第5回 「初の大規模振り返り」
自身初の大規模個展(どこからが大規模?)の準備を理由に、ふた月ほどこの連載を休んでしまい申し訳ありませんでした。お詫びと言ってはなんだが(?)自身初の大規模個展のこれまた自身初の大規模振り返りをしようと思う。
まず、この本気の文化祭のような展示に12000人以上が来場した(どういうつもり?)。そのメイン理由として入場料が無料だったことがあると思うが、正確には「無料」や「タダ」ではなく「0円」にしていた。タダではなく、0円を払うという行為を皆様にはしていただきたいなということでこの値段設定にした。僕は0円=気持ち、だと考えている。お金を払いたい、という気持ち。投げ銭のようなもので、0円は後払いである。展覧会から帰る際、それぞれ自分が肖像画になってる0円札を出してほしかった。0円は0なので目には見えないが、僕が0円を受け取ったと感じられたらそれでいいのだ。もしかしたら透明なうんこを渡してきた人もいるかもしれないが、皆様たくさんの0円をありがとうございました。
ここからは具体的な展示の内容について触れながら大規模に振り返ってみる。今回の展示は3つのセクションによって構成されていた。実際に作品を買えるセクション(「出張!金三昧」)、作品を鑑賞するセクション(「runway 2024 AW」)、作品を鑑賞する環境を買えるセクション(「ぼく脳動画祭」)。(セクションセクション打っていたらクシャミしたくなってきますね。ならないですかそうですか)
まず1つ目の部屋は、僕の過去作をアーカイブ的に数百個ほど展示し、さらにそのすべてが購入できるという場所になっていた。息をするように制作、とまではいかなくとも、関節を鳴らすくらいに制作した我が子のような、とまではいかなくとも、同級生の子くらいのような作品たちを、Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバーたちが壁に向かって横囲碁(架空の競技です)を打つようにあっという間に展示してしまった。
所狭しと作品がディスプレイされたその風景を見つめて、展示は脳のグラビアだなと思った。さっきまで渋谷PARCOにいたはずが、気がついたらカンカン照りの砂浜で脳がポーズをとっている。まるで『「自分がふだん考えていること」ザ・ムービー』のラストかのように歴代の「自分がふだん考えていること」を集結させて……僕は恥ずかしさに似ているようで違う感情で途端に体がつけっぱなしのパソコンくらい熱くなっていた。これが大規模個展か、とそのとき初めて実感した。大規模に実感した。
来場者の展示のイメージとして、最初の部屋の正面にあった、目出し帽を被った僕のおでこに穴が開いていてそこから顔を出せる巨大な顔ハメパネルが印象的だったと思う。母親も展示に来てくれて顔ハメをノリノリでしていたのだが、自分の中に母親を入れてる、いや、入れ返してあげることができて、人生最大の親孝行だったと思う。息子の体内に入れる母親なんて数えるくらいしかいないだろうから。
2つ目の部屋はランウェイが1本(ランウェイの単位って本?)ズドーンと置いてあり、誰が見ても「これは展示をやっていますね」とわかるセクションである。展示初日のレセプション(この言葉を言うために人間は展覧会をやる)でファッションショーをおこなった。モデルは1人だけで服も1パターンのみ、一往復するごとに次は僕が出てきてランウェイを変えるという「ランウェイが主役」のショーを敢行した。履いていた靴をランウェイにかませてバランスを不安定にしたり、ランウェイにアドリブで迷路を描いていってその迷路通りにモデルに歩いてもらったりして、ラストはランウェイ自体をデザイナーの墓として、モデルが折り返す地点に穴を開けてデザイナーである僕がその中に入り土をかけて幕を閉じた。会期中はデザイナーの墓になった状態のランウェイを展示していたのだが、PARCOの中に墓があるのがすごく良く感じた。そもそも、渋谷のビル群は墓地にそっくりだし、この街がすでに何かしらの死の象徴なのかもしれないが。
3つ目の部屋は、僕が過去に発表した映像作品をつなぎ合わせて大体映画1本分(2時間)にした映像を流しっぱなしにし、それを様々な種類の座席で鑑賞するという有料セクションだった。選ぶ座席によって値段が違い、空気椅子、トイレ、自転車、テント、逆向きの席、石、旅館にある席、コタツ、ミニチュアのパイプ椅子など、殴られてもおかしくないような席を0円から3000円まで設定して販売していた。VIP席も用意されており、クラブのような黒光りしたソファーの足元には青いLED、シャンパンやポッキーなども提供されるが、その席はお金では購入することができない。VIP席に座るには条件が設けられており、作家である僕が独断で決める、「展示の鑑賞態度の優れている者」(僕がいるときに会場内で判断)と「会場に落ちているゴミを拾ってくれた親切な者」(故意に会場内にゴミを落としておいたが、僕の作風的に作品とゴミの区別がつかないため誰もそれをゴミだと認識することはなかった)という2つだった。お金がなくても一発逆転できる仕組みになっていたが、VIP発動があまりなかったのが残念である。数少ないVIPの例としては、トイレ席に2時間座り続けて鑑賞していた人、などである。
僕はこの部屋を展示のシャトーブリアン的な(一番いいところ)部屋だと感じていたのだが、この部屋にたどり着く人は全体の来場者数の割に少なかった。原因は色々あると思うのだが、一番は墓を通過しなければならなかったのが大きいかなと思っている。帰宅途中に便意を催し普段通らない墓地をショートカットのために通った思い出が誰にでもあると思うが、皆あの日の腹痛を思い出したに違いない。
2週間強の展示をやって貴重な経験とみずみずしい思い出ばかりなのだが、いざこうして大規模に振り返ってみると、ご両親と来ていた3歳くらいの女の子に目をまっすぐ見つめられ「よくわからなかったです」と言われたことが思い出の引き出し1段目に入っているので、次はあの子に向けた小規模個展をやりたいなと思う。
※作品集の完成が展示に間に合わず中身が白紙の約1000ページの本を見本として置いていたら、ぼく脳だから白紙のまま販売されると思われていたらしく「実際は中身がちゃんと印刷されます」と注意書きを書いたのだが、それすらも白紙で出すフリに思われていて、メタの狼少年になってキツかった。
作品集ぜひ買ってください。9月発売予定です。
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