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いつかまたご一緒に…
こんばんは、路草編集部のNです。広島市出身の僕は太田川三角州という、街のあちこちに川が流れている場所で育ったせいか、川には特別な思い入れがあります。
初めてエロ本を拾ったのも、好きな子に告白したのも、花見でどんちゃん騒ぎしたのも、学校をサボって昼寝したのも太田川の畔でした。
懐かしいな〜……。
すみません! 本題に入らせていただきます。
今回ご紹介させていただく作品は川野倫先生の『取るに足らない僕らの正義』。
2022年3月30日に一話を配信してから毎話ごと路草の最高PV数を更新し、とうとう五話で路草のサーバーを破壊した超問題作です笑
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僕が川野先生を知ったのはInstagramでした。日常のワンシーンを切り取った一枚絵や短編マンガが素敵で「いいな〜」と思っていた矢先、マンガ投稿サイト「デイズネオ」に掲載されている『ゆるぎある青さ』を発見しました。一発でノックアウトされました。
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初めてお会いしたのは2021年の9月末。当時、他社様で連載をしており「すぐには取りかかれませんが、次の作品は朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』みたいな群像劇にしたいんです。あるシンガーソングライターが失踪したことで周りの人間の生活が少しずつ変化していくような……」とご提案していただきました。
僕の狭い知識と経験ではマンガの群像劇とヒット作がうまく結びつかず、当初は不安を抱いていました。
ですが、時を重ねるごとにそれは杞憂に終わりました。打ち合わせで出てくるアイデアや、蒲田の銭湯で行われた個展にて作品を愛おしそうに見つめるお客さんの横顔を眺めながら、川野先生のずば抜けた感性に対して自分の理解度があまりにも低すぎるのではないのか思うようになったんです。
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そして一話のネームを読んで、構成力に脱帽しました。多野小夜子の悲しくて甘い歌詞から始まり、物語の中心人物である光の見開き、歌詞とリンクした主人公の日常。
めちゃくちゃ面白かった。
その後に来た二話のネームはさらにやばかった……。
僕もある天才のせいで自分の非才さを理解したクチなので、痛いほど二話の主人公の美樹に共感させられましたし、↓このシーンの見開きとめくった後の美樹の横顔は……、もう大大大好きでございます!
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思えば『取るに足らない僕らの正義』で赤字を入れたことはほとんどありません。それはネームやペン入れの完成度だけでなく、最初の打ち合わせから最終話ネームまでの425日間、川野先生が「読者に伝えたいこと」が一切ブレなかったからだと思います。
その揺るぎない想いを傍らで見続けてきたので、ネームを読み終えたとき満足感よりも寂しさが勝ってしまいました。担当編集者が大好きな作品を少しでも引き延ばそうとするのはこういうことなんですね。
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発売して約2か月、雑誌やテレビの「王様のブランチ」(TBSテレビ)でご紹介いただき、ニッチェ近藤さんには「これは救いのマンガだと思います」とおっしゃっていただきました。映像化して欲しいーーー!!
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そして今、川野先生は路草という川を下り海に出ていかれました。大海原で非凡な才能を遺憾無く発揮して一時代を築く作家のひとりになると、僕は確信しています。
先生、泳ぎ疲れたらいつでも川に戻ってきてくださいね。
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■書誌情報
『取るに足らない僕らの正義』
発売日 : 2023/1/11
著者 : 川野倫
本体価格 : 880円(+税)
仕様 : B6/並製/248ページ
ISBN : 978-4-910352-60-2
■著者プロフィール
川野倫
宮崎出身の漫画家。「ごめん」という別名義でも活動している。著書に『たとえばいつかそれが愛じゃなくなったとして』(KADOKAWA)など。
Twitter @gomendayo
Instagram @gomendayo0
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