スクールアイドルの煌めきがすぐそこに / 『スクールアイドルミュージカル』感想
ラブライブ!シリーズが展開するミュージカル『スクールアイドルミュージカル』を観に行った。再演となる今回、予定が合えたのでようやく行くことができた。事前情報として、ラブライブ!ファンから絶大な好評を得たミュージカルだということは知っていたのだが、これが本当に素晴らしかった。
ステージ上から放射される観る者すべてを連れ去っていくようなスクールアイドルの煌めきに本当に元気をもらえた。ありきたりな表現ではあるがそれ以外の表現が見つからないほど直接的なエネルギーがあの舞台にあった。次回があるなら必ずまた劇場に足を運びたい、そう強く思わされた。
備忘録も兼ねて本稿で『スクールアイドルミュージカル』の感想を書きつづってゆきたい。時間が経っているので詳細ではないにしてもネタバレがあります。ネタバレを回避したい方は観劇後またお会いしましょう。
このミュージカルは産地直送の”ラブライブ!”だった。
簡単に自己紹介をすると、ラブライブ!シリーズはμ‘sから蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブまでシリーズを追いかけている。テレビアニメシリーズもすべて視聴済みであるが、アニメ『ラブライブ!』無印を視聴していた頃はアニメ文化に触れたばかりだったので、アニメ作品の見方についてよくわかっていなかったので単にμ‘s成功の物語としてあまり深く理解することができなかった。
なので先述した”ラブライブ!”=魅力の核心についてはここ数年ようやく掴んで理解したところであり、この作品で”ラブライブ!”の解答を知ることができるのではないかと思っていた。
率直にストーリーがとても良く出来ていた。第一幕、第二幕あわせて約2時間10分で『ラブライブ!』の王道ストーリーラインをなぞりつつ、アニメシリーズでは描かなかった現実的なディティールを描くことで、物語の奥行きをひろげ、コントラストをハッキリと見せていたので、ノンフィクションの手触り、現実的な物語としての感触があった。
アニメシリーズと大きく異なる点は、物語における大人の存在感である。
これまでのアニメシリーズでは、スクールアイドルにこころ打たれた主人公たちが、廃校などの危機に瀕した母校をスクールアイドルを通じて救おうと奮闘する、その過程でスクールアイドル部設立をめぐる生徒会(権力者)との対立がたびたび描かれている。絢瀬絵里、黒澤ダイヤ、葉月恋、理由や事情は違えど彼女たちは学校のためと理想よりも現実をみつめて大人らしく振舞うせいで主人公たちと対立を繰り広げてきた。
今作これに相当するのが滝桜女学院と椿咲花女子高校、両校の理事長である。これまでの大人らしく振舞う高校生とは違い、ガチガチの大人である。
廃校の危機に瀕した状況を打破するため、片や革新的に芸能コースを設立してスクールアイドルをメディア利用し集客を目論み、片や保守的に危機に瀕してもなお全国トップクラスの偏差値を120年つづく伝統の品格こそ正しい教育の姿であると誇る。理事長という立場の責任としてどうにかして廃校を阻止しようと画策をつづけていた。
理事長の娘で主人公である滝沢アンズと椿ルリカの両名はそんな大人たちの事情に巻き込まれを大きな影響を受けつづける。片や芸能コーススクールアイドル部のセンターを任命され、片や将来の伝統校の理事長として勉学に奨励され、主人公たちは常に将来を意識させられる。
大人としては両理事長の責任感に対して共感せざるをえないところだが、大人の事情に娘たちを巻き込んでいるグロテスクさに思わず顔をしかめてしまった。椿ルリカの根底には亡くなったお父さんとの約束が固く結ばれてしまってるのも呪いのなって縛ってしまっていたのも居た堪れなかった。
大人だけでなく同級生、仲間からも様々な事情に雁字搦めになった主人公たちはついに二進も三進もいかなくなるのだが、それを打ち破ったのがスクールアイドルへの憧れだった。
「スクールアイドルをやりたい!」という初期衝動は将来から未来、明日、そして今日、今を見つめさせた。初期初動がもつ莫大なパワーは事態を好転させ、やがて大人たちを黙らせ、理事長たちを”理事長”から”母親”へと変貌させ、味方につけた。このカタルシスったらない。晴れ晴れしい気持ちになった。
物語終盤、すごく印象に残った台詞がある。それが「やりたいからやるんだ」である。わたしが考えるにこれこそが”ラブライブ!”だなとおもった。
この作品においては大人たち、周囲の人間からああしろこうしろと受動的な生き方ではなく、内から沸き立つ憧れや衝動に素直な生き方を選択しようとする人生に対する真摯な自問自答。今となっては難しくなってしまったこの生き方は、大人になったわたしにはとても輝いてみえた。理事長たちも同じ気持ちになったから彼女たちの自発的なスクールアイドル活動を応援したくなったのだとおもう。
そんなすさまじい熱量を生身で受け取ることがこの『スクールアイドルミュージカル』はできる。ミュージカルは歌いながらセリフを言う違和感が苦手だったのだが、どこまでも響く歌声は迷いなく青春を羽ばたく飛行機雲のごとく輝かしくにふさわしい表現方法だと思えた。
掛け値なしに演者のみんなが光輝いてみえた。パーっとして、キラキラしてて、得も言われぬまぶしさ。この作品のいうところの煌めきである。あれがスクールアイドルの輝きならばそれを見れたことはとても光栄だ。本当に、本当に素晴らしかった。
余談だが「やりたいからやるんだ」に見覚えがあったのでテレビシリーズを見返していたのだが『ラブライブ!』1期8話「やりたいことは」が、このミュージカルのプロットになってるのではないかと思ってしまうくらい共通点や通じる部分が多かった。本稿冒頭の台詞もこの8話から引用したものである。以上、余談でした。
ミュージカルは基本的にパッケージ化されないので、このミュージカルを見たいならば公演される劇場に見に行く以外に方法はない。正直いうと、初演が終了した時点で次は無いと思っていたので再演が発表されたときはとてもうれしかった。しかし次があるとはどこにも保証されていない。こんなにおもしろい作品が二度と観れなくなってしまうのはすごく惜しいので、どうかまた再演がありますように願いを込めて。素晴らしいミュージカルでした。
おしまい。
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