例えば、生ハムメロン的な相違。
「生ハムとメロンって、どっちも美味しいけど、どうしてわざわざ一緒に食べなければならないの?ほんと意味わからない」
仕事から戻る彼女のために用意していた料理にケチをつけられ、僕はこれからの彼女との生活に一抹の不安を感じたのだった。
メロンに生ハムのせて黒コショウ少々ふり仕上げのオリーブオイル、これのどこが悪い?ちょっと奮ぱつしていつもより高いワインも用意したっていうのに、食べ物の趣味が合わないのって一緒に生きていく上で致命的なことではなかろうか。
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例えば彼女は、映画のアメコミものが好きだ。
例えば彼女は、深夜のテレビで吉本新喜劇を観る。
予定調和のドタバタ感。僕はアメコミと吉本新喜劇、そのどちらもあまり好きではない。
例えば僕はサッカー観戦が好きだ。
彼女は、大勢の人間が一生懸命走っているだけで殆ど得点の入らないサッカーなんて10分も観ていられないと言う。彼女は、いちいちプレイが止まる野球の方が好きなのだ。
彼女は〈わかりやすさ〉を愛すひとだ。
彼女と比べると、僕は多少の複雑さを好む傾向にあるのだろうか。
こんなふたりが、どうして付き合い始めることになったのか、よく思い出せない。
小学生の頃の給食で、酢豚が出た。豚肉や玉ねぎ人参ピーマン筍と一緒にパイナップルが入っていた。だいたいの生徒が文句を言った。
「なんでパイナップルなんて入れるんだよ!まったく意味わかんねぇ」
あの頃、僕もそう思っていた。
小学生の頃、近所の同じくらいの歳の子たちで集まって、よく野球をした。左利きの僕は、反時計回りに進むルールのおかげで、やりたかったショートやセカンドを守らせてもらえなかった。とても不満だったが、それでも毎回、夢中で遊んだ。
アメコミを好んで観たりはしないが、彼女にせがまれて映画館に行くと、普通に面白いタイトルのものもあった。
結局はそういうことなのだ。なんでもひと括りにして好きだ嫌いだと決めつけるよりも、実際に試してみると案外楽しめたりする。
僕と彼女の共通する〈好き〉をこれからたくさん見つけていけば良いのだ。大丈夫。僕達にはまだまだたっぷりと時間がある。
例えば、淡白なローストビーフに、苦味の効いたココアパウダーがかかったチョコレートをくるんで、摺り下ろした生姜を乗せてみる。そこへバルサミコ酢と濃口醤油のソースをかける。
好みでなければ、ローストビーフはローストビーフとして、チョコレートはチョコレートでそのまま食べればいい。
君の言うように生ハムは生ハムで、メロンはメロンでそのまま。各々が好きなように食べれば良い。どのみち胃の中に入れば同じこと。それほど目くじらを立てるような事ではないのだ。
今日はカルパッチョを作ってみた。
真鯛と帆立の貝柱。そして無花果。
岩塩と黒胡椒とオリーブオイル。
マダイとホタテの自然な甘味に岩塩のまるい塩味、オリーブオイルの芳醇な香りに黒コショウのピリッとした刺激。そこにイチジクの複雑な酸味甘味苦味香り。
僕は白ワインとふたつのグラスをよく冷やして、彼女の帰りを待つ。
知らないうちに鼻歌を口ずさんでいる自分に気付き、笑みが溢れた。
❮おわり❯
この記事は【冒頭3行選手権】に参加させていただいた記事
の続きを書いたものです。
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