台湾発翻訳コミックス『用九商店』第5巻 発売記念 | 訳者・沢井メグ特別コラム
皆さんこんにちは!
2022年1月に発売しご好評いただいている台湾翻訳コミックス『用九商店』。この度、7月13日(水)に5巻が発売となりました。
この5巻をもって『用九商店』は完結です。ここまで作品をご覧くださった皆さま、本当にありがとうございました!
さて最終巻にまつわるnoteでは作品にも深くかかわる「廟(びょう)」と「おみくじ」についてのお話をお届けしたいと思います。
本記事の執筆は翻訳を担当した沢井メグです。
台湾の廟とは?
『用九商店』1巻内の注釈(p.89)で「廟は台湾人にとってとても身近な存在」と紹介しました。さらに主要キャラクターに廟公(ミャオゴン)という廟の管理人も登場します。『用九商店』には廟が登場しない話はないくらいの勢いで廟や民間信仰が登場しますが、そもそも台湾の「廟」とはなんなのでしょうか?
1巻第二話 p.89より。日本ではあまり馴染みがないですよね
台湾の「廟」とは、どの宗教の建物なのか。
線引きは難しいのですが、民間信仰の宗教施設というのがしっくりくるように思います。台湾の宗教観は独特です。海の向こうから伝来してきた道教や仏教、儒教が土着の信仰と結びつき、独自に発展した民間信仰が生活の一部として溶け込んでいます。
台湾では「道教の廟だと思ったら仏教の観音菩薩も祀られていた」というケースも少なくありません。たとえば観光スポットとして有名な台北の行天宮は主神は関羽で道教、仏教、儒教の三教を習合させた施設としても知られていますね。
実際の「北天宮」の様子
台湾で登記されている宗教施設は約1万5000軒(2020年現在)。そのうち廟は最多の約1万軒。未登記や個人で管理している廟を含めるとそれ以上です。ちなみに台湾のコンビニエンスストア数が約1万2000軒で密度世界2位(2020年現在)と言われていますが、廟だけでコンビニに迫る勢いとはその数の多さがうかがい知れます。
さてそんな廟は宗教施設であると同時に、地域の公民館的な役割も担っています。廟の管理人は町の世話役のような一面も持っていると言えるでしょう。みんなに頼られる廟公を見ていたら、4巻に登場した幼い頃の俊龍(ジュンロン)が廟の管理人に憧れていたというエピソードも納得ですね!
「おみくじ」で神様からのメッセージを聞く
台湾では困りごとがあると廟に行って神様にお伺いを立てることが少なくありません。用九商店差し押さえの危機では、廟公がポエ占いを通して廟で祀っている媽祖神(まそじん)にお伺いを立てていました。
1巻第五話 p.196より。用九商店差し押さえの危機に、普段は堂々としている廟公もさすがに神様を頼りたくなる状況に……
また鳳玉(フォンユー)が、今後のキャリアのために台北に行くべきか、慕っている俊龍がいる故郷に残るべきか迷った際に、昭君(チャオジュン)は「廟でおみくじでも引く?」と誘っていますね。
2巻第二話 p.59より
台湾でおみくじは就職や結婚、引っ越しなど人生の節目においてなにか決断するときに引くものです。鳳玉にとって台北行きは、まさにおみくじを引く絶好のタイミングだったと言えます。
昭君、ナイスフォロー! ではありますが、鳳玉にとってはここで恋敵が意外といい人だったことがわかり……。恋敵を憎みきれない鳳玉の心情は察して余りあるものがありますね。
2巻第二話 p.58より
しかも鳳玉が引いたおみくじの内容と、彼女が直面した現実はなんとも切ないものでした。ですが最終巻まで読むと神様は遠くまで見通して鳳玉にこの言葉を送ったのだと感じられるでしょう。おみくじはその場限りのアイテムではなく伏線だったのかもしれません! ぜひ5巻の展開にご注目ください!
台湾の神様はポエマー!?
さておみくじと言えば、『用九商店』5巻では完結を記念して一部書店にて「おみくじ栞」がつきます…!(パチパチ〜!)
