『日向坂で会いましょう』が圧しかかるその背、今はちいさく
今回も『日向坂で会いましょう』おもしろかったですね。
これまで数々の対決を行ってきた軍団対抗戦。しかし齊藤京子の卒業によって彼女が率いていた京子マブダチ軍団が解体してしまい、その勢力図も変化の兆しが訪れようとしていた。
今回は【勢力図を塗り替えよう!軍団員争奪バトル!!】ということで、解体となった齊藤京子率いる京子マブダチ軍団と無所属軍団のメンバーを引き取り、軍団員の再構成を行うこととなった。また、3軍団だと構成人数などの不便を理由に、新たに山口家連れ込み隊が設立された。
所属軍団解体により宙に浮いたメンバーは各々が希望の所属軍団を提示したのだが、その希望通りに所属してしまうと山口家連れ込み隊が2名のみになってしまうので、解決策として今回の企画は軍団員を争奪して獲得するという形式になった。
つまりこの企画開始時点では、山口家連れ込み隊は山口陽世ただ1人であった。辛くもメンバーを途中で獲得するにも至れずすべての対決に出ずっぱりだったのだが、この文字通り山口陽世の孤軍奮闘は、前回の宮地すみれがそうであったように、本人の意向とは関係なく番組の中心へと彼女を追いやった。番組を終えてみれば、もはや疑いようがなく今回の主役は山口陽世だった。
山口陽世にはテレる癖がある。モノマネの時もそうだったが、緊張した時や迷った時に彼女は思わず笑ってしまうのだ。だがこの癖は役を引き受ける事においてはリアリティを欠いてしまう悪癖ともいえてしまう。そんなシーンを見かけては惜しいなと思ってしまうことが何度かあった。前回のモノマネの時もそう思った。
バラエティ番組ではいかに上手く役を引き受けるかが難題として付きまとっているとおもう。どれだけおでんが熱くて、どれだけタライが痛いのか。うかつにもリアリティを欠けば一気に茶番になり果ててしまう。それらをいかに上手く表現できるかが勝負どころなのだろう。
今回の山口陽世の孤軍奮闘が決まった時には、あの悪癖が出ないようにと願うばかりだった。そして実際にはそんな暇すら与えないほど出番が回ってきていて、「サウスポー絵しりとり」では一人複数役を真面目にこなすなど彼女はテレずに最後まで闘いきったのであった。本人の手応えはわからないが、傍から見ていて一皮むけたのでは?と思わずにはいられなかった。
演技といえば濱岸ひよりは語らずにはいられない。「ひよたんダウト」と称した、4つのお茶の中に混ぜられた苦いお茶を試飲した濱岸ひよりのリアクションから推察するクイズ。ここで彼女は鮮やかなまでに全員を騙してのけたのだった。全員とは、視聴者も含めた全員である。本当に凄いモノを見た。
考えてみた。正解は4つ全部が苦くないふつうのお茶だったのだが、わたしが最初に想像した味は以下の通りである。
Aを飲んで口から吐き出したかと思えば、Bを飲んだ瞬間噴き出した様子からABは苦い、Cはふつうに飲み干し、Dはすこし我慢ののち嚥下したので、こう予想した。これはわたしがどんな味でも平静を装う演技パターンでいくと考えたからだ。おそらく多くのメンバーもそう思っていただろう。
しかし実際には、濱岸ひよりはABと本当と錯覚してしまうようなオーバーリアクションでABを印象付け、CDにリアリティを持たせる上記のような緩急をつけた演技プランを組み立てたことが窺える。事前にお茶の味を把握してないことを考慮すると、お茶がどんな味であれこういう演技をしようと決めていたということが考えられる。
ミスリードする演技プランも、それを実現する演技力も、圧巻の一言だ。そしてさらに注目すべきは全部がふつうのお茶だった点だ。用意した人の挑戦的な姿勢たるや、つまり濱岸ひよりの演技が前提で重要である采配なのだ。わたしだったらクイズとしてもさることながら、テレビ的な見どころを考えた時に保険として1つくらい苦いお茶を混ぜておきたくなる。
だがしかし『日向坂で会いましょう』のスタッフはそうせず、濱岸ひよりの演技に博打を張ったのだ。博打はみごと成功を収め、たった数分の出来事だったのにも関わらずわたしたちに深い衝撃を打ちこんだ。テレビマンとアイドルの酔狂を垣間見た気がした。
今回は輪の中心で奔走した山口陽世と濱岸ひよりの演技力がとても印象的な回だった。この企画と結びつけるならば、地政が変わったことで新たな現象が生まれつつあるのかなとおもった。前回の宮地すみれもそう、これからも続々とこのような見たことない現象が起きるかもしれないとおもうと、これからも『日向坂で会いましょう』が楽しみである。
おしまい。
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