クライアントがギャラを払ってくれなかったときのオハナシ
「フリーランスライターのブツクサひとり言」第22回
原稿を納めたけれど、クライアントがギャラを払ってくれない。ライターを長年やっていると、稀にそういう事態に遭遇します。
「あわよくば踏み倒してやろう」という悪質な確信犯がいなくはありませんが、原稿依頼を受けたときの意思疎通が不十分なせいで、クライアントのほうが何らかの勘違いをしているパターンが多いように思います。
こんな事例がありました。
とある零細新聞社(現在は廃業)の社長が文章勉強会を企画したというので、参加を申し込みました。
当日、会場に行ってみると、ライターの参加者は私だけ。読書の参加者もいて、これも1人だけ。つまりたった2人しか、参加者がいません。
勉強会が成立するはずもなく、予定された時間の大半は雑談で費やされました。でも、せっかくだからというので、社長から課題を出されて、それについて原稿を1本書くことになりました。
読者の参加者は素人さんですから「勉強だと思って、書いてみてください」と社長は言いました。そして私に対しては「プロですから、正式に原稿依頼とします」ということで、1週間後に提出することになってその日は解散。
1週間後、私は原稿を書き上げて社長へ送りました。まもなく修正のFBがきたので対応し、掲載を待っていました。
通常なら翌月号には掲載されているはずですが、掲載されていませんでした。印刷日の関係で、次の号へ回されたのかもしれないと思いましたが、次号でも掲載されません。
おかしいと思って社長に問い合わせてみると「あの原稿はあなたの勉強のためと言いましたよね。掲載できません」という回答です。
音声を録っておかなかったことが悔やまれましたが、後の祭り。
「私には原稿依頼だとおっしゃいましたよ。掲載しないのなら、制作実費を請求します」
「言っていない」
「言いました」
「言っていないってば」
こんな感じの典型的な水掛け論で埒があきません。
社長の本音は、うっすらと分かってはいました。会社の経営が慢性的に赤字で、創業以来一度も利益を出したことがありません。このときも危機的な状況にあったので、わずか数千円の原稿料すら出さずに済むなら出したくなかったのでしょう。
そういう状況なら支払いを待ちますからと伝えても、いったん振り上げた拳は下ろしづらいのが人情です。
話し合いが平行線のまま半年が過ぎました。そんなある日、社長から連絡がありました。
原稿料を払うというのです。
資金繰りが改善したのかどうか、私には知る由もありません。が、原稿は結局掲載されなかったので、業界の慣例に倣い制作実費として原稿料の6割を支払ってもらいました。
さて、その後です
支払に関して不誠実な態度があったことと併せて、半年にわたって係争していましたから、信頼関係はすっかり壊れています。
ですから、その新聞社とのライター契約は解消となりました。
それから間もなく風の噂で、その新聞社が倒産したことを知りました。
この事案から得た教訓があります。
それは、クライアントとのやりとりは、必ず音声を録っておくこと。
電話や対面を問わず、必ず音声を録っておくと、あとから「言った」「言わない」の不毛な対立を避けることができます。
トラブルが発生したときの証拠にするためですから、音声を録る際はICレコーダーを内ポケットに忍ばせて隠し録りでいいと思います。