図書室の精霊
少年は放課後、人の少ない学校の図書室で本を読んですごしていました。
一人また一人と、図書室をあとにして、とうとう少年だけになりました。
本が好きな少年はまわりの生徒が帰っても本に夢中です。
そんな少年も下校時間がせまるとさすがに、まわりに誰もいないことに気がついてすぐに帰りのしたくをはじめました。
すると、机の上に一冊の白い本が置いてありました。
表紙もタイトルも何も書かれていない真っ白な本でした。
「なんだろうこの本。誰かの忘れ物かな」
少年は白い本を手に取り、中をみてみましたが、中身も何も書かれておらず、真っ白でした。
「不思議な本だ。忘れ物ボックスに入れておこう」
少年は図書室の入り口横のある忘れ物ボックスに白い本を入れました。
そして、そのまま図書室を出ようとした時です。
「君はえらいな。ちゃんと忘れ物ボックスに入れて」
少年のうしろから突然声がしたのです。
すぐに少年は振り返りました。
振り返った先には、少年よりも少し小さな男の子がいました。
「誰?図書室にはぼくしかいないはずだけど……」
「そう?ぼくは君よりもぞっと前からいたけど」
「君、見かけない子だね。何年生?」
「ぼくは、ここの生徒じゃないよ。うーん、なんていうのかな、図書室の精霊?みたいなものさ」
「精霊!精霊って男の子なんだ!ぼく初めて見たよ」
「君は面白いね。ぼくは、いろんなものに形をあえられるのさ。例えば、真っ白い本とか」
精霊がニコッと笑っていいました。
「あれ?さっき入れた白い本がない!」
少年は忘れ物ボックスに白い本がないことに驚きました。
「さっきの白い本は、ぼくだったんだよ。それを君がひろってくれたからお礼をいいにきたんだ。ありがとう」
「そんな別にいいよ。ぼくはただ誰かの忘れ物だとおもっただけだから」
「なかなか忘れ物だとおもってもそのままにしていく子が最近は多いからね。しかも、最近はめっきり図書室に遊びに来てくれる子どもがへったからぼくもつまらなくてさ。君だけよ、毎日きてくれるのは」
精霊はさびしそうにいいました。
「ぼくは、本が好きだし、この図書室のにおいが好きなんだ」
「君は優しいね。今日のお礼、これあげるよ」
精霊の手から忘れ物ボックスに入れた白い本が出てきました。
少年は精霊から白い本を受け取りました。
そして、ページをめくり、精霊にお礼をいおうと顔をあげると、そこにはもう精霊の姿はありませんでした。
「精霊さん、ありがとう。大事にするね」
少年がお礼をいうとどこからか声が聞こえてきました。
「君はたくさん本を読んでいるからその白い本に自分だけの物語を書いてごらん。きっと君ならステキなお話を作ることができるよ。それじゃ」
静まり返った図書室には、少年だけが残っていました。
少年は、精霊からもらった白い本を大切にかかえて、図書室を出ていきました。