【ゲーム紹介】 Void Stranger が面白かった話
まずはこれを聞こう。(特に 0:55~)
ちゃんと紹介したいというよりは、頭の中で思いついたことやゲームを遊んで説明したいと思ったこととか、感じたことをつらつらと綴った雑文です。
発売されて4ヶ月。もうそろそろネタバレ入れてもええやろ感。
本作を遊んだことがない方は、必ず ゲームを遊んでから読んでください。事前情報を一切入れずに遊んだほうが、絶対に 絶対に 楽しいです。
プレイしたいけど迷ってる人とかは「難易度」の章くらいまでで止めた方がいいかもしれません。プレイを諦めた人やクリアした人はご自由にどうぞ。
「さいごに」に言いたかったことを詰めてます。
買ってください。 遊んでください。
有志による日本語化 patch 👉 https://github.com/qeouo/vs_jp
Void Stranger の邦題を考える
総合的に見れば「深淵の旅人」が最もしっくりくるか。
Void => 本稿では『深淵』と訳した。直訳だと「空虚・虚無・虚空」となるが、本作での Void は、何もない無という空間すらも包括する多層の膜・次元 (Brane) によって構成されているという設定上、虚空という無を象徴する言葉よりも深淵の語が持つ「深さ・隔絶された異界の地」というニュアンスを持たせた訳の方が適切と考える。ただ、主人公格のVOID化は、どちらかといえば空虚化という訳に近い。
Stranger => 部外者・旅人・客人・流れ者・異邦人など、対応する日本語は多岐に渡り、限定的に一つの訳だけで本作の随所に用いらていれるこの語の意は表せない。英語の方が便利な語の例である。
Gray, Lily, Lilith, 各種で登場するNPC、全員がこの深淵における "Stranger" であり、それぞれに異なる "Stranger" の役割が与えられている。Gray, Lilith, などの主人公格は旅人に近く、Lilyは客人、NPCは流れ者、などそれぞれの役割に応じて適した訳があると考える。
総評
モノづくりとしてのゲーム、というものを極めた一つの作品 であると思う。個人製作(2人チーム)であるが故に、作りこみ度合が近年稀に見るレベルで高く、すべて網羅しようとしたら最後、帰宅困難必至である。ただ、残念ながら資本主義的な観点からも、難易度の観点からもいわゆる売れるゲームではないと感じるし、そういった諦観が作品そのものから滲み出てる。
プレイヤーに求めているスキルと忍耐力が尋常ではなく、そういう意味で人を選ぶ。やりすぎ要素の線引きが曖昧かつ絶妙で、「その理不尽は許すのにそれは許さないんだ」「え、そんなこともしてくるんですか、なめてんの?」みたいな感情になる。
それでも 個人的 2023 GOTY。こんなに面白い体験をしたのは、幼少期に遊んだ DK64 以来かもしれない。この1万字の文章がそれを裏付ける。
最高品質の体験と最高品質のストレス
地面に空いた巨大な穴に身を投じる Gray のカットシーンから始まり、壮大なシンフォニーと共に何十時間にも及ぶ冒険が幕開ける。
床を取り、道を作り、妨げるものを壊し、迂回し、深淵の底、そして深淵の終焉を目指す。
表向きは単純な床取りパズルゲームか、と油断させつつ蓋を開けると
残機制・ターン制床取り倉庫番パズルADVアクション謎解きゲーム が待っている。とんでもないキマイラ。2Dゲームの総合格闘技である。クリアし切った今、そうとしか言いようがない。
随所において一定の正しい順序で、正しい操作を行うことが求められる。その一歩が後の展開に致命傷を与えるかもしれなくなることを心に刻まなければならない。
