12 かさぶたとUFO
かさぶたとUFOに恋をしていた時期は重なっている。
昭和の、小学生時代。
かさぶたは、毎日派手に転んでいたわたしの膝頭に常駐していた。
釜型のUFOは、常にわたしの脳内でわたしの宇宙をパトロールしていた。
わたしは、かさぶたとUFOと寝ても覚めても一緒だった。
わたしがかさぶたで、わたしがUFOだった。
子どもは、言葉に含まれるすべてを感受する生き物だ。
わたしは、かさぶたに含まれる傘も笠も嵩も豚も、全部わかっていた。
わたしは、UFOに含まれるyouもforもoh!も、全部わかっていた。
そして、何の不安もなかった。
かさぶたとUFOがいればなんにも怖くないし、なんでもできると思っていた。
つまりわたしは、世界と自分全体を、丸ごと愛していたのだ。
しかし、蜜月時代には必ず終わりが来る。
わたしは、ある疑いを持ちはじめた。
疑いというのは、愛のひびから漏れた水だ。
わたしは、わたしの中でかさぶたとUFOが愛し合ってしまうのでは、と怯えた。
他者同士が愛し合うのを喜べてはじめて愛の人になれる。わかってる。
でもわたしは、二人の、わたしを除外した不貞を疑ったとたんに、急に小さな、心の狭い人間になり下がってしまったのだ。
案の定、二人は密通していた。
わたしの目を盗み、夜な夜な密会していた。
わたしは夜も眠れず、宿題をやり忘れ、持ち物を忘れ続けた。
わたしの生活リズムは崩れ、学級委員長として失格という烙印を押された。
わたしは、常にひどい頭痛に襲われていた。
ある帰り道。
わたしは派手に転んだ。
いつものことだ。
わたしは宙に浮き、すってーん!とうつ伏せにスライディングしようとしていた。
そのときだ。
わたしの中から二人が出てきた。
かさぶたは未来に先回りして、新たなかさぶたを吸い込んでくれた。
UFOも少し未来に先回りして、わたしを受け止め宙に浮いてくれた。
おかげでわたしは地面に着かずに済み、恒例の膝頭の傷の誕生を回避したのだった。
かさぶたとUFOは、すでに夫婦だった。
わたしは更なる絶望をしようとして、しかしそうすべきではないことに気づかされた。
二人は、わたしの両親だったのだ。
どうりで、気づいたらすでに出会っていたわけだ。
どうりで、いつも二人に見守られているわけだ。
わたしは深く安心し、「もう大丈夫。ありがとう」と言った。
すると二人は目を見合わせ、一緒に空の彼方に消えていった。
/ ぜひ、ご感想をお寄せください! \
⭐️↑クリック↑⭐️
▼この連載のほかの記事▼