの経験を積み重ねるにつれて、このときの教えがまったくその通りだと実感することが何度もあった。
時間の制約があってインタビュー時間が短いときでも、横道のほうが面白そうだと感じたら、企画から外れていない範囲で採用した。その時点で、あらかじめ用意していった質問リストを捨てることも珍しくない。
この日のインタビューは2時間弱で、いったん切りあげられた。日帰りで出張している私に、社長が配慮してくれたのだった。
私が立ち会うインタビューは、これが最初で最後。あと3~4回予定されているインタビューのたびに私を出張させるには、最終的に交通費を出す出版社の負担大きいのだ。
2回目以降は社長がインタビューして、音声を録音したテープを大阪へ送ってもらう。私はテープの音声を文字に起こしてから、項目案に沿って原稿を書くわけだ。
今ならICレコーダーで録った音声データを、宅ふぁいる便とかギガファイル便で送れるし、音声もクリアだから、受け渡しも文字起こしもずいぶん楽になっている。
だが当時は、万が一の事故に備えてテープのコピーをとってから郵便で送っていたから、どんなに急いでも届くまで2~3日かかった。
出版社を出たら、日が暮れていた。
新宿だから、タクシーはすぐに拾えた。社長と一緒に乗って東京駅へ向かう。
駅に着いたら、指定席を予約した新幹線の発車まであと15分。
「どうもお世話になりました」
「3項目ほど書けたら、とりあえずプリントアウトだけ送ってください。それでは、お気を付けて」
慌ただしく別れの挨拶を済ませ、私は新幹線の改札へ走った。
(つづく)