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碧南市藤井達吉現代美術館「松本竣介《街》と昭和モダン -糖業協会と大川美術館のコレクションによる-」

過日、碧南市藤井達吉現代美術館で開催されていた「松本竣介《街》と昭和モダン -糖業協会と大川美術館のコレクションによる」に行ってきました。


はじめに

碧南市藤井達吉現代美術館とは

碧南市(へきなんし)は、愛知県の西三河地方、名古屋からは電車で1時間ほど南下したところにある人口7万人ほどのまちです。

最寄り駅となる名鉄三河線 碧南駅の駅前は、見事なまでに何もないのですが、そこから10分ほど歩いた、大浜てらまち地区と呼ばれる観光エリアにこの美術館があります。

碧南市藤井達吉現代美術館

開館は2008年と比較的新しく、この外観からは全く想像出来ないのですが、実は新築ではなく使われなくなった商工会議所の建物をリノベーションしたもので、幾つかの建築賞を受賞しています。

正直、それほど規模は大きくありませんが、このまちの出身で大正から昭和にかけて工芸家として活躍した藤井達吉の顕彰を行うとともに、同じ時代に活躍した日本人作家の企画展を積極的に行っていて、近代日本絵画好きの間ではちょっと名の知れた美術館になっています。

展示概要

今回の企画展は、製糖業者の業界団体である糖業協会が所蔵する近代日本洋画のコレクションと、松本竣介の作品を数多く所蔵する大川美術館のコレクションから「昭和モダン」のテーマに合った作品を集めて、大きく5章に分けて展示しています。

第1章 自然をながめる
第2章 テーブルの上の物語
第3章 松本竣介
第4章 人の形-肖像画から人間像へ
第5章 まだ見ていない かたち -幻想と抽象

ただ、最初に言ってしまえば全体的にテーマ感に乏しく、無理に「昭和モダン」というワードを持って来なくてもよかったのかなと思います。

そういう訳で、特にテーマには拘らず、自分が気になった作品をいくつか紹介したいと思います。

作品紹介

安井曾太郎《女と犬》1940年
公益社団法人糖業協会蔵
(碧南市藤井達吉現代美術館 公式HPより)

安井好きの私にとってこの展覧会で最も楽しみにしていた作品です。
安井の作品はまとまって所蔵している美術館がないため、フェルメールの全点踏破ではないですが、いろいろな展覧会を巡る中で安井の作品に出会えるのが、ひとつの楽しみになっています。

この作品は、俗にいう「安井様式」を確立した後の、脂の乗った時期に描かれたもので、主な画集には必ずと言っていいほど掲載されている一枚です。

この展覧会のテーマにはとてもよく合った作品で、タイル貼りの床に和装の女性の組み合わせが、いかにも「昭和モダン」を感じさせます。

実際に見た印象としては、床と壁の境の線が多少右肩上がりに描かれているところがかなり効いています。
自分だったら間違いなく水平線を引きますが、こういうところが才能の違いなんだろうなと思いました。

松本竣介《ニコライ堂の横の道》1941年
公益社団法人大川美術館蔵
(碧南市藤井達吉現代美術館 公式HPより)

大川美術館は、初代館長である大川栄二氏が40年かけて収集した作品を一般に公開する目的で開設された美術館で、その大川氏が松本竣介のコレクションを始めるきっかけとなったのがこの作品です。

大川氏の話では、仕事中に訪ねてきた画商が持っていた、その日初めて知った画家の作品にピピッときて、即購入を決めたのだそうです。

この作品には、よく「静寂」という言葉が用いられますが、ある人の記事で、「静寂」を擬音語(正確には擬態語)にすると「シーン」となるのに、その音すら存在しない無音の世界と書いていましたが、正に的を得た表現だと思いました。

しかし、ここに描かれている無音の風景は、シュルレアリズムのような無機質な空間ではなく、気温とか湿度といった人間が肌で感じ取れるような空気感が存在しているところに、この作品のよさかあるのだと思います。

松本竣介《黒いコート》1942年 個人蔵
(碧南市藤井達吉現代美術館蔵)

この個人蔵の作品は、この展覧会の特別出品として会期途中に追加されたものです。

美術館の説明によれば、つい最近行われたオークションで、国内の篤志家コレクターの方が松本竣介作品史上最高額で落札した作品なんだそうです。
ちょっと調べてみると、2024年7月20日の毎日オークションにおいて9200万円で落札されていました。

それよりも、公立美術館がオークションで落札された作品を20日もしないうちに展示に加えるには、よほど来歴がしっかりしているのかと思ったのですが、やはり、これまでに数々の展覧会に出品歴のある、松本竣介が好きな方にはよく知られた作品でした。

この作品は1942年に描かれでいるのですが、まだまだ和装が中心の時代に、黒いコートの襟を立て両手には手袋をしてと、現代でも目を惹くような装いは「昭和モダン」そのものであり、この展覧会に相応しい一枚でした。

あとがき

この美術館と同じ通り沿いに、古くから営む地元の鰻屋さんがあるのですが、このお店には「小まぶし丼」と称した税込1705円で食べられるメニューがあります。

炭焼きうなぎ 十一八「小まぶし丼」

お値段がお値段なので鰻の量は半身ほどしかありませんが、この鰻が実においしい(浜松で生まれ育った私が言うので間違いありません)ので、ちょっとでいいから贅沢気分を味わいたいという方には本当にオススメな逸品です。



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