PMW3360の駆動回路について
前回の記事にて、狭ピッチキーボードの設計を開始したと書きましたが、具体的には、
・狭ピッチカラムスタッガード
・一体型でGH60ケース互換
・親指トラックボール
という拘りの詰まった物を設計しております。
wings42とKeyball44とReex56のかけあわせとも言えます。
さて、本キーボードを設計するにあたり調べる事が多数ありました。そのうちの一つが、PMW3360の駆動回路についてです。
PMW3360はKeyballで採用されていることで有名だと思いますが、Reexシリーズやそのトラックボール基板を参考にしたThe Endointなどでも使用されています。九嶋さん(元設計はkbjunkyさん)がPMW3360のブレイクアウトボードをMITライセンスで公開されているので、私もこれを流用させていただくこととしました。
ただ、Keyballの回路と見比べると、搭載されている部品が若干異なる点に気が付きました。本日はこの、PMW3360の駆動回路についての考察記事となります。
前置きが長くなりましたが、PMW3360DM-T2QUの大まかなスペックを確認しましょう。
・駆動電圧1.8-21.V(Typ. 1.9V)
PMW3360のIC自体は1.9Vで駆動します。このため、USBの5Vで駆動するキーボードに組み込む場合、5Vから1.9Vに降圧する回路が必要となります。
・インタフェースは4ピンのSPI通信
ボールの動きはSCLK,MISO,MOSI,NCSの4ピンを使用して、SPI通信でメインのマイコンに送信されます。Keyballでもこの4ピンがProMicroに接続されています。よって、PMW3360のブレイクアウトボードとキーボードのメインPCBの接続はVCC・GNDとSPI通信の4ピンで合わせて6ピンで十分ということになります。
さて、以上の前提のもと、自作キーボード界隈で販売されていた3種類のPMW3360ブレイクアウトボードを見て考察していきます。
まず一つ目はKeyball搭載のものです。こちらは公式Githubに回路図が公開されています。
Yowkeesさんの設計の特徴は、
・TPS73601DBVで5Vから1.9Vに降圧する(公式データシートと同じ)
・3.3Vを用意せず、PMW3360からの出力信号は1.9Vのまま使用し、双方向電圧レベル・シフタを使用し、5Vに変換してメインPCBに送る
・ピンは7ピンで、最低限の6ピンにGNDを余分に追加している
となっています。ProMicroは信号を5Vで受け取っても大丈夫なはずなので、このような設計になっているのですかね。
7ピンになっているのは、L字コンスルーが7ピンのものしかなかったからではないかと推察いたします。
このように、信号電圧の安定化を図るために専用のICを使用しており、非常に手厚い設計となっています。
次に私が参考とした九嶋さん(kbjunkyさん)の設計です。
こちらはjsonファイルをEasyEDAで開くと、回路図やPCBが確認できます。
特徴としては、
・TPS73601DBVで5Vから1.9Vに降圧する(公式データシートと同じ)
・TPS73601DBVで5Vから3.3Vに降圧し、VDDIOに使用(公式データシートと同じ)
・接続部は8ピン。1ピンは無接続で、1ピンはMOTION出力。
となっています。つまり、公式のデータシートと同じく、3.3Vを用意してPMW3360に入力しています。また、SPIの信号については、ツェナー電圧が3.3Vのツェナーダイオードを使用し、信号が3.3Vを維持するようにしています。Yowkeesさんよりコンパクト化しつつもきちんとケアしている設計です。
8ピンなのは、こちらもコンスルーのピン数に合わせた印象です。Keyballと異なり、MOTION信号が得られますが、私はいまいち使い道が分かっておりません。
最後にmonkeypadさんです。
https://github.com/monkeypad/pmw3360-breakout/blob/main/pcb/pmw3360.pdf
・TPS73601DBVで5Vから1.9Vに降圧する(公式データシートと同じ)
・TPS73601DBVで5Vから3.3Vに降圧し、VDDIOに使用(公式データシートと同じ)
・接続部は8ピン。1ピンは無接続で、1ピンはMOTION出力。
そして、こちらは特に出力信号にケアをしていないように見えます。ただ、これはPMW3360のデータシートに忠実な設計です。他の2名の設計が手厚いだけで、PMW3360のブレイクアウトボードとしてはある意味王道なのだと思います。
以上、PMW3360のブレイクアウトボードの設計が人によって微妙に違うのが気持ち悪くて調べてみた結果です。結論として、省コスト・省スペース化を図るのであればmonkeypadさんのように最低限の構成で良いのかなとは思いますが、今回はあくまで九嶋さんの設計をベースとするので、私もツェナーダイオードは採用しようかと思います。
この記事はKeychron K11Proで書きました。