BAG ONEイベントレポ #07 | 写真集 『SHOSHINSHOMEI-正真正銘-』 発売記念 Atsuko Tanaka(写真家)× 渡辺志保(音楽ライター) HIPHOPトークショー
¥ellow Bucks、LEX、あっこゴリラ、 Charlu、椿……現在の日本のヒップホップシーンを盛り上げる若手ラッパーたちを撮影したAtsuko Tanakaさんによる写真集『SHOSHINSHOMEI-正真正銘-』。
その写真集の発売を記念して、「写真集『SHOSHINSHOMEI-正真正銘-』発売記念 Atsuko Tanaka(写真家)× 渡辺志保(音楽ライター)HIPHOPトークショー」が、7月16日に行われました。
(左)渡辺志保さん (右)Atsuko Tanakaさん
元々は写真家を目指していなかった
本書を撮影した写真家Atsuko Tanakaさんは、高校卒業後に単身渡米。ナズやア・トライブ・コールド・クエストなど、今や「クラシック」と呼ばれる名盤を発表したラッパーをはじめとして、ビヨンセやレオナルド・ディカプリオら、著名人のポートレートも多く撮影しました。
そんなAtsukoさんですが、元々は写真家志望ではなかったとのこと。当初、アメリカの大学ではファッションを専攻しようとしていたそうです。
Atsuko Tanaka:元々はスタイリストに興味があって、ファッションの勉強をしようと思っていたんです。でも、通っていたカリフォルニアの大学では、ファッションのプログラムがあまり充実していなくて。そこでどうしようかな、と思っていた時にたまたま写真に出会いました。「写真だったら自分でモデルを選んで、スタイリングをすることができる」と思ったことがきっかけですね。
大学卒業後はニューヨークに引っ越し、アルバイトをしながら撮影した写真を出版社に持ちこむ日々。その時にヒップホップ雑誌『BEAT DOWN』編集部に巡り合い、大物ラッパーのデ・ラ・ソウルやLL・クール・Jを撮影、写真家としてのキャリアをスタートさせます。
表紙を撮影した『BEAT DOWN』を手にするAtsukoさん
その後2015年に帰国。『SHOSHINSHOMEI-正真正銘-』は、Atsukoさんの写真家人生初の写真集となります。
今回ゲストスピーカーとして登壇した、音楽ライターの渡辺志保さん。
これまでにケンドリック・ラマー、エイサップ・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへインタビューを実施。
共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」、bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。
「今」しか見ることのできない表情を捉えたい
写真集『SHOSHINSHOMEI-正真正銘-』は、今の日本のヒップホップシーンを盛り上げる若手ラッパー14名を撮影した写真集です。
【掲載アーティスト】(順不同、敬称略)
JP THE WAVY / WILYWNKA / ¥ellow Bucks / OZworld / MIYACHI / LEX / Red Eye / Hideyoshi / Leon Fanourakis / ralph / AKKOGORILLA(あっこゴリラ)/ week dudus / Charlu / Tsubaki (椿)
長年、「フィメールラッパー」に焦点を当てた写真集をつくりたいと考えていたAtsukoさん。そのため、本書も制作当初は「日本」の「フィメール」ラッパーを主役に据えていたそう。それが、どうして本書のような形式に変化したのでしょうか。
Atsuko Tanaka:最初は「フィメールラッパー」のくくりで写真集を出そうと思っていたのですが、具体的に企画を考えていくうちに、だんだんと今の時代「男性・女性」というふうに「性」で縛ることに疑問を抱くようになったんです。それだったら、自分が「いい」と思ったアーティストを撮影しようと。
また、今作では「若い時にしか出せない『表情』や『雰囲気』を捉えること」を重要視したそう。被写体を選ぶ際には、どのようなことをポイントにしたのでしょうか?
