01 はじめに
その週わたしは、気象庁とウェザーニュース社のアプリを50回は開いただろう。2022年11月、どうしても晴れてほしいイベントを控えていた。
しかし何度確認しても降水確率は80%から下がらず、イベント2日前にはついに100%と表示された。なんだよ、ひゃくパーって、予報のくせに。などと悪態をついているうちに、予報画面の「雨マーク」は「暴風雨マーク」に昇格した。わたしは憮然とくちびるをとんがらせて、窓辺に吊るしたてるてる坊主を見上げたのだった。
たまたま小田マサノリさんにメールする用事があったので、藁にもすがる思いで尋ねた。「どうにかして晴れさせる術はないでしょうか」。小田さんはアフリカ・ケニアで呪術師の弟子入りをした経験を持つ人類学者だ。その返信に曰く、「干ばつの多いアフリカには、雨乞いの儀式は山ほどあるが、雨封じの儀式は聞いたことがないですね」
ほほう。雨乞いと雨封じ、そういう対比か。わたしの胸に人類学的興味が灯った。さらに引き込まれたのは、そのあとコンゴ出身の友人ジャックとしゃべっていたときに、
「コンゴには雨を止めるモンガンガ(呪術)、あるよ」
と彼が言い出したことだ。
「どんなモンガンガ?」
「家の屋根にね、醤油を投げるの」
「え?」
投げるってどういうこと? スプーンにすくった醤油を下から屋根に飛ばすの? そもそもコンゴって醤油あんの? わたしは細かい疑問を繰り出したが、ジャックは笑って「うんうん、そうそう」とうなずくばかり。なにせお互いに語学力がない。謎が謎のまま、この会話は終了した(ジャックと話していると、そういうことが多すぎる!)。
さて、話はまだ続く。
小田さんに「コンゴには雨封じのおまじないがあるらしいです」と伝えたところ、「なるほど。乾燥地帯と砂漠地帯の多いアフリカの中で、熱帯雨林気候のコンゴなら雨封じの呪術があってもおかしくないですね。いいことを聞きました」と喜んでくれた。そして小田さんは「じつは」と続けた。
「じつは東アフリカにも、雨封じの呪術があるにはあるのです。でもそれは仲の悪い人の畑に雨が降らないようにする、というか、雨を横取りする、独り占めにする呪いです。いわゆる黒い呪術。あるにはあるのだけど、その存在も方法も秘密にしないといけないものなので、これ以上はお話ししません」
なんと。雨を横取りする呪い、その存在は秘密。話は俄然ディープになってきた! 世界は広い。にんげんの考えることは似ていて違っていて痛快だ。
結局、くだんのイベント「第2回難民・移民フェス」は笑っちゃうくらいの土砂降りのなかでおこなわれた。わたしはパンツまでびしょ濡れになりながら「降水確率100%は伊達じゃなかったぜ」とつぶやいた。そして翌日、雨ガッパおよび服一式を干しながら、閃いたのである。
世界の風習を集めたい。
雨乞いと雨封じにとどまらず、世界にはさまざまな不思議な、ときに恐ろしい、そしてマヌケな風習がある。風邪をひいたらコーラを飲む国があると思えば、霊柩車を見たら親指を隠す人もいる。そういうささやかな風習をたくさん集めて並べて愛でてみたい。
幸い日本には、ジャックのような海外ルーツの隣人がさまざまいるし、小田さんのように世界を訪ね歩いた人もいて、現在いろんな地域と繋がっている人もいる。そんなみなさんから各地の風習を集めたら、そこに付随するエピソードもついでにお聞きしたら、きっとめちゃくちゃおもしろいだろう。
なんて与太話をしていたら、トゥーヴァージンズの編集者が収集の場を設けてくれることになりました。みなさま、このささやかなプロジェクトにぜひご参集くださいませ。
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