30万円ドブに捨てた話
その日、私は叫んだ。
大学図書館の1階で。
学部3年生。1月の半ば。
「今日は恐ろしいことをしてしまった。」とその日の日記にある。
その日は金曜日だった。学内ミサで歌ったから(聖歌隊員)覚えている。
お昼休みのミサの後、午後の授業がなかったので聖歌隊のみんなとラウンジへ。お昼ご飯と、ソフトクリーム(季節限定・青りんごソフト)まで食べていた。
その後、図書館でT先生のレポートを書いた。
17時ごろ、席を立とうとしたら英文科のI先生がいらして、お辞儀した。
そして何気なく手帳を開いた。そのとき。
「奨学金面接 13:54」
……あああああっ!!!
静かな大学図書館1階に、茶ぶどうの叫び声が響いた。
目を丸くしていただろうI先生の表情も見ないまま、私は走りだした。
学生部。学生部に連絡しなければ。
もちろん今さら図書館内を猛ダッシュしたところでなんにもならない。しかし走らずにはいられない。出入口のおばちゃんに睨まれようとも。
マジでなんでなんでなんでなんでなんで気づかなかったの!?
ミサの後で! せめて、青りんごソフトを食べる前に!!
朝は覚えてた、ちゃんと手帳見た、でもミサ終わってラウンジ行ったときにはもうすっかり頭から飛んでた。
毎年もらえていた、大学の奨学金。
成績じゃなくて、家庭の経済状況を申告して、基準に合えばもらえるタイプの。
額は変動するけどだいたい30万弱、1年次からもらえていた、返還不要、給付型の……!
ショックで呆然としつつ、学生部に電話する。
「書類選考のみになります」
「残念ですが不採用の可能性が濃厚」
……
面接をすっぽかしたのだから、当然だ。
帰りの電車。
すっかり肩を落とした茶ぶどうは、恨めし気に夜景を眺めつつ考えた。
これからどうやって稼ぐか。家庭教師のバイトをしていたが、プラス30万円稼ぐには。
コンビニで早朝・深夜バイトしたら時給が〇円だとして、1日〇時間やったら何日で〇万円で……
帰宅後は、バイトのサイトに2つ登録した。
両親にこのことを告白したのは3日後だった。
学生部で「ないものと思った方がいい」と言われ、泣きながら帰宅した日。
父も母も「過ぎたことだから気にするな」と言ってくれた。親の愛のありがたみ。
しかしそれはそれで、わが身の迂闊さが余計につらいのだった。
できることならタイムスリップして、青りんごソフトをなめていた自分の後頭部を殴りたかった。
育英会の奨学金(※返還必須)もあったし、これで大学をやめなければならないとかではなかったけど、やはり自分のしょーもない、あまりに情けないミスで30万円をドブに捨ててしまったのは、ショックだった。
中高一貫の私立学校に就職し、生徒にこの話ができたのはよかったと思う。
こんなマヌケでもなんとか生きてるからみんなも大丈夫だよ、って。安心できるか。
手帳に書いて、朝チェックして、それでも肝心なその時間には忘れて別のことをしている。
そういうミスは就職後にもあり、英語科会議はよくうっかり欠席したものだった。なんでみんな会議の時間覚えてられるんだろう。私は目の前の作業を始めたら時間感覚が消える。ハッと気づいたら英語科の先生みんないない。
(本当に忙しくて会議に出られないパターンもあるため、声をかけてもらえることを期待してはならないのだ)
なお今のお仕事では広報用写真撮影を時々していて、時間が決まっている。
スマホの目覚まし機能を利用し、「ピピピッピピピッ」と4分前に言ってもらうことでなんとかなっている――今のところは。
(↓↓好きな聖歌↓↓)
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