Atsuko Tanaka:まずやはり、「音楽がかっこいい」ということ、今の世代から支持を集めている「カリスマ性のある人」だということでしょうか。加えて、今はラップをしている人がすごく増えていて、簡単に始めて簡単に終わってしまう人がたくさんいると思うんですよね。なので、「音楽に対してすごく真剣に向き合っている人」がいいな、と思ってそこは大切にしました。
ラッパーの新たな一面、女性をラッパーとして写真に残すこと
今回の写真集の特徴のひとつが、その「撮影場所」。Atsukoさんはラッパーそれぞれの地元やゆかりの地で撮影を敢行しました。
というのも、ラッパーにとって、自らの背景となりリリック(歌詞)に大きな影響を与える「地元」は特別な場所。名だたるラッパーたちが自ら育った「地元」を、曲を通して「レペゼン」(英語でrepresent、「地元を代表する、自らであらわす」のような意味)し、名曲を生み出してきました。
そのようなリラックスできる場所で撮影されたラッパーたちの写真に、「『こんな表情するんだ』、『こんな顔見たことない』という写真が多くあり、とても新鮮でした」と、渡辺さんは話します。
SNS全盛期の今であっても、自らをブランディングしたアーティストたちの「素」の表情を見ることはかなり困難。しかし、Atsukoさんは本書でアーティストたちの「少し気の抜けた表情」や「些細な日常の仕草」に注目し、カメラに収めています。
渡辺志保:今回の写真集は「コラージュ」の構成もとても印象的ですよね。
Atsuko Tanaka:元々自分でコラージュを作ることが好きで、今回も、自分でコラージュをデザインしています。コラージュをしていると、「こういう写真がほしいな」と思って、撮影をすることもありました。
ラッパーゆかりの地を訪ねて、日本各地に撮影に向かったというAtsukoさん写真は¥ellow Bucksさんの撮影のため、高山へ向かう途中の光景
トークイベントの終盤、渡辺さんの印象的な言葉がありました。
渡辺志保:この写真集で個人的にとてもうれしいところがあって……。
「性別」という枠組みでお話することはナンセンスだと思うのですが、それでもやはり、今作で「日本における女性のヒップホップアーティストにしっかりとレンズを向けている」ところにとても惹かれました。
以前、日本のヒップホップの歴史を調べていたことがあるのですが、女性の名前が「その他大勢」でまとめられていたことがすごく心に残っていて。今まで、日本のヒップホップシーンにもラッパーやDJなど女性がさまざまなかたちで存在していたはずなんですが、彼女たちがいた「証」がとても希薄で、もっとあってもいいのにな、とちょうど考えていたところだったんです。
だから彼女たちの表情を、今回Atsukoさんの写真で改めて「見る」こと、「残された」ということが、私自身、同じ女性としてすごく大きな意味のあるものだと感じました。
まだまだ、無意識に刷り込まれた「性差」が根強く残る現在の日本。その中でもミソジニー(女性嫌悪)や「カネ、オンナ、ドラッグ」を強く打ち出してきたヒップホップという音楽で、「女性の存在を再認識する、残す」ということの意義。それは私が思っていたより意味深いことであったのだと、渡辺さんの言葉で気づくことができました。
そして、実はこのイベントがBAG ONE移転前の最後のイベント。
ビートジェネレーションやアウトドア、そしてストリートカルチャーにまつわる書籍を多数店頭に並べてきたBAG ONEらしく、最後を締め括ることができました。
写真:SHUSEI SATO、編集部
文:sa
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渡辺志保さんがナビゲーターを務める block.fm「INSIDE OUT」はこちらから聴くことができます↓↓
【BAG ONE(バグワン)とは】
出版社トゥーヴァージンズが運営する「本を読む人が集まる場」をコンセプトにした「BOOK & CAFÉ BAR」です。
現在移転オープン準備中! 来春にまたお会いしましょう〜!
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【sa】
入社2年目、4月から編集部配属。「BAG ONEイベントレポート」は今回をもってしばらくお休みとなります! 来春オープンの際は、またこのレポートも復活予定です。今よりパワーアップできているよう、もりもりがんばります。皆さまも体調第一で、ゆるくお過ごしください〜