BIO+FORM考 自然と建築の幸せな関係 #04 『自然の仕組みの理解:植物文明への移行とパーマカルチャー』
■植物文明への移行
自然の仕組みを非常に大雑把に煎じ詰めると、「流れ」と「循環」と「ストック」ではないだろうか。地球上のエネルギーと栄養と物質は、太陽のエネルギーをエンジン役とし、水を運び屋として、この地球という世界を回っている。水、風、栄養、熱が流れの中にあり、生命はその中でエントロピーを小さくする形でストックとして存在する。こうして地上でそれを固定化してくれるのは植物である。
現在の環境問題は、一方的な生態系からの収奪→利用、消費→廃棄→環境容量の限界 という仕組が破綻していることが原因である。とすると、言うまでもなく、その一方通行的な消費廃棄構造を循環型にしていくこと、が自明である。つまり現在の環境問題を解決してくれるのは大雑把に言うと、植物を中心とした生態系の仕組み(=農的な仕組み)に倣うことであり、そうした文明観に転換していく必要がある、ということである。
植物をベースに、生態系は全て連環していて、その多様な連続性こそが、生態系の仕組みを健全に保ってくれる。それに倣うとすれば、現在起きている環境の諸課題についても、対処療法的に断片的に取り扱うのではなく、「同時に」向きあう方法論と態度が求められる。
■生命は管(チューブ)である
全ての生命は、流れてくる栄養、水を取り込み、消化し、その栄養を受け取り、不要物を排泄していく。いわばチューブの構造をしている。植物の根と茎を貫く無数の管。あるいは、口腔動物から始まり全ての動物は口というチューブの入り口から食べ物を摂取し、腸内をめぐって最後は肛門から排泄される。同じ構造である。
また、植物の根の周りに微生物が住み、その共生関係が植物の生育を助け、土中生物の生存も助け、という関係性が蓮担している。
つまり、全ての生物は「開放系」の仕組みが基本で、その膜的構造も常にその外部と応答的に振る舞っている、と言えるのではないか。
こうした構造は私たちが人間の様々なデザインを想定するときに、メタファーとしてあるいはミミックとしてとっかかりになるように思う。
■パーマカルチャーというデザインの方法論
生態系の仕組みを見据え、世界中の土着的な暮らしを参照しながら、編集したアイデアが「パーマカルチャー」である。オーストラリアの生態学者 ビル・モリソンらが1970年代に提唱し始めた。
パーマカルチャーが提示するところは、自然界においては、全てが「資源」であり、「廃棄物」がない世界である、ということだ。
生態系や環境を総体的に認識、理解できるなら、『自然界にはすでに十分ある。私たちが足りないと思うのは、資源の使い方を知らないから、デザインが未熟、だから』なのである。
生態系がもつ全体調和的な仕組みが基本であるから、私たちの暮らしの要素を多様に結びつける「関係性をデザイン」することをパーマカルチャーでは重視している。また、パーマカルチャーの体系化に役割を果たしたデビッド ホルムグレンも、生態系の無駄のない仕組みを念頭に『創造的な下降』(creative decency)を主張し、「むしろより少ない資源でより豊かな文明を指向する」ことを提案している。
日本のように、これから社会が縮退する状況においては、「縮小するデザイン」が必要である。より少ない資源でより精神的に豊かな状況を作っていくことは、むしろ「創造的な下降」である。私たちの技術が目先の「部分最適」的な解決を目指していることとは対照的に、自然界は常にバランスをとっており、私たちも「全体最適」を意識したデザインに転換していくべきである。
■パーマカルチャー いくつかのデザインの原則
生態系の仕組みに倣い、パーマカルチャーではいくつかのその構造を模して、以下のようなデザインの原則を抽出している。
・自然の仕組み同様、多様性と多機能性を重視する
・自然と生物由来の資源に依存する
・自然の時間的な遷移に倣って、時間的、空間的に重層的な仕組みを構築する
・小規模な仕組みを指向する
などを挙げている。
これは環境的な建築を考える上でも非常に示唆に富む。
■環境建築の展望
以上のような認識のもと、これから目指すあるべき「環境建築」の姿を展望してみたい。
まず、建築を生命のメタファーとして捉えるならば、自然界の流れの中における一時的なストックである、と位置付けられる。自然物から生まれ、建築という外皮をまとい、環境と応答しながら新陳代謝を繰り返し、息長い生命力を保ち、解体される場合にはまた自然の中で再利用されるか、腐って還っていくのである。建築はあくまでもその場所に「できる」ものであり、建築外部の環境を排除し、どこからか降り立ってきたような宇宙船やカプセルではない。
近代建築の特質として、建築は設備が作っている、と揶揄されるように、均質な空間を空調技術によって実現し、全世界に拡大することが正義だった。しかしながらそれは環境容量と自然資源が無限と思われていた時代のことであり、現代においては当然のことながらできるだけ機械設備に頼らなくても済む建築を目指すべきであろう。
また、建築を構成する素材は全て地上資源の自然物で作られるべきである。特に住宅のような小規模な建築は、近代的な工業製品の素材を使わなくとも築造技術は確立されており、特殊な性能を備えなくてもよいことから、もともとその地域の気候風土に即した作り方が改めて基本となるべきである。サーキュラーエコノミーの議論が盛んな欧州においては、建築は「資源銀行」である、という捉え方をし始めているという。即ち、自然の摂理のごとく、建築がその寿命を迎えても、捨てるものはなく、次の段階の資源として活用されるデザインを目指そう、ということである。
■バイオシェルター
最後にこうしたデザインを指向する時、私にとって非常に示唆に富む方向性を示してくれた本を紹介しておく。
『バイオシェルター』(ナンシー・ジャック・トッド+ジョン・トッド著 芹沢隆志訳 工作舎 刊行年1988年)
生物学と建築学の統合を謳っており、この本の中でパーマカルチャーという言葉と概念も知るようになった。
おすすめである。