グラフィックも、パズルパートは手の込んだ 8bit 風の見た目だが、ストーリーシーンや大事なシーンになれば更に手の込んだドット絵の世界が展開される。
製作者である System Erasure の前作である ZeroRanger (ZR) にて語られた、宇宙SF と 仏教 ミックスジュースのような世界観の延長 + アレンジとして、ダンテの神曲やキリスト神話を基とした本作オリジナル要素である『深淵』にまつわる事物を追加要素として足した、なんとも奇妙な世界観が構築されている。
両作品間で展開されていた世界観の異文化感・異世界感、しかしその奇妙な融和性が双方における関係性を端的に表しているように思う。異なる世界線の話だったかもしれないし、もしかしたら同じ世界線での話だったのかもしれない。。ZRにおけるIFの話なのか、ZRの物語の前に起きた事象なのか。。要領を得ないが、実際のところ作品内でも直接的な言及はないので、憶測の域を出ない。
とはいえ、別にZRを知らなくても十二分に楽しめるようにストーリーとしては成立しているため、あくまでも System Erasure ファンの皆様がお喜びになられるように意味ありげにしてるだけかもしれない。。どうでしょうね。
ストレスに関しては、冗談ではなくあまりの理不尽さに苛立ちを抑えられない場面はいくつもあったが、そんなことを詳細に書いてもつまらないのでそう記すにとどめる。
【能動的なプレイヤーの行動と能力を正しく評することの重要性】
このゲームは遊び方を一切説明しないし、してくれない。ゲーム開始後1分で手に入る杖の使い方すら説明が存在しない。おかげさまで自分は初めて遊んだ時に、杖をもらった部屋で見事に滑落死した。
次はどこに行くべきか、何をするべきかも片手で数えられるくらいしか示唆が与えられない。ゲームからプレイヤーに対する自動的なアクションは物語の提供以外ほぼ皆無といってよく、自分でボタンを連打しながら歩き回ったり蹴ったりして、反応するものを永遠と探し続けることとなる。
与えられるのは、床を引っぺがせる盤面と盤面展開、稀にしゃべる石だけである。懇切丁寧なステップbyステップチュートリアルなんて、そんな時間をこのゲームは取らない。新しいギミックが出るときは、静かに端でデモンストレーションのように展開させるか、石が直接的・間接的に伝えてくる。後半になればなるほど表現は漠然としたものになっていく。
プレイヤーさまを育てる気持ちは1mmもない。わからないんだったら一生わからないままで居ろとでも言わんばかりである。近年よく見る、さながら幼稚園児に向けたかのようなチュートリアルまみれのゲームとは真逆の方向性をとっている。
「自ら模索し、調べ、実行する」ことを奨励し、適切に報いる。この報酬体系に満足できない人は、つまらない、と言う。傲慢と感じるかもしれないが、ターゲットオーディエンスからは明確に除外されている。
でもそれでいいと思う。全ての人間に受け入れられるゲームなどあるわけもなく、ましてや本作に至ってはそれを求めていない。少なくとも表面上は。このような形でゲームを出したのには意図があったんだろう。少々度が過ぎていることも否めないが。
能動的なプレイヤーの探索する好奇心・行動・能力を正しい形で報いること。プレイヤースキルを正当に評価し、それに見合った報酬を与えること。意味のない部屋なんて1つもない。そのうえで、自身の好奇心と能力を良くも悪くも正当に評価してくれると思えるゲームは、本当に遊んでいて楽しい。
【挑戦者の気質、狂気の沙汰】
今までの人生でどれだけ様々なゲームを遊んできたか?
プレイ中に得られた経験を覚えているか?
