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少年達を照らす光 後編


次の日の朝ごはんを食べ終わるとツヨシはナオキを誘い、海岸へ遊びに行こうとしていた。土間の上がり口で2人が靴を履こうとしていると、テツヤが片足を引きずりながら2人の側へやって来た。

「ねえ、なおちゃんもつうちゃんも僕を置いて行かないでよー」

「だって、てっちゃん足を怪我してるから野球なんて出来ないだろ」

ツヨシは片方の靴を履きながら、テツヤにそう返答した。

「だからー、行かないでってばー」

「お前がちゃんと注意して歩かないから怪我したんだろ。おとなしく我慢して、テレビでも見てろよ」

ナオキの言葉に、テツヤは泣き出した。

「ぐうぇーん、行がないでっだら、いがないでーっ」

「てっちゃん、そんなに大きな声で泣いてどうしたの?」

祖母がテツヤの泣き声を聞きつけてやって来た。

「なおじゃんとづうじゃんがーっ。ぎゃわーーん」

ツヨシとナオキは靴を履き終え、玄関へと向かおうとした。

「2人ともちょっと待って」

祖母に止められる。

「あなた達、お兄さんでしょ。てっちゃんを置いて行ったら可哀想じゃない。今日は家で一緒に遊んであげなさい」

「えー、やだよそんなの。ここにはファミコンも無いし、すること無いんだもん」

ツヨシが不貞腐れた顔で答えた。

「じゃあ、あとで叔父さんにおもちゃ屋にでも連れてってもらいなさい。正月は明日だけど、先にお年玉あげるから」

祖母はそう言うと寝室に戻り、ポチ袋を子供たち3人に手渡した。

「ばあちゃんありがとう。叔父さん、いつ頃起きて来るかなー」

「10時くらいにならないとお店は開かないから、それまでには私が起こして仕度させるから。それまでおとなしく待ってなさい」

「はーい」

ツヨシとナオキは元気良く返事をして、靴を脱ぎ畳の上へとあがった。テツヤも泣き止んで、トレーナーの袖で鼻水を拭いた。


叔父が仕度を終えて3人の子供達を迎えに来た。マユミは母親と買い物に出掛けていた。おもちゃ屋でツヨシとナオキはボードゲームを買った。テツヤは戦隊ものの超合金のロボット。ラーメン屋に寄って昼食を済ませた。家で子供達を降ろすと、叔父はそのままパチンコ屋へと行ってしまった。

ツヨシとナオキは早速、ボードゲームを箱から出して説明書を読み始めた。テツヤは超合金のロボットでひとり遊びを始めた。ツヨシとナオキがボードゲームを始めると、テツヤも仲間に入りたがった。

「僕も一緒にやらせてよ」

「やだよ。てっちゃんは超合金を買ったんだからそれで遊べばいいじゃん」

そうツヨシが言うと、ナオキもテツヤに言った。

「そーだよ、それにお前にやり方説明するの面倒だもん。どうせ教えたってお前、ルールわからなくてズルするだろ」

「ズルしないもん。ちゃんとやり方覚えるからいいでしょ。ねー、お願いだから、ねー」

「やだってば、お前うるさいから向こうでテレビでも見てろよ」

ナオキが冷たく突き放すと、テツヤはまた泣いた。

祖母がやって来て、テツヤを連れて行くと、足の包帯を替えてやった。

「どうしてお前達は小さい子に優しくしてやれないかねー。あとでそのゲームにてっちゃんも入れてあげなさいよ」

「はーい」

ツヨシとナオキは口を尖らせながら、返事した。


夕方になるとツヨシの両親とナオキとテツヤの両親が一緒にやって来た。

「テツヤ、足を怪我しちゃったんだって。大丈夫?どう、見せてごらん」

テツヤは母親にそう言われると、包帯を巻いた足を見せた。

「あー、痛かったねぇ。よしよし」

母親がテツヤの頭を撫でると、テツヤは静かに泣き始めた。

「ツヨシ、あんた入れて一番年上なんだから、ちゃんとてっちゃんの事見てなきゃダメでしょ」

ツヨシの母親に叱られて、ツヨシは半べそをかく。

テツヤは母親の胸に顔を埋めて泣いている。ナオキはそんなテツヤを睨みつけた。

「いっつもてっちゃんばっかり、お母さんに甘えるんだから」

小声で呟いたナオキの言葉には、誰も反応しなかった。



押し入れから大きなテーブルを出し、食卓に男達が並んで座った。祖父と叔父とツヨシの父親、それからナオキとテツヤの父親の4人で酒盛りを始めた。女性達は例の如く、料理をして出来た物から男達の座るテーブルへと運ぶ。テレビでは紅白歌合戦が流れている。


テレビではゆく年くる年が始まり、日付けが変わって新年を迎えた。

「子供達はもう寝なさい。明日は初日の出を見るから朝、早いよ」

ツヨシの母親の言葉に従って、ツヨシとナオキは布団に入った。テツヤは母親の膝で既に眠ってしまっていた。テツヤの母親はテツヤを抱き上げ、ナオキの隣の布団へ寝かせた。



「さあ、起きて。着替えたら出掛けるよ」

ツヨシの母親の声で、3人の子供達は起こされた。眼をしばたかせながら、3人は布団から抜け出した。ストーブの前に並んで着替えを始める。

皆で玄関を出ると、外はまだ真っ暗だった。街灯の黄色い明かりを頼りに海岸へと向かう。ツヨシとナオキは手袋をしていたが、テツヤは手袋を持って来なかったようだ。テツヤは寒そうに上着のポケットに両手をつっこんでいる。

10分ほど歩くと砂浜に着いた。砂浜では3ヶ所で火を焚いていた。大人の女性達は甘酒の用意をしている。大人の男達は1升瓶から紙コップに酒を注いで早速、呑み始めている。

子供達は甘酒の入った紙コップを渡され、フーフーと冷ましながら甘酒を啜る。みんな鼻を紅くして、洟を啜っている。


水平線の向こうが白く輝きだした。

ツヨシとナオキとテツヤは並んで水平線の向こうを見つめる。

ナオキは、テツヤをツヨシとの間に移動させた。右手の手袋をはずしてテツヤに渡した。それを見たツヨシは左手の手袋をテツヤにはめてやる。

ツヨシは左手を上着のポケットにつっこみ、手袋をした右手でテツヤの左手を握る。

ナオキは右手をポケットにつっこみ、左手でテツヤの右手を握る。

テツヤは一度づつ、ツヨシとナオキの顔に向かって微笑んだ。


水平線の向こうで、太陽の欠片が顔を覗かせた。その欠片は次第に大きく丸い形を現し、水面を反射する。3人は眩しさに目を細めながらも、その神聖な光を見つめている。

太陽がからだ全体の姿を水平線の上に現すと、3人は後ろを振り返り、誰にともなく叫んだ。

「あけましておめでとーーっ」

砂浜に長く伸びた3つの影は再びつながり、ゆらゆらと元気に揺れていた。





《おしまい》





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