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気がつけば、ストリップ劇場でアイドルの幸せを願っていた。

ある休日、暇を持てあまして当てもなく桜木町界隈を彷徨っていた。
することないけど外に出ていたい。そんなときにふらっと立ち寄ったストリップ劇場、横浜ロック座。


日ノ出町駅近くにある横浜ロック座。知る限り15年くらい前からここにあってずっと気になってたが、なんとなく怖いイメージがあったので入れずにいた。だけどこの日は気分が良かった。「よーし行っちゃうぞっ☆」と好奇心に背中を押され、おもいきって飛び込んだ。

受付で料金を支払い、禁止事項などの説明を受け、いざ入店。
もう始まっていたみたいで、防音のしっかりした重厚なドアを開くと荘厳な音楽が飛び出してきた。

暗幕をくぐり中へ進むと、横たえられたが見えた。
そして傍では全裸の女性がコインを並べている。

いやどういうことだよ。
妖しい音楽に乗せてM字開脚したりするものだと思ってたから、強めな世界観にいきなり面食らってしまった。
空いてる席へ腰を下ろし、場内を見回した。

見たところ小さめのライブハウスくらいの広さ。
正面にステージがあって、2mほどの花道の先に直径3mくらいの回るステージ(調べたら回転盆というらしい)。ショーの終盤なのか、踊り子さんがポーズを決めている。その丸いステージを囲むように長椅子が2列配置されている。
お客さんは食い入るように踊り子さんを見つめ、ポーズを決める度に拍手をしている。30名ほどのお客さんのほとんどが男性。女性は2人いた。

状況を把握してるうちに、演技はクライマックスを迎え、会場が明転する。
わけもわからないまま終わってしまったが、その踊り子さんの出番は終わったらしく裏へ捌けていった。

と思ったらすぐに「ありがとうございましたー!」と戻ってきた。
どうやらポラロイド写真が撮れるコーナーらしい。地下アイドルの接触イベントのそれと全く同じで、常連と思われる人と楽しく会話をしている。
地下アイドルと決定的に違うのは、ポーズがエラく過激である。
ポラ撮影がひとしきり落ち着いたところで、すこしの挨拶とアンコールのポージングをして、その方の出番は終わった。

会場が暗転した。いよいよちゃんとストリップを鑑賞できる。
マクロスFの『ライオン』のイントロがかかり、次の踊り子さんが出てきた。

青が印象的なアイドル衣装を纏って、森高千里を踊っている。

「なるほど、最初は服を着ててダンスコーナーがあるんだ。」
「ストリップに出る人ってどういう経緯でここにきたんだろうか。」

「元々アイドル志望だったのかな。」
「あ、これは知ってる『渡良瀬橋』だ。」

拙いダンスを見ながら、いろんな思考を巡らせた。
2曲踊り切った踊り子さんはポーズをパンと決めた。
拍手が起こる、周りに倣ってわたしも拍手を送った。

会場が暗転し、場面が切り替わる。
「はだかには~ならないわ~」
森高千里『はだかにはならない』が流れるなか、お芝居が始まる。
誰かと話してるようだ。手に雑誌を持ってるな。『PLAY BOY』だ。 

「あっ!」

思わず声が漏れた。これは物語だ。
さっきの踊りもコーナーじゃなくて、ひとつの場面だったのか。

きっとこの子はいま事務所からヌードグラビアを持ちかけられてる。
必死に断ってるんだ。
だけどどうやら彼女の意見にいい返事はもらえなかったらしい。

あの子はどうなったんだ。

ベビードールを着たあの子が現れる。ベビードールめちゃめちゃかわいいな。いつか彼女が出来たら着てもらいたい。夢ができた。

曲がかかると同時に、回転盆へ歩いてくる。
撮影をしてるのだろうか、いくつかのポーズをとっている。そんな彼女の表情は笑顔だけどどこか物憂げ。
ゆっくりとベビードールがはだけていき、ついに素肌が露わになる。

次第に撮影をしていた雰囲気が変わっていき、今度は身体を横たえた。
横になった身体が波打っている。かかってる曲は森高千里『だいて』
なりたかった自分とかけ離れたこの場面で彼女は何を思うんだろう。

この時点で最初の物見遊山な自分はどこへやら、祈るように両手を強く組んで彼女の行く末を見届けている。次の曲がかかる。
おお、このイントロ知ってるぞ、森高千里『私がオバさんになっても』だ。

「そうだよな、そうだよなあ!」
千切れるくらい頷いて、大きな声を出して、膝を殴った。心の中で。

今自分がアイドルにハマってること、最初の推測、話の構成が好みだったこと、美しい裸体、あらゆる文脈が1度に交差し、感動して泣いてしまった。

きっと彼女は呼び掛けてるんだ。夢は叶わなかったけど、努力を目撃してた誰かに。この場面が何年後か、はたまた何十年後かわからないけど、先ほどとは打って変わって表情も晴れやかに見えた。
過去を振り返って自分の人生が幸せなものだったと思えたのだろうか。
果たして彼女は幸せになれたのか。

全ての演技が終わり、誰よりも大きく長い拍手を送ったあともこの疑問は解消されず、思い切って本人に聞くことにした。

1000円札を握りしめポラ撮影の列に並び、後ろに並んでた人に踊り子さんの名前を聞いた。ご挨拶に伺うのに名前を知らないなんて失礼あってはならない。椿りんねさんというそうだ。

自分の番がきた。
とにかく感動したことを伝えたら、椿さんもまたお客さんだったが感動してこの世界に入ったと教えてくれた。
ポラロイド撮影では好きなポーズがリクエストできるのだが、「1番かわいいポーズで」となかなかキモいリクエストをしつつ、本題に移った。

「結局あの子は幸せになれたんですか?」
「わからない、そうかもね。(意訳)」
「そっかあ!」

当時を振り返ってみて、感動の熱に浮かされてムーブがずっとめっちゃキモい。一旦深呼吸でもしておけばよかった。

そのあと他の踊り子さんもすべて観た。
踊り子さんごとに世界観が違っていてすごく面白かった。
それに裸体が素晴らしく美しい。さながらボディビルのコンテストのような、髪の毛や指先まで女性の身体が美しいことを誇示するかのような肉体美を追求した舞台芸術だった。
鋭くしなやかだったり、かわいらしく凛としていたり本当に人それぞれの良さがあった。
鈴木千里さんという方がすごかった。綺麗に切り揃えられたボブヘアーでスレンダーな身体が関節を感じないほど滑らかに動くさまは美しく、めっちゃくちゃカッコよかった。

なにはともあれ初めてのストリップ体験は大満足の内に終わった。
また別の日程や他の劇場にも足を運んでみたいと思った。

おしまい。

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