赤い風船の女の子とママの匂い
ママと一緒に遊園地に来た。園内は楽しそうに笑う親子でいっぱいだ。
ママはさっきから落ち着きがなく、そわそわキョロキョロしている。
ボクは高い所が苦手だからママに観覧車に乗るか訊かれたけど、丁重にお断りさせていただいた。
どうしようかとベンチに腰掛けたタイミングでちょうど目の前を通った女の子の手から赤い風船がするりと逃げていった。
風船に逃げられた子供は大概、その風船を見上げながら大泣きするものだけれど、その子は泣いたりなんかしなかった。
女の子の手からすり抜けていった赤い風船は、真っ青な空に向かって飛んで白い雲の中を抜けて行った。
風船は赤い点となり、尚も空を上がってゆく。
空に吸い込まれてゆく光景にボクは恐怖を感じる。
だって空より高い所なんてないからね。
このまま自分も吸い込まれてしまいそうな感覚に耐えきれず、ママのセーターの袖にしがみつき、顔を埋める。
ママからはいつもと違う香水の匂いがした。
青い空のずっとずっと向こうまで飛んで行った風船が、真っ暗な宇宙にまで吸い込まれ、その暗闇の果てしない奥の奥のそのまたずっと奥まで呑み込まれるのを想像して身を縮める。
自分も吸い込まれないようにママのセーターの袖をぎゅっと掴み直す。
ママの腕から離れてはいけない。
この手を離したらママがどこかへ飛んで行ってしまうかもしれない。
ふと風船を飛ばしてしまった女の子を見た。
空を見上げたその瞳は、何かを期待しているように輝いて見えた。
ボクと同じくらいの歳に見えるその女の子は、母親に手を引かれて観覧車の方へと歩いて行った。
ママが急に立ち上がって手を振った。
嬉しそうなその瞳の先には、満面の笑みでこちらに歩いて来る知らないオジサンがいた。
一瞬、ママから甘い匂いがしたような気がした。
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