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詐欺メールを返り討ちにした武勇伝なんぞを
「フリーランスライターのブツクサひとり言」第27回
独立・開業情報を掲載する「アントレ」という雑誌は、かつて無料で広告を掲載できるスペースがありました。
わずか数行のテキストだけの広告でしたが、掲載しておくと月に数件の問い合わせが来たものです。
あるとき、広告に載せたアドレス宛てに短いメールが届きました。
<アントレでみた。学生でも成功した方法に興味ありませんか。>
本文は、たったこれだけ。何かの勧誘と思われましたが、メールの主は素人でしょう。
ここでイタズラ心が湧いて、からかってやることにしました。

「日々いろいろなことに成功して今日があります。学生が成功した方法とは何でしょうか?」と返信してみました。
しかし、その日も翌日も返事が返ってきません。
諦めがよすぎるじゃないかと思っていたら、3日目に返事が来ました。
<メールに慣れていないから時間がかかった。簡単な販売です。>
文面がぶっきらぼうなのは、文字を打つことに精いっぱいで言葉遣いまで気を遣えないのかもしれません。
「簡単な販売とは何ですか? 何を売るのですか?」
返信しましたが、すぐには返ってきません。こんどは3日を過ぎても返事がありませんでした。
1週間ほど過ぎた頃、1通の封書が届きました。例のメールの主からです。
メールを打つのに時間がかかるから手紙を書いたといいます。
「何を売るのか?」への回答が書かれてありましたが、要するにマルチまがい商法でした。いわゆる「ねずみ講」です。
私を勧誘して商品を売りつけることに成功したら、メールの主にマージンが入る仕組みでした。また、私が誰かを紹介して商品を売りつけたら、私とメールの主の両方にマージンが入るから、お互い一緒に稼げると書いてあります。
冷静に考えたら必ず破綻する仕組みなのですが、メールの主はすっかり信じている様子でした。
よーし、返り討ちにしてやろう。
そう決意した私は、メールの主にこんな返事をしました。
「貴殿は勧誘があまりお上手ではないようです。そこで、ご提案があります。あなたのビジネスをお手伝いいたしましょう。チラシをつくりませんか。料金は○○万円。半額前払いで」
たぶんメールの主も察して諦めるだろう。そう思っていたのですが、なんと「お願いします」と返事が来ました。
まさか乗ってくるとは思わなかったので、いささか面喰いました。しかし、せっかくなので稼がせてもらいましょう。
チラシの原稿のようなものをつくって送ってあげたら、思いのほか気に入ってくれたみたいで、その後2度3度と繰り返し発注してきたのです。こうして返り討ちは成功し、そこそこ稼がせてもらいました。
さて、私がつくったチラシが、はたしてメールの主の売り上げにつながったかどうか。興味がないので聞きもしませんでしたが、4度目の注文を最後に連絡が途絶え、こちらからの問いかけにも返事が一切なくなってしまいました。
あれから20数年、詐欺メールを削除しながら今も時折思い出すことがあります。