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クライアントが飛んだ! ギャラはどうなる?

「フリーランスライターのブツクサひとり言」第28回

経験の浅いライターが案件をこなしきれず、相談したりヘルプを求めたりできる相手もおらず、思い悩んだ末に行方をくらまして連絡がとれなくなることが、しばしば起こります。

いわゆる「飛んだ」という状況ですね。

絶対にやってはいけないことなのですが、説教めいた話はしません。
今回はクライアントが飛んだという、ウソのような本当にあったお話です。

ゲームを制作している会社から、ゲーム台本の企画書を依頼されました。企画といっても私がゲームの企画を立てるのではなく、すでに出来上がっている素案に文章表現のおかしいところがあったら直してほしいという、校正とリライトをミックスしたようなミッションでした。

事件は納品後に起こりました。
私と会社との窓口担当になっていた社員が、突然退職してしまったのです。もっとも退職や人事異動で担当者が替わることは珍しくありません。後任者に引き継いでもらえれば、こちらとしては何ら問題ないわけです。

ところが、後任者が誰なのか知らせてこないし、納めた原稿もOKなのか直しが必要なのか、いっこうに連絡がありません。

退職した元担当者とは個人のメールアドレスで連絡が取れたので、現状どうなっているのかを問い質したのです。

間もなくクライアントの後任者を名乗る人物からメールが届いたのはいいのですが、内容に仰天しました。

「会社と揉めて辞めていった奴が勝手にやっていたことだから、この仕事は白紙に戻す。報酬は発生していない


クライアントとの窓口になっていた社員が会社と揉めて退職していた

どうやら元担当者と会社との間で、何らかの揉め事があって退職したようです。が、仕事は仕事。発注を受けた内容もメールで残っています。

しかし後任者は「発注していない」の一点張りで埒があきません。
仕方がないので元担当者に状況を説明し「元はあなたが担当していた案件だから、責任をもって対処してください」と、やや厳しめのニュアンスを含ませた文面でメールを送りました。

元担当者が「もう私には関係のないこと」と逃げなかったのが幸いでした。
原因は分からないしどちらに非があるのか分からないものの、揉めた挙句に退職した会社へは行きづらいでしょうに、会社へ乗り込んで話をつけてくれたのです。

後任者から、ギャラの支払いを約束することと今後もよろしく的な文面のメールが届きました。
ギャラの支払いは当然に受けるとして、今後もよろしくのほうは、こちらからお断りです。
「社内の揉め事で外注ライターを巻き込んだことは甚だ遺憾に存じます。御社との取引につきましては、今後一切お請けいたしかねます
このようなメールを送っておきました。

今回の件は「飛んだ」といっても、退職した前任者が責任を果たしてくれたことが幸いした、ひじょうに稀有な例だと思います。たいていは、そのまま逃げられてしまいます。相手が企業なら、法的な手段に訴えてでも取り戻せる可能性はあるものの、時間と労力と精神的負担が小さくありません。
ましてや個人が相手だと、行方が分からなくなったら探し出すことさえ困難になります。取り戻す金額と、そのためにかけるべき負担を天秤にかけて、被害が少ないほうを選択せざるを得ない判断を迫られることもあります。

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