ありとあらゆるゲームジャンルにおける基礎的な経験値・実力・パターン認識力・パターン構築力が直接問われる作品と感じた。
ただ単に、床取りパズルをクリアできるだけでは全く足りない。読解力、その上で展開される深淵の世界における関係性の理解、適宜挟まるアクションバトル要素への適応力、過去に遊んだ他作品での経験からの応用。。
生半可なゲームの腕や知識では、その挑戦の結果として得られる情報には辿り着けない。いわんや結末をや。
ただひたすらに壁に頭突きを続け、自分の頭が割れるのか、壁が割れるのかの根競べをするしかない。限界の上限値をあげることしか自分にはできないことを悟り、同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること。狂気シミュレータとも言える。
難易度
【パズルは頭を使えば絶対解ける】
自分はパズルゲームを遊んだことがほぼ無い。(HEXCELLS シリーズくらい)そんな人間でも、単にパズルゲームだけの難易度の場合、周回と階層の浅いうちは問題なく2~5分ほどで解けるものが多かった。しかし、後半・高難度周回に進むにつれて1面あたり平気で30分くらいかかるようなものも多くなり、たびたび発狂した。とはいえ、頭を使えば絶対に解けるパズルであるため、1つの面で1時間以上どん詰まり、というのはほぼなかった。また、時間制限ギミックなどもないのでじっくり考えて進むことができるのは、非常に助かった。
【全体としては屈指の難しさ】
ただ、ゲーム全体としての難易度はどうかと問われると、独りで完結させるにはすさまじくハードルが高く、人生で遊んだことのあるゲームの中でも、屈指の難しさに入る。
その難しさに寄与する要素として以下が挙げられる。
情報やアイテムの取り逃し・NPCの文言の見逃しが致命傷になる
一発勝負でミスると周回状態がリセット (実質全部やり直し) されるなどの理不尽要素のオンパレード
他ジャンルのゲームの要素、しかもその難しい部分だけを抽出・濃縮還元
ゲームの中で完結させることはまず絶対に無理な要素を盛り込み、ゲームの外へゲームの情報を出させる
この要素はもはや悪意を感じるレベルで酷く、複数人での知恵の出し合い・知っている人のヒント・ネットを見に行くくらいしないと並の人間には解けない。かくいう自分も配信中にあーでもないこーでもないと視聴者と言い合いながら辿り着いたクチではあるが、まぁひどかった。
自分の配信においては、この作品のあまりの難易度の高さ故に "BBD (Brain Boom Die)" という言葉が作られた。
直訳で、「脳・爆・死」である。
物語・キャラクター
深淵の最下層への道中で展開される、主人公らの深淵送り前の物語。
深淵での出会いと別れ。
引き継がれる想いと伝えられなかった想い。
深淵の根源と、それらの終焉。
これらが幾重の層を持って語られる。時間軸・世界線が直線的な一本道になっておらず、大まかな部分では解釈が一致するが、いくらか分岐するストーリーの作りになっていた。
本筋の物語に関しては過去作の ZeroRanger よりは遥かに分かりやすく、丁寧かつ直接的に伝えられている事が多いと感じた。ただ、物語の核となる部分はかなり強く隠蔽されており、一定の推論を用いる必要がある。
物語の演出の一部として、砕け散るガラスのひとかけらにほんの一瞬だけ映る誰かさんの笑みがあったり、展開されるその瞬間には分からなくても、しばらくして見返せばわかったりするものもあったりするのは、ゲームというよりもある種の映像作品としての見せ方を意識しているようにも感じた。
【親近感と憐憫、誘導灯】
周回する中で展開される物語は、主人公らの出自や背景等のバックボーンを固める役割として機能しており、本筋の深淵での出来事や深淵のなんたるかについてはあまり強く触れられない。
深淵の要素を織り交ぜた中世風時代劇
母子家庭の愛憎劇
姉の救出劇と深淵での出来事の違和感の示唆
こう要約して文字に起こすと果てしなく陳腐に感じるが、この裏事情をプレイの間に定期的に展開させていたことで、プレイヤーと操作しているキャラクターとの間における親近感・憐憫を感じさせる引き金として機能させていて、プレイヤーをより真の深淵物語へ引き込む誘導灯のような役割を果たしていたと考える。
【架空の歴史の授業をかき集める】
物語の本筋と密接に関わる深淵での出来事は、道中の石(本当は人魂卵)や「深淵の君主たち(Void Lords)」から直接語られる。断片的な提供が主になっており、これらの点をつなげ合わせ、深淵で起こった表向きの経緯、歴史観を構築する必要がある。
