見出し画像

ゴムソフトボールの縄目が高くなる 販売開始から76年目の仕様変更

多くの人たちに親しまれてきたゴムのソフトボールが、76年ぶりに生まれ変わる。日本ソフトボール協会と検定ゴムソフトボール工業会は2月23日、中学生以上に使われている「検定3号球」の縄目を高くして革ボールに近づける新仕様を発表した。今年秋に発売し、来年4月から公式大会で使うという。


競技人口維持へ、投げやすく安全に

新しいボールは、革ボールの縫い目に該当する縄目の高さを、現行の0.5ミリから0.9ミリとし、革ボールの1.8ミリに近づけた。大きさ(周囲12インチ=30.48センチ)は今も革ボールと同じで、縄目の幅も現行通り13ミリ(革ボール12ミリ)。素材や重さ、反発の高さなどスペックも変わらない。

ただ、縄目が高くなって指のかかりが良くなり、特に投手が威力のあるボールを投げやすくなるほか、ボールに対する空気抵抗が増すため、打球の速度が落ちて安全性の向上が期待できるという。

1950年の販売開始以来となる仕様変更の背景には、主に競技人口の減少がある。ソフトボールの競技人口(2023年)は約13万7000人で、中高校生の登録が始まった2014年と比べて6万1000人減った。大人を含むゴムボール競技者が12万3000人を占めるが、これも5万人減っている。

少子化やスポーツ・娯楽の多様化が進む中、将来世代が何とかソフトボールに目を向けてくれるよう「ASOBALL」などの取り組みを進めており、今回の仕様変更も、中高校生がプレーしやすい用具にして競技に対する意欲が高まることを期待している。

右手前が新仕様の検定3号球、左奥が現行の3号球

日本ソフトボール協会の岡本友章専務理事は「競技人口の維持にはエントリー層の拡大が急務であり、そのためには新しい風を吹かせようと考え、より投げやすいボールの開発をメーカー各社とともに進めてきました」という。

若年層の国際大会対策も

同協会の亀田正隆技術委員長は、狙いの一つに国際大会への対応も挙げた。「(U15などの)国際大会は全て革ボールなので、(代表選手が)切り替えに時間がかかっていたことから、普段から少しでも国際球に近いボールを投げられるようにと、メーカーにお願いしました」

縄目の高さをもっと革ボールに近づける可能性も探ったが、製造過程で型に流し込んで成形したゴムを抜く際、縄目が高すぎると引っかかってちぎれたりはがれたりして、不良品が発生する確率が高まることから、0.9ミリに落ち着いたという。

新しいボールの感想を話す目黒日本大学高校の選手たち(東京都内)

0.4ミリの差でも感触は大きく変わる。記者会見の会場で目黒日本大学高校の選手たちがキャッチボールをした後、「縄目がすごく高いので、捕ってすぐ投げる時に指にかかりやすくて投げやすい」「滑りにくい」「ピッチャーは変化球が投げやすいかな」「持ち替えがしやすい」などと感想を口にした。スピンのかかったボールが、グラブの中で止まりやすい効果もありそうだ。

内外ゴムの土井正孝社長は「選手たちにいい感想をいただけてほっとしています。ソフトボールは世界の頂点に立つ日本の競技の一つであり、それを支えているものの一つがゴムソフトボールだと思っています。何とか一人でも多くソフトボールの魅力を知ってほしいとの思いも込めました」と話した。

販売は今秋、公式戦は来春から

各社の販売開始は今年の秋ごろで、来年4月から公式大会で使われる。価格は、現在の希望小売価格(1ダースおよそ1万3000円=税込)から、やや上がる見通しだという。一度に買い替えるのはチームの経済的負担になるだろうから、販売当初にはまとめ買い割引などを検討してほしいところだ。

色もこの際、黄色にそろえれば中高校生がトップ選手のような気分でプレーできないか、と思ったりもする。この点は今のところ、白の方が草むらで探しやすいとか、黄色のグラブがルールに抵触してしまうといった理由があるが、今後の検討課題にはなりそうだ。

2023年に日本で行われた初のU15女子ワールドカップで力投する山本心音投手(当時13歳、大阪・岸城クラブ)

戦前にアメリカから伝わったソフトボールでは、戦後の再開当初も革ボールが使われていたが、高価なうえに革がすれたり水を吸ったりして劣化しやすく、雨の多い日本には不向きだった。縫い目が切れるなど耐久性の問題もあり、ゴムボールが開発されて販売が始まったのが1950年のこと。以来、野球の軟式ボール同様、日本特有の用具として国民の娯楽・健康増進、競技の普及・発展を支えてきた。

現在は小学生や小学校低学年などに使われる小ぶりの検定1号球、検定2号球があるが、1号球は今年4月から検定対象外となる。2号球、3号球も刻印の表示が「2」「3」からサイズをインチで示す「11」「12」にそれぞれ変わる。

多くの大会や試合がゴムボールで行われている。近年はバットの性能向上などで革ボールだけでなくゴムボールも飛ぶようになり、以前は4面使えたグラウンドで2面しか取れないなどの声も聞いていた。来年4月から使われる76年ぶりの「新球」によって、どんな効果・変化が見られるか。(2025.2.24)

いいなと思ったら応援しよう!