実際に台湾の廟でおみくじを引くときは、いくつかのプロセスを踏む必要があります。まず神様におみくじを引いてよいかポエ(三日月型の木)を投げてお伺いを立て、さらにおみくじを引いた後も「このくじで本当に良いですか?」とポエを用いて確認しなければならないのです。
ですが! 「おみくじ栞」は『用九商店』5巻を書店で購入するだけでゲットできます! 配布店舗はこちらでチェックしてくださいね。(配布は予告なく終了することがございます)
中国語版「おみくじ栞」。裏面に日本語訳付き! ダブルで楽しめる仕様となっています
特典の「おみくじ栞」は実在する台湾のおみくじをベースに作られています。もしかしたら「おみくじ栞」を見て「ポエムすぎて運勢がわからない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ポエムなのには理由があるんです。台湾のおみくじはそもそもが漢詩仕様。神様はポエマー!? そしておみくじの読み方は日本のように運勢を占うというよりは、具体的なことに対しお伺いを立てるのが基本です。だから詩の中に「今は時機が来ていない」「動くならこの季節がいいよ」というメッセージが入っているのですね。
とは言え、なんと言ってもポエムなので、台湾でも一般の方はおみくじの意味がよくわからないそう。
そこで活躍するのが廟にある「解籤處(おみくじ解説所)」。解説所に行って、神様に聞いた内容と引いたおみくじを見せると、解説員が詳しく神様からのメッセージを教えてくれますよ。ただ全ての廟に解説所があるとは限らず、廟で解説を聞けなかった場合はおみくじ解説のウェブサービスを利用する人もいます。近年では、おみくじ解説YouTuberも誕生しています。
用九商店の「おみくじしおり」に解説はつかないの!? という方、ご安心ください! 解説所の代わりに、漢詩の訳として日本語で一般的な解釈を載せました。ぜひお伺いを立てておみくじを引いてみてくださいね!
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5回に渡りお届けした特別コラムも今回で最終回です。
コラムを通して少しでも深く作品の世界観を味わっていただけたり、台湾文化に興味を持ってくださった方がいらっしゃったらとても嬉しいです。ご覧いただきありがとうございました!
台湾にはルアン・グアンミン先生の他作品も含めて、おもしろい漫画がたくさんあります。読んでみたい作品があればぜひ教えてくださいね。私もたくさんの台湾の作品が日本で紹介されることを願っています。またどこかでお会いしましょう!
文:沢井メグ
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『用九商店』はWEBコミックサイト「路草(みちくさ)」にて試し読み配信中! ぜひご覧ください◯
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■書誌情報
作者:ルアン・グアンミン
訳者:沢井メグ
仕様 : A5/並製/202ページ
本体価格 : 900円(+税)
発売日 : 2022/7/13
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
ISBN : 978-4-910352-41-1
あらすじ:
進徳(ジンダー)からよろず屋を継ぎ、「記憶の箱」を守りながら村の発展を支える俊龍(ジュンロン)。
一度は縁の切れた母親と再会する昭君(チャオジュン)。
全てを投げ打ってでも、不正に抵抗する恩沛(エンペイ)。
それぞれの選択した未来が、新たな日常となっていく。
あなたの場所が、きっとある。
『用九商店』、堂々完結!
■作者/訳者プロフィール
◯ルアン・グアンミン
漫画家。スッキリした作風と、ユーモアある感性豊かな筆致が特徴。台湾社会に根ざす温かみあるストーリーを得意とし、登場人物の思い、人間関係、心の機微をきめ細やかに描く。また彼の描く台湾の風景には定評があり、レンガ一つ、草木一本に至るまで伝えたい優しさが込められている。漫画への思いは十年一日のごとし、いつまでも変わらない情熱をもって作品を描き続けている。数多くの漫画賞を受賞、国際舞台でも活躍。
代表作:『刺客列傳』『東華春理髮廳』『幸福調味料』『天國餐廳』等
【Twitter】@guangminruan
【Instagram】@Ruanguangmin1
◯沢井メグ
中国語翻訳者、ライター。上海万博での勤務、通訳・翻訳業を経て、2011年よりWebメディアでライター/エディターとして活動。中国や台湾をはじめとする中国語圏のニュースの翻訳のほか、現地の漫画やアニメ等ポップカルチャーの紹介や取材を行う。2020年に独立。現在は多数の媒体で台湾経済誌や著名人のコラムを翻訳、オリジナル記事の取材・執筆。主な訳書に毎日青菜『DAY OFF』、『TAIWAN EYES GUIDE FOR台湾文創』翻訳パート(共にトゥーヴァージンズ刊)。
【Twitter】@Megmi381
【Instagram】@megmi381
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出版社トゥーヴァージンズが運営するWebコミックメディア「路草」は毎週水曜日に更新しています。目的地への旅の途中に、ぜひお立ち寄りください。
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