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クリスマスヒーロー《赤》#あなぴり 企画
《前半》Marmaladeさん
わたしの名前はフランボワーズ、猫の世界に生まれた。当然、猫語は母国語だ。他にも日本語、英語、フランス語、そうそうこびと語も操ることができる。まあ猫としては当然のことだ。ショートヘアでジンジャー(赤毛)の毛並み、瞳は緑、足先だけ真っ白なの。自己紹介はこんなところでいいかしら。
ひと月に一度のご褒美時間、それはお気に入りの本を片手に1人過ごすカフェの窓際、夏でも冬でも必ずクリームソーダをお供に。エメラルドグリーンのソーダはしゅわしゅわと金色の気泡を立てている。その上には真っ白なヴァニラアイスクリーム、真っ赤なさくらんぼがあらぬ方を向いて乗っている。そのさくらんぼを見つめながら、あの日の出来事を思い出していた。
わたし、すごく嫌な猫だった。
どうしてあんなこと言ったんだろう。
何度となく後悔することが猫にはあると知ったのは、自分が大人になったせいなのか、それはまるで、お気に入りの赤いセーターを着るたびに少しチクチクしてしまう、そんな些細な気持ちではあったけれど。
∵
アイスクリームが溶けかかっている。滑り落ちたさくらんぼがソーダの中にゆっくりと沈んでいく。はっと我にかえって、せっせとアイスクリームを食べると、つきんっとこめかみに痛みを感じた。その瞬間、何が起こったんだろう。フランボワーズの世界が赤く染まっていった。
✨🎄✨
《後半》しめじ
今日はクリスマスイブ。
お気に入りのカフェでクリームソーダを堪能している時、異変が起きた。
世界が赤く染まっていく。
なに、これ?
やがて、赤で埋め尽くされた視界からうっすらと何かが見えてくる。
吹き飛ばされた内臓、額に穴の空いた人の頭、その二つの映像を映すモニター。
クリスマスツリーの中で数字を刻むデジタルの時計、散弾銃をゴルフバックにしまう男、モニターを睨む肌の白い美しい女。
どうやら視界に写った映像は、場所が切り替わりながら逆再生されているようだ。
モニターを睨む若い女の顔がアップになる。
えっ、あっ、これはカオルじゃないか!
顔は整形でもしたのか、記憶の中の彼女とは違う。
でも、わたしには判った。
眉のちょっとした動かし方、心に動きがあると耳朶を触る癖、そして何よりも瞳の中の瞳孔の揺れ。
人間には判らなくてもわたしには判る。
わたしの元いた場所の宿主のひとり。
本当は今でも帰りたい場所。
今、見える彼女は異様なオーラを醸し出していた。
「人殺しっ」
わたしは彼女にそんなことを言ってしまった。
お気に入りの赤いセーターを編んでくれたのはカオルだった。
カオルはいつもわたしに優しくしてくれてたのに。
でも…… カオルの双子の姉ヒカルが、カオルとの喧嘩の挙げ句、電車に跳ねられて死んでしまったと聞いた時、思わず口に出してしまった言葉。
気持ちが治まらず、カオルに謝ることが出来なかったわたしは次の日、家を出た。
逆再生の映像は続いている。
スーパーマーケット、駅の構内、暗い部屋。
逆再生の映像は、3ヶ所を切り替えて写されている事に気がついた。
含み笑いをするツカサのアップで映像はストップすると、徐々に元の景色が戻ってきた。
いつの間にか友達のこびとさんが、クリームソーダの入ったグラスの縁にちょこんと座っている。
「今のは予知夢だよ」
「えっ、予知夢?」
「そうさ、ワシが昨日見た予知夢をキミにも見せてあげたのさ」
そういえば、こびとさんは未来を予見する力があると言っていたっけ。
「で、なんなの今の趣味の悪い映像は?」
「今日これから実際に起こる出来事だよ」
「これから?クリスマスイブだというのに?」
「そう。だから事件を起こすヤツと関係のある人に見せてあげたのさ。だからキミだけじゃない」
「たいへん、急いで止めさせなくちゃ!」
「ちょっと待て!そう慌てなさんな。キミひとりじゃ止められないだろ」
「だって、急がないと……」
「だから予知夢の映像を見せたのはキミだけじゃないって言っただろ。ほら、後ろの席を見てごらん」
後ろを振り向くと、カメラを首に下げた男の人と、その隣にまだ幼い男の子がペコリと頭を下げた。
「さあ、キミ達が世界を救う英雄となるのだ」
こびとさんがそう言うと、ちょうど開いた自動ドアから白い鳥が入ってきた。
「ウミネコ君だ。さて、頼んだ物を持ってきてくれたかね」
ウミネコと呼ばれた鳥は、口に加えた何色かの布をわたしの座っているテーブルに落とした。
「ミャーオ」
ひと声鳴くと、わたしの前で2回白い翼をはためかせてから飛び去っていった。
「そう、これこれ。緑のセーターがタケル、白のセーターが哲也、それで猫用の赤いセーターはフランボワーズ。そしてワシのは、こびとの職人に特注で作らせた金色のセーター」
わたしにはピカピカの金のセーターの事などどうでも良かった。
「えっ、どうしてこれあるの?」
「フェイシア、いやっ、キミが知っている名前はカオルだったな。彼女が家で大事に保管していたのを、ウミネコ君にこっそり持ってきてもらったのさ。他の二人のはデパートの服売り場からちょっと失敬してきた物だけどな」
わたしはカオルが編んでくれた赤いセーターを前にして、涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
「この二人を連れて来るのはたいへんだったんだぞ。ほんとに人間ってのは理解力が低い。予知夢の映像を見せて説明してやっているのに、哲也はポカーンとしているし、タケルの方はママーって泣きじゃくるばかりだし。それにワシが日本語上級者だったから良かったものの、他のこびとだったら永遠に埒があがらん状態だったぞ。もう、そろそろ人間の方もこびと語を必修にして欲しいわ」
こびとさんは白い顎髭を撫でると、溶けかけのアイスクリームに手を伸ばし、片手で掬って口に運んだ。
「それでは3人ともそのセーターに早く着替えなさい。君達はこれから英雄になる。そしてヒーローというものは自分のカラーが決まっているものだからな。フランボワーズはカオルのとこへ、哲也は健吾、二人はワシがテレパシーで詳しい場所は案内する。そしてワシはタケルの肩に乗って、一緒に菜穂子の元へ向かう。さあ、急げ、ヤツらの心を動かせるのはキミらしかいないのだ」
赤、白、緑のセーターを着たヒーローとなるべき2人と一匹、そして小さな子供の肩に座る金色のセーターを着たこびと。
各々が担当する人間を説得しに向かった。
彼らの表情は逞しく、決意に充ちたものだった。
2024年12月25日。
人々は例年と同じように、頬っぺたを真っ赤に染めながら幸せそうな笑顔を浮かべていた。
《赤》おわり
この記事はピリカさん企画の参加作品です。
前半部分はMarmaladeさん
後半を私、しめじが書かせていただきました。
この記事をお読みいただいておいてなんですが、この記事は一連の企画の、しめじ作品最終話です。
順序としては、〈緑〉→〈金〉→〈白〉→〈赤〉
の順に読んでいただく事をおすすめ致します。
最後に
久しぶりにこんなに楽しく企画参加できました。
ピリカさんはじめ、紫乃さん、ゆりさん、マーマレードさん、ありがとうございました🎵✨🎄✨🐒
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