◆不確かな約束◆しめじ編 第4章 祈り


今日2/28、シュウに別れを告げた。私としては7年後、ふたり供もっと成長した状態で再会し、今までよりもっともっといい関係でリスタートする為の。でも勿論、その時にまだシュウが私の事を想ってくれているなんて確証はない。それどころか、待ち合わせのカフェ〈Promised Place 〉にシュウが現れるのかも危うい。なにせ7年なんて歳月はとても長い。その間にお互いに色んな経験をするだろうし、たくさんの人と出会う。そんな中、また私を選んで貰おうなんてムシが良すぎる話だという事は解っている。でも、それでも私とシュウはこうしなければいけない状況だった。そして私は、ふたりが運命で繋がっていると信じていたい。


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私のお父さんが亡くなった日、シュウは私の事を一生守ってくれると言った。その事はシュウにも伝えた通り、素直に嬉しかった。私達はどちらかが死ぬまでずっと一緒だ。と思った。シュウとならどんな事でもふたりで乗り越えていこうと思えたし、その時はそういう決心もできた。でも人生には色んな事が起こり、人の想いは変わる。決して簡単には、思い通りには進まない。そして私達にはそのタイミングが早すぎた。

シュウから私の事を一生守るという言葉を聞いて間もなく、彼の両親が離婚した。私を守るはずのシュウは、小さい子供の頃の、、、いや それ以上に頼りなく見えた。自分だけが不幸な存在だとばかりに愚痴ばかり話して、私の事なんて全く気にしてくれなくなった。その時の私はそれでも良かった。好きな人が側にいてくれて、彼を癒してあげる事が出来る。むしろそれが喜びでさえあった。でも段々、その優しさだと思ってしていた事がシュウをダメにしている事に気づき始めた。

シュウは私との時間を大切にしてくれていたけど、そのせいで友達からの誘いを全て断っているようだった。私達の世界はどんどん内に狭まっていき、殆どふたりだけの世界になっていった。特にシュウはその世界を気に入っていた。私達ふたり以外の人には全く興味を向ける気がないかのようだった。

私は不安になってきた。このままの関係でいたら、シュウも私も世間では通用しないダメな人間になってしまうのではないか? でも、そう思っているだけで、なかなかシュウには言い出せないでいた。シュウに嫌われるのが怖かった。シュウに話せたとしても、きっと今のシュウでは理解してはもらえないだろうと思った。



高校3年生になる頃、進路の事について真剣に考え始めた。始めはお母さんの事も心配だし、大学に行くお金の事もあるし、都内で就職しようかとも考えていた。そこで担任の先生に相談すると、奨学金を出してくれる制度がある事を教えてくれた。

「もし大学に行ってやりたい事があるのなら、お前の成績でそれを諦めるのはもったいない。後で借りた分のお金を返さなくてはならないから大変ではあるけど、一度考えてみても良いかもしれない。」先生はそう言ってくれた。

誰にも言ったことはなかったけど、私にはやってみたい事があった。無理だと諦めかけていたけど。シュウにも話してなかった夢みたいなもの。

いつか古い海外映画で見た、だだっ広い牧場で牛や馬や羊と一緒に幸せそうに暮らす人々。農場で作った作物を食べ、満天の星空を眺める暮らし。それこそが本来、人間のあるべき姿なのではないのか? そんな感情を現実に出来るかもしれないという思いが膨れ上がっていった。その為に農業や畜産業について学んでみたかった。そして色々と調べた結果、北海道の帯広にある大学を選んだ。

シュウともお互いの進路について話し合った。最初は納得出来ない様子だったシュウだが、私の将来の希望を伝えると渋々ではあるが納得してくれた。そのうち「離ればなれになっても大丈夫。距離は遠くなっても、俺達は繋がっているんだから」と言ってくれるようになった。



私もシュウも大学受験に合格して、ずっと一緒だった高校生活も、残り僅かとなった。シュウは毎日のように私を求めた。時には怒りをぶつけるように。私はシュウが喜ぶならそれで良かったが、そこに愛情は感じられなかった。

シュウの「大丈夫」という言葉は、ぜんぜん大丈夫ではないんじゃないかと思えてきた。シュウの幼稚な部分に苛立ちと不安を覚えた。シュウを甘やかしてしまう自分自身にも。

この際、中途半端にシュウとの関係を続けず、お互いに自分自身を見つめ直し、磨く期間を作った方が良いだろうと思った。大好きなシュウの為に。

そして私は決心した。シュウとは一度きっぱり別れて、7年後の25歳。それまでにもっと強く自立した女性になって、再びシュウと出逢う事にしよう。


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〈Promised Place 〉って。笑える。ピッタリ過ぎじゃない。約束の場所だって。

隣の席のOLさんが、楽しそうに会社の愚痴を言っている。20代半ばくらいかな。私達の7年後といったら、あの人達と同じくらいか! シュウはOLさん達の笑い声にイライラしている。こういうところだけ、繊細っていうか、、、あっ なんかシュウのイライラが移ってきたのかも。別の高校生のグループが全員タピオカ注文して写メを撮ってるのが気に障る。気付くとタピオカに八つ当たりして、シュウに偉そうな事言ってた。甘いパンケーキと、ダージリンティーの香りで落ち着こう。普通を装ってるつもりだけど、やっぱり普通じゃいられないみたい。シュウは気が付いてるかな⁉ 気が付かないか! さてと、一気に終わらせるか。もう緊張に耐えられない。


頭の中が真っ白になって、曖昧な説明しか出来なかった。絶対にシュウには、この決断の本質は伝わってない。きっと落ち着いて言葉を尽くしても伝わらなかっただろう。それでも仕方ない。だってこれは、シュウ自身が自分で気付かなければ意味のない事だから。シュウは納得できない様子だったけれど、別れを受け入れた。彼がそうする事も私には解っていた。ズルいやり方だけどごめんね! あなたの事を想う気持ちは変わらない。大好きだよシュウ。

それ以上シュウの顔を見ていると涙腺が崩壊してしまいそうで、先に店を出ることにした。今日は泣かないと決めていた。最後の「さよなら」を言う時にヤバかった。少し声が詰まってしまったけど、シュウに涙は見せないで済んだ。店を出る瞬間、心の中で〈お互いに立派な大人になって、また会おうね〉と呟いた。通りに出ると一気に涙が溢れてきた。新宿の街を歩く人々はそんな私には全く気付かないけど、急いでデパートのトイレに飛び込んで、嗚咽しながら思いっきり泣いた。髪を結わいたシュシュを外し、それで涙を拭った。このシュシュが私とシュウを繋ぎ止めてくれる筈と、願いを込めて祈った。

「またシュウと繋がれますように。」

信じるしかなかった。

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