15 瓦斯と煉瓦
ガスとレンガは、漢字上では親類である。
しかし、物質的には気体と個体。
水と油の相容れない、犬猿の仲。
そのことに、二人は悩んでいた。
というのも、二人は相思相愛の仲になり、一生一緒にいたくなったからである。
自分たちの気持ちは確かだと思う。
けれど、物質的には不似合いで祝福されないのでは。
と悩んだのである。
誰からも祝福されたい、すべての神に二人の愛を赦されたい、とガス。
誰からも祝福されなくても、この世の神を全員敵に回して楽園を追われても、二人の愛は永遠だ、貫こう、とレンガ。
おお、レンガ、どうしてあなたはレンガなの?とガス。
あなたこそ、なぜよりによってガスなのだ、せめて石ならこんなに悩まずに済むものを……とレンガ。
二人は、抱き合って悩みに悩んだ。
そして夜が明け二人の涙も枯れようとする頃、ふとガスが思いつき、言った。
「どうして今まで気づかなかったのかしら。わたしたち、漢字変換すればいいんじゃない?」とガス。
「カンジヘンカンて、なんだ」とレンガ。
「石頭ね、知らないの? やってみせるわね」と、ガスは急に元気になって立ち上がった。
そして、くるくると回りだした。
ガスはつむじ風になり、それからいったん「煉瓦」と誤変換し、最後にアイデンティティーを確立して瓦斯自身になった。
それを見たレンガは「そうか!」と膝を叩き、石頭を地につけ倒立し、自分もくるくる回り出した。
レンガは次第に緩くなって粘土になり、轆轤上で踊りだした。
それからいったん「瓦斯」と誤変換し、最後にアイデンティティーを貫き煉瓦自身になった。
「わたしたち、もうどこからどう見ても、異質同士じゃないわ」と瓦斯。
「似合いの夫婦だ」と煉瓦。
二人はしっかり抱き合うと、ひとつの瓦斯煉瓦になった。
ベッドで愛し合うと、混じり合って瓦瓦斯煉になった。
さらに求め合い、与え合い、預け合い、借り合い。
自分を失いながら陶然と上り詰めると、絶頂で放心し、バラバラになった。
二人は、自他の区別のない、無数の棒になったのだ。
そこへ旅人がやってきた。
「なんだ、ちょうど煉瓦と瓦斯があるぞ。おまけに薪もたくさんある」
旅人はささっと煉瓦炉を作り、その中に薪をくべて瓦斯にマッチで火をつけた。
すると、ボワッと炎が上がった。
「あったかいな……。天国天国」
そう言うと、旅人は寝そべり、寝息を立てて眠り始めた。
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