エピソード0「うたのおねえさん」
小林千夏は小さい頃から歌が大好きだった。小学生の頃、学校から帰ってくるとNHKの「おかあさんといっしょ」を見ては、テレビの中で歌う、うたのおねえさんと一緒に歌を歌っていた。
千夏「あたしね!大きくなったら絶対うたのおねえさんになる!!」
千夏のお母さんは、何度このセリフを聞いたことだろう。
テレビの中のおねえさんはとてもキラキラしていて歌が上手で千夏は釘付けだった。
千夏がうたのおねえさんに釘付けだった頃から13年。千夏は東京の音大を卒業し、NHKの面接を受けたが、一次面接で落ちてしまった。
千夏「あぁ、私やっぱり向いてないのかな、小さい時からずっと憧れだったのに」
なんとなく、結果はわかっていた。音大で自分より歌の上手い子はごまんと見てきた。ましてや、有名音大から志願者が集まるNHKなら尚更だ。口では夢を語ってきたが、小さい頃の情熱は千夏の中にはとっくになくなってしまっていたかもしれない。
千夏「ん?この求人なんだろ。」
そんなことを思いながら求人サイトを流し見していると、気になる文言を見つけた。
千夏「あなたも、うたのおねえさんに?」
それは紛れもないうたのおねえさんの募集ページだった。
千夏「BSニッポンテレビ、教育番組でうたのおねえさんになりませんか。正社員雇用。学歴不問。福利厚生充実?ふーん。BSのあまり視聴率が高くないところのうたのおねえさんかー!意外と面白そうかも!応募しよ!」
千夏はすぐさま応募した。
するとすぐさま電話がかかってきた。
千夏「あ、あもしもし!」
???「もしもし?あなたが応募してくれた千夏さんね?早速だけど面接のお願いをしていい?」
千夏「あ!はい!もちろんです!」
声の向こうは30代ほどの女性だと思われる。
???「オッケー。じゃあ明日の午後とかどう?」
千夏「明日は空いてます!ぜひお願いします!」
???「了解。じゃあ詳細についてはメールで送るからよろしくね。」
すると電話は切れた。
とんとん拍子に進む話に千夏は嬉しさのあまりニヤついてしまった。
千夏「ふふふっ!これであたしもうたのおねえさん!小さい頃の夢、叶っちゃうな!」
そう浮かれていると、すぐにメールが届いた。
千夏「えーとなになに?勤務地は東京で勤務時間は10:00〜17:00で土日祝日休みか!服装は自由。ふむふむ。えっ?」
そこまで読み進めた瞬間、ピタリと手が止まった。そしてもう一度頭から読み直すが内容は変わらなかった。
千夏「放送時間、深夜2時?なんでこんな夜遅い時間に教育番組を?」
千夏は疑問に思いながら夜を明かした。