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天風哲学で学ぶ社長のあるべき姿 25
経営・事業の前に人をつくれ(25)
経営を行うためには、経営戦略や経営方針、あるいは経営手法や経営管理など、経営に関する重要な鍵(戦略的要素)はかなり多く存在する。またこれらを勉強し、理解し、実践している経営者もかなり多い。そして、真剣に取り組む社長ほど、その業績は確実にアップしていることは否めない事実である。
しかし、これら経営に必要なエッセンスを受け入れれば安定かつ繫栄する経営がなされていのか、という問い対する回答は否と答えたい。経営とは自社単独、あるいは社長一人で行うことはできず、そこには社会全体、多くの利害者の人たちとの係わりがあって初めて成り立っているからである。
すなわち、人間社会の関りを抜きに成り立つことはないのである。基本的には「人と人が接する」ことから始まり、そこで成り立つことを認識する必要がある。
経営とは多くの関係者が接することを通し、この関係をスムーズにかつ安定的に維持・展開させることが必要である。商売でいえば顧客や取引先、あるいは社会全体に対し互いに信頼関係などが構築されていることが前提となる。
一時的な付き合いならば、その場の印象で決まるが、長い付き合いともなると、これら関連する人々との関係、あるいは利害者集団との間に信用や信頼などの固い絆が結ばれている必要がある。
このように考えると、企業という組織の代表者である社長自身の個人としての資質が問われることになる。企業の業績がどんなに優れていようとも、この組織を代表する経営者がしっかりとした人格や資質を持っていなければ安定かつ優れた企業の維持・発展は不可能となる。したがって、まず経営や事業を考える前に代表者たる社長の人格を確立しなければならないのである。
ただ、残念なのは社長個人や会社の利益を優先して経営を行っている状況が如何に多いかである。それが原因で会社が窮境状態に陥るケースが多い。そして、そのような事態になっても自分以外に原因があると、真の反省なしで事を済ませようとしている。
しかし、企業存立の最も重要な経営者の考え方、人格、資質の確立なしで経営や事業が持続することは困難なのである。
多くの企業の相談を受けていると、その業績の良し悪しは単に商品力、技術力、マーケィテング力などだけでは片付けられない。特に仕事上のミスなどの簡単な原因によって起こされる場合は比較的短時間で解決するが、社長自身の資質等に問題がある場合は容易に解決することはできず、これが致命的になって企業が終焉を迎えるというケースも少なくない。
特に小規模企業の場合は、この点が顕著に現れる傾向にある。しかし、これを是正するにはかなり難しい。なぜなら、社長の資質を変えることは簡単にはできないからであり、社長自身を代えることはさらに困難となる。ゆえに経営という大きな課題を背負い運営していくには経営者たる社長自身はこの点を十分に理解して経営に携わることが必要なのである。
ではどのようにすれば良いのだろうか。経営とは前述したような戦略的要素(重要な鍵ではあるが…)だけではなく、最も重要なのは経営者が人間としてどのように生きなければならいなのかを悟らなければならない。
まさに人は何のために生まれてきたのか、企業は何のために存在するのか・・・という基本的なことについて真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。
中村天風氏は「事業をしている人、その心に信念があるか。どこまでも人間をつくれ、それからあとが経営であり、あるいはまた事業である」と諭している。