見出し画像

晴耕雨読に込められた思い

日本語で興味深い表現の一つに「晴耕雨読」があります。この言葉は中国の古典、特に儒教や道教の思想から生まれたもので、理想的な生活を描写するものとして親しまれています。

「晴耕」とは、晴れた日に畑を耕したり農作業をすることを指します。この意味から転じて、日常生活での実務的な仕事や用事を象徴する言葉となりました。一方、「雨読」は、雨の日に家で読書をすることを意味します。この読書は単に本を読む行為にとどまらず、知的な活動や哲学的な省察を含む広い意味を持っています。

つまり、この言葉は、こうした生活を送ることで心の平穏を保つことができる、という理想を伝えているのです。「晴耕雨読」は「平穏な生活」を表す同義語としても使われます。

人生のバランス

この言葉が伝えたいのは、バランスの重要性です。生活を支えるためには、畑で働くように、生産的な活動に時間を割く必要があります。それが晴れの日に行うべき活動を象徴しているのです。晴れの日の活動は、家族や社会、さらには文明を前進させるための基盤となります。

一方で、内面を育み、心や魂、精神を磨くことも大切です。それを象徴するのが「読書」です。この行為は、人生や自分自身を振り返る時間、つまり省察と熟考の象徴です。例えば、執筆のような活動もこれに含まれるべきだと考えます。

知的労働の増加

現代の文明が複雑化する中で、晴耕雨読のような単純な二分法では表せない活動が増えています。例えば、「知的労働」という概念があります。産業革命以降、特に情報化時代に向けて、物理的なシステムだけでなく、文化的、社会的、政治的、経済的なシステムの維持や発展が求められるようになりました。その結果、知的労働の比重は急激に増加しています。

皮肉なことに、自動化が進むほど生活は複雑になり、それに伴って知的労働の需要が膨大になっています。雨の日に読書を楽しむ余裕はなくなり、日々「読む」作業に追われる生活となっています。しかし、それは省察のためではなく、生活を支えるための知識消費に過ぎません。情報の処理や消化に忙殺され、疲弊してしまうのが現実です。

理想としての指針

もはや古典的な晴耕雨読の時代に戻ることは難しいですが、それでも理想として掲げる意義はあると思います。この理想は、実務的な活動と省察的な活動のバランスを取り戻すための指針となるはずです。例えば、執筆という行為も「読書」に象徴される雨の日の活動に属するべきであり、収入を得るための活動になってはならないと考えます。

厳しいように聞こえるかもしれませんが、この考え方には守る価値があると思います。この原則について改めて考えてみてはいかがでしょうか。

なぜ書くのでしょうか。それは、知的であり、精神的な省察の一環としての行為だからです。雨の日に行うべき活動であり、晴れの日の実務的な活動とは異なるものです。晴れの日の経験から多くの教訓を学び、それを雨の日に省察する。この二つの活動は密接に結びついているのです。

現実として、多くの実務的な労働が「読む」ことや「書く」ことを含む知的労働へと変化してきました。それでもなお、執筆は省察のための活動であり、収入を得るための活動ではありません。この区別が曖昧になってはいけないと思います。

特に注意経済の時代には、収益を目的とした膨大なオンラインコンテンツが溢れています。そしてAIはこの状況をさらに悪化させています。本来、知的活動を補助するはずのAIが、利益追求型のコンテンツを大量生産し、クリックやビューを求める市場構造を強化しているのです。しかし、こうした現実の中でこそ、なぜ書くのかという本質に立ち返る必要があります。

書くのは「雨の日」のためであり、「晴れの日」のためではありません。晴れの日の経験から多くの教訓を得て、それを雨の日に省察する。この生活のリズムこそが、人生の基盤を築き、さらにその奥深さを形作るものだと思います。

書くことは瞑想である

最後に、こう述べたいと思います。理想的には、執筆は瞑想の行為であるべきです。それは日々の忙しさから一歩引いて、人生を俯瞰し省察する時間を象徴する行為だと考えます。

ここで言う「雨の日」は比喩です。例えば、ジェームズ・アレンが早朝に執筆をしていたように、夜のリラックスした時間や、仕事の合間のカフェでのひとときなど、日常の中で執筆を瞑想として行う時間を見つけることができるはずです。

執筆の結果は、自由な発想で書かれた文章や意識の流れのようなもので十分だと思います。それが重要なのです。目的は、洗練された市場向けのコンテンツを作り収益を上げることではなく、書くというプロセスそのものが目標であるべきです。AIツールを使ってスペルや文法を修正することはあっても、それは最小限にとどめるべきだと思います。この場合、生のままの粗削りな文章にこそ最大の価値があるのではないでしょうか。

もとの英語記事はこちら

いいなと思ったら応援しよう!