あなたはわたし(14)【ナツキの記憶】
一瞬で、でも永遠のような葛藤の後。
僕は、決死の覚悟で、手を伸ばしました。
メイの手に触れようと・・・。
フェンスにおかれたメイの手に、僕は手を重ねたのです。
メイは指を開き、自然と僕たちは手を編み上げるように、指と指と絡めました。
なんということでしょう。
メイは僕を受け入れてくれました。
なんということでしょう。
またあの感覚が、やって来ます。
肌が溶け、細胞壁が溶け、メイの手は僕の手になるのです。
僕らは、手のだけ融合した、不思議なシャムの双子のような存在になっていきました。
馬鹿な・・・・。
そして、なんと甘美な感覚なのだろうか?
これまでの、こんな安心感があっただろうか?
母の胸に抱かれる幼子ですら、ここまでの安心感、一体感、融合感は味わえるのか?
そう思うくらいの、深い深い安心感に僕は恍惚となりました。
メイは特別な人。
僕の常識は白旗を揚げ、感覚の軍門に下りました。
このまま、永遠に手をつないでいたい。
それくらいの感覚でした。
そして、
声が聞こえました。頭の中で。
「おかえり」
節目で僕の人生を動かす、僕の中の声。今回で何回目でしょうか?
誰に言っているの?
「おかえり」
メイに?
「おかえり」
僕に?
「おかえり」
人称もなく、ただ聞こえるその声。
メイに言うべきなのか?僕が聞く必要があるのか?
それすらもわからない。
でも
「おかえり」
声は、まごう事無く聞こえるのです。
僕は夢遊病者のように考えもせず、脇に立つメイの左肩におずおずと手を伸ばし、引き寄せました。
そして、
「おかえり」
そう、囁きました。