◆不確かな約束◆しめじ編 第8章 中 不快な予言
「行きたい店があるから付いてきて」と言われて、シオリさんの車を運転して到着したのは馬肉専門店。
「えーっ なんでよりによって、お馬さんなのよーっ。私ぜったい無理だから」
「ユキちゃん 何言ってるのよ。もうここにいるお馬さんのお肉は、お亡くなりになっているのよ。私達が食べなくても、他の誰かに食べられちゃうの。だったら、誰よりも感謝できる私達が食べて、成仏させてあげた方がいいでしょ」
「そうよ ユキちゃん。それにお馬さんのお肉はとっても美味しいんですよ。私なんか子供の頃から大好物なんだから」
シオリさんとリコちゃんに引っ張られるようにして、私は店内に連れていかれた。
「じゃあ とりあえずカンパーイ」
「おつかれさまー」
シオリさんと私、それからマサル君とナオキ君の4人はビールで、リコちゃんとリュウヘイ君はウーロン茶で乾杯した。
リコちゃんは未成年だからお酒は飲めないので、帰りの運転を任せる事になった。リュウヘイ君は全くお酒が飲めないらしく、男性陣が乗ってきた車の運転手という事になった。
「しかし、いつも飄々としてるナオキがあんなにビビりだったとはな。やっぱり誰にでも弱点ってあるもんだな」
「マサルなんて、ずうたいデカイだけの筋肉バカじゃねえかよ」
「そんな事言ったら、リュウヘイなんかさ、ちょっと勉強できるだけで、ひょろひょろだし、成人式の後、みんなで酒呑んでたら顔真っ赤にして、身体中に蕁麻疹みたいなのいっぱい出来て倒れちゃって、救急車呼んだ事あったじゃねえかよ」
「やだーっ 危ない。どうせマサル君が強引に飲ませたんでしょ」
「強引になんて心外だな。まあ 否定できないところではあるけどな」
「お待たせ致しましたー。馬刺しの盛り合わせです。こちらが赤身、こちらが霜降り、こちらがフタエゴ、そしてこちらがタテガミでございます」
「おーっ うまそー。馬だけにね。なんちゃってー」
「ハハハハハッ もーっマサル君たら、ひどいオヤジギャグ。ホントはもう50過ぎくらいなんじゃないのー?」
「リコちゃん、ひどいなー。俺ら3人ともピチピチの27歳でーす」
シオリさんは黙々とひとりで食べ始めた。
「あっ 美味しいっ。何これ。フタエゴってコリコリしてる。ユキちゃんも早く食べてみなさいよ」
「えーっ 私は遠慮しておく。やっぱりお馬さんなんて食べられないよー」
「そんな事言ったって、もうこうやって私達の前に並んじゃってるんだからさ。つべこべ言わずに食べて成仏させてあげなさいよ」
「もーっ わかりました。食べますよ。お馬さんごめんなさい。罪深い私をお許しください」
赤身をにんにく醤油に付けて口に運んだ。
「ホントだ。美味しい」
「ねっ 言ったでしょ。これでお馬さんも無事に天国にたどり着けたわ」
「ねえ これお酒、焼酎にしない? 芋焼酎」
「おっ ナオキそれだよ。そうしよう」
「確かにその方が合うかもね」
「面倒だからボトルで頼んじゃおっか。氷だけ別でもらって」
そしてマサル君とナオキ君と私の3人は、芋焼酎のロックに飲み物を変えた。
シオリさんは「私はビール一筋だから。浮気はしない質なので」と言って生ビールをおかわりした。
それから、男性陣の高校時代の笑い話を聞きながら、おおいに呑んで食べた。シオリさんは6杯目のジョッキを傾けていたが、突然
「拙者、ちょっと酔ってきたでござる。外の空気を吸ってくるでござる」
そう言って店の外にフラフラと出て行ってしまった。リコちゃんが心配して付いて出て行くと、「俺もタバコ吸いたいから外行ってくるわ」とマサル君も出て行った。
「なあリュウヘイ。ちょっとユキちゃんと話したい事があるからお前もしばらく外行っててもらっていいかな?」
「おう なんか知らんけどわかった。外行ってるわ」
リュウヘイ君もそそくさと外へ行ってしまった。
「えっ 私に話しってなに?」
「うん。今日会ったばかりで信じられないとは思うけど、俺、わかっちゃったんだ」
「んっ なんのこと?」
「観覧車の中でユキちゃんが俺の手を握ってくれてただろ。しばらくは落ち着くまで時間がかかったんだけど、ユキちゃんがハナコとの話しをしだした頃、やっと落ち着いてきたと思ったら、突然わかった」
「ユキちゃんは俺と寝る」
「はいっ 寝るって? えっ どういうこと? 全く意味が解らない」
「ごく稀にこういう事があるんだ。俺は霊能者でもなんでもないとは思うけど、それはただ〈わかる〉としか言い様がない。そしてそれは絶対に当たる。間違いなく」
「・・・だから何をいってるのよ。ぜんぜん理解できないよ」
「そーだな。言ってみれば運命 とかそういう類いのものかな。手を握られている時に、君の方がそれを求めている事がわかったんだ。これだけは信じて欲しいんだけど、イヤらしい意味で言ってるんじゃないよ。それは俺以外の他の誰かじゃなく、今でもない。そう遠くない未来に君は俺と再び出会う。そしてその時、君の魂が俺を求める。どうしようもないくらいに強く。そして俺は君のために、君の体を抱く。それは君の魂を解放するための儀式みたいなものだ。お互いに恋愛感情など存在しない。ただ、貪るように互いの体を求め合うだけだ。俺自信もそうしたいかどうかに関わらず、そうせざる負えない。そういう運命だから」
その時、外に出ていたみんなが揃って戻ってきた。
「おーい ナオキ。口説き終わったか?」
「おうっ 返事はまだだけどな。伝えたい事は全部伝えられたわ」
「じゃっ そろそろお開きにして帰りましょ。あー呑み過ぎたわ」
「シオリちゃんてお酒、言うほど強くないんじゃん」
「うるさいなあ。今日は久々の遊園地で、はしゃぎすぎただけよ」
勘定はマサル君とナオキ君で出してくれた。
「じゃあまた いつかどこかで会おう。さらばだ」
「マサル君、おやすみー。楽しかったわ。ありがとう」
「リコちゃん 運転気をつけてねー」
「うん リュウヘイ君も気をつけてねー」
「ユキちゃん さっきの話し、本当だからね。いくら考えても決まってる事だから。じゃあ その時までさよならー」
「えっ ユキちゃん、ナオキ君と何話してたのよ。このーっ」
「別に酔ってよくわからない話しをされただけよ。さあ帰りましょ」
車の後部座席で考えていた。実際、困惑していた。
〈なんなのあの訳のわからない話し。ただ私のこと、口説いてただけなのかしら。それにしては、下手くそな胡散臭い手口よね。もーっ何が運命よ。なんで私の魂があなたのことを求めなきゃならないのよ。あーっ イライラしてきた。もうこんなくだらないこと考えるのはよそう〉
それからしばらくの間は、ナオキ君が突然現れるのではないかと、外にいる時には気が気ではなかった。でも彼は現れなかった。そのうち、そんな事も忘れていった。
その代わり、思いがけない人を見かけたのは、それから1年以上経った秋の牧場だった。
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