第2回 雨と帰る
あけましておめでとうございます。といっても僕はまだ2023年なのですが。これっていつか追いつくものなの? この連載が、常に自分の少し後ろをついて歩いてくるかわいい弟のようなものに思えてきた。
先日、知り合いが出演するオールナイトイベントに顔を出しに(次元の裂け目が現れてそこから本当に顔だけを出せるようになってほしい。顔の都合に体が巻き込まれるのはいたたまれない)久々に夜中の新宿に繰り出した。行って帰ってくるだけの話だが桃太郎もそうだし良いですよね? 令和の桃太郎、とまでは言わないが。
冬というより夏が死んで冷たくなっただけみたいな12月の日、24時ごろに新宿駅に到着。人がそれぞれ行きたい方向に歩いて尚且つぶつかりまくっていて、まるで逆日体大の集団行動だ。皆で「コント『新宿』」をやっているような見事な新宿っぷりを見せている。ぶつかりおじさんというジャンルの人間(若い女性など自分に文句を言ってこなさそうな人をターゲットにしてわざとぶつかってくる人)がいるらしいが、ベイブレードに生まれてくることができなかった自分の人生を呪って大人しくしておいてほしい。
そんなぶつかりおじさんだけを集めた集団行動とかあったら見にいきたいな、などと考えながら地上に出ると、パラパラと小雨が降っていて(パラパラってチャーハンと小雨にしか使わないよね)夜遊びにはむしろちょうどよかった。夜遊びというのはつい「自分」が大きくなってしまいがちだが、雨が輪郭に触れることで自分の大きさを認識できるというか「おまえはここまでの大きさだぞ」「おまえの形はこれだぞ」と再認識させられているように感じる。雨で抑えられた自意識によって、自分を自分が超えないようにできている。自分の形を忘れないように、人間はもっと雨に打たれるべきなのだ。特にぶつかりおじさんは雨にぶつかったほうがいい。この世界を牛耳っている支配層は実は傘が必要ないことを知っていて、だから傘は何年も前からずっと進化しない。人類よ傘を卒業しよう。(傘を忘れただけなのに)
会場が最近できた歌舞伎町タワーの地下だということで、今や観光地化しているトー横を通った。本来はTOHO横でトー横のはずが、もうトー横のほうが有名になりTOHOシネマズがトー横横になってしまっている。このままいったら、地球が「トー横下」と呼ばれてしまうのではないかというくらい勢いがある。そして宇宙が「トー横外」に・・・いや、みんなが大好きな哲学で言うと「トー横中」かもしれない。それにしても夜の新宿は本当にギラギラしている。もし大巨人のラッパーになれたら新宿をアクセサリーとして身に着けたい。新宿などの繁華街は、よく「眠らない街」と呼ばれることがあるが、眠らないというより人間たちが勝手に寝かせていないだけだと感じた。自分は寝たいのに夜中に細胞たちが勝手に爆音で騒いでいて不眠にされた挙句「眠らない人間・ぼく脳」とか呼ばれていたら、怒りのストレスでナスカの地上絵みたいなハゲ方をすると思う。
(イベントの話は「楽しかった」だけで終わるので端折ります)
会場の外に出るとまだ深夜3時だった(時計を見たわけではないが)。静寂にサビがあるとしたら深夜3時だろうと思うが、この街はまだ静寂のAメロにも入っていないくらい騒がしかった。まだ始発電車まで時間があるということで、歌舞伎町の奥にあるサウナ施設へ。ここは土地的になのかカプセルホテルなのにもかかわらずタトゥーがOKなのでよく利用している。これまた土地的にスリリングな常連さんが多いようで、ここでしか味わえなさそうな愉快な思い出がたくさんある場所だ。白い粉が入ったパケをサウナ内に持ち込んでいる人がいたので驚いて横目で見ていたら、おもむろにその粉を取り出して全身に塗り込み始めたので「行きすぎると体に塗り込むんだな」と思ってドキドキしていたら、その人が連れの人に「おまえも塩塗るか?」と渡していて、塩だったのかよまぎらわしい、となったこともあった。そんなサウナのテレビで『警察24時』がやっていたときは変な緊張感がサウナ内に漂っていて、この汗がなんの汗なのかわからなくなりまったく気持ち良くなれなかった。
サウナ施設を出ると外ではもう朝が完成していた。朝6時の歌舞伎町にはたくさんのカラスがいて、昨日の夜がカラスになってまだ残っているようだった。夜が姿を変えて、まだ逃すかと駅を目指す僕たちを監視している。気づいたら雨も上がっており、わずかな湿気を感じながら、雨も帰路についているなと思った。雲になるために空に帰っていく雨、まさしく雨上がり。雨と一緒に来て、雨と一緒に帰るなんて周囲の人に自分も雨だと思われてないかな?とどうでもいいことを考えながら、カラスになった夜をふりほどき新宿駅に到着し、運良くやってきた山手線に乗り込む。車内を見渡すと、おそらく寝ずにそのまま仕事の人や、まだすべてを諦めていない男などがいる。一駅止まるたびに、夜遊び用に着飾った人々が日常の自分に生まれ変わるために電車から降りていく光景を見て、朝方の山手線は輪廻に似ているなと思った。輪廻転生のようにぐるぐる回り、非日常から日常へと生まれ変わっていく。朝方の山手線で不意に輪廻転生の練習ができてしまった僕は「死がちょっと怖くなくなったな」と、歌舞伎町で夜遊びした人とは真逆の感想が頭に浮かんだのだった。
家族や恋人に向けた夜遊びに行く言い訳として、「輪廻転生のリハーサル」というセリフを使うことを僕は推奨します。(安全は保障しません)
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