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鏡に願いを(※下ネタ) 887文字
この世に生を受けてから30数年。私には彼女がいない。
女性に触れた経験といえば、母親と幼稚園の先生くらいのものだ。彼女が欲しいと願いながらも、鏡を見れば自分でも決して付き合いたいなどとは思えぬ容姿。
このまま一生、自分で慰め続けるしかないのかと、疾うに諦めていたある日の事。
仕事に疲れて帰った洗面所。
手を洗い、うがいをして何気なく見た鏡。
私の間抜け面に重なって映る半透明の女。
驚いて尻餅をつく私。
半透明の女は鏡からゆっくりと抜け出し、次第に立体感をもって私の前に立った。
「あなたの願いを叶えにやって参りました」
よく見れば、私の唯一の生きる希望である、地下アイドルの推しのあの娘にそっくりではないか。
「ど、どういうこと?!」
「彼女が欲しいんですよね。だからわたしが」
「えっ、マジっすか?!」
「はい。わたしがこの先ずっとあなたの側に」
びっくりして嬉しくて涙と鼻水をを垂れ流す私に向かい、女は言った。
「但し、わたしに指一本でも触れてはなりません」
「えっ、そんな」
「少しでも触れた瞬間、わたしは消えて元の鏡の世界に戻ります
私は一つの願いを諦めて、一つの夢を叶えることにした。
私達は触れあう事はなくとも仲良く暮らしてきた。
女はいつまでも若く、鏡を抜け出してきたあの日のままの姿でいた。
幸せだった。
こんな自分にも世話をやき、尽くしてくれる女性が現れるとは。そんな私の人生も、もうすぐ終わりを告げようとしていた。
「最後にお願いがある。まずその服を全て脱いでくれ」
寝たきりになった男の横たわるベッドの脇で女は頷き、躊躇う様子も見せずにワンピースをするりと床に落とした。
「下着もじゃ。全部脱いだら私に跨がって。最後の頼みじゃ、どうか、どうかこの願いを叶えておくれ」
男はそう言いながら自分のパジャマとパンツを太股の位置までずり下げた。
「わかりました。あなた様の最後の願い、叶えて差し上げましょう」
女は下着をはずすとベッドのうえに上がり、男の下半身を跨いで腰を落とした。
男は、膨張した先端に温かいぬくもりを感じた。
と、同時に頭に痺れるような稲妻が走り抜ける。
瞑ってしまった瞼を開くと女の姿はもうそこにはなかった。
見上げた天井からは、ポタポタと白い液体が糸を引くように垂れてくるばかりであった。
男はそれから10年余りの歳月を、その一瞬の出来事だけを思いながら生き続け、やっとのことで生涯を終えたのだった。
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