口を開けてストーリーを流し込んでもらおうと考えてる人は、たぶん何一つ楽しくないと思う。正しく労力がいる。深淵を練り歩き、架空の歴史の一点を教えてもらう授業を軽く4, 50回くらい受けてそれを七並べするようなもの、と捉えるとよい。
【断絶を感じにくいキャラデザイン】
登場人物一人を除いて全員陰気臭い。すごい。鬱々オールスターズ。物語の根幹が暗いので、必然的に全体的に暗くなるのもやむなし。深淵なんて場所にいて明るく活発に振る舞えるやつは、風呂にも入らず下着すら替えないアイツ以外いない。
人格を持って登場する者は皆、細やかに表情が描かれており、そのキャラクターが感じている感情が非常にわかりやすく伝わってくる。正直、雑なギャルゲーよりもよっぽどちゃんとした機微が描かれていると感じる。
深淵の君主らは、七つの罪源やダンテの神曲をモチーフとした性格・事情が用いられている。深淵という暗い印象を与える語の通り、誰一人としてその内に光を持つものはいない。どいつもこいつも靉靆としているにもかかわらず、比較的可愛げのある風貌に昇華されているがゆえに、明確な断絶を感じにくい。キャラクターの性分としても、ただの純真な悪という訳ではなく、それぞれに立場や事情があり、そう言った部分に感情移入をさせる余地があったように思う。
主人公格らはゲーム中は小さなマス目に立つドット絵だが、実際の立ち絵になると綺麗に描かれている。コミカルなタッチを用いて表現されている絵も多く、陰鬱・陰険な深淵の君主らと比較して感情の振れ幅が広く、人間臭さを際立たせた仕上がりになっているのは、深淵の者 と 人間という対比構造を明確に演出しているように感じた。
そういう意味では、感情の振れ幅が大きかったあの君主も一種「人間」として描かれていたようにも思える。
【顛末】
主人公が深淵の底へ到達することであったり、深淵を司るものとの対峙、特殊な条件を満たすことなどで1つの顛末を迎える。
今数えてみると10種類以上もあった。
結局何が正しい結末なのか、というのは正直なところ分からない。真END以外は基本的には補足事項のようなものだし、しかも真も複数あるので、じゃあ真ってなんやねんという気持ちになるわけだが、どれも根底にある深淵の何たるかを伝えるのに一役買っているので不要なものはなかったという認識である。
心に刺さったり残ったりしたのは、低難度周回のVOID END、高難度周回ENDと真ENDか。
一番はやっぱり真ENDかなぁ。何一つセリフがないにもかかわらず、演出・音楽のみで物語を締めくくる。音楽の抑揚や映像の描写による直接的な表現で、思わず涙が流れたほどには情緒への訴え方が上手い。
。。というか、結局お前 *** が作りたかっただけやんけ!!!!! って真エンドの時には思うわけですが、まぁもういいです。∀kashicforce も同罪で、結局この手のゲーム開発者はその呪縛、衝動から逃れられないらしい。
真EDの後にリリーストレーラーを再び見ると、なんとまぁ、色んな情報が隠されてること、と感動する。ゲームの外にある情報でゲーム内容を補完しにくるのもひとつの表現技法か。取説的な。
設計
Hellsinker. の製作者曰く全体設計としては「雑然に見える無秩序を正しい順の経路に並べ直すゲーム」。
全体設計の中にある個別のギミックとかに関していえば、個人としては「人間の学習行動・心理を逆手に取ったゲーム」という感覚だった。
床取りパズル+謎解きゲームがシステムの大部分を占めるため、設計としても個別要素をいかに物語と同調させるか、プレイヤーに自然と覚えてもらえるか、といったことを意識していたように思う。
【VOID化】
本作における最も特異な設計・要素と思われる。
残機をすべて失った状態で死ぬ(落下や敵への接触事故を起こす)と、続行するかゲームをやり直すかの選択を迫られる。続行する選択をすると、HPと
いう概念がなくなり VOID と化す。(HPの概念があっても敵への接触一撃で-999HPされるので体力の意味とは?となるが、それはまた別の話)
物語の設定的には、魂の空虚化、人としての大事なものを失った状態という扱いになる。本作における大事なもの、[Devotion] である。作中で時折問われる Have you lost something important to you? の答えの一部がそれにあたると思われる。
日本語に直訳すると「信仰心・忠義・愛情」。含みを持たせれば、意志の力、貫き通す力、あきらめない心、か。
ZeroRangerの世界観と合わせると、信仰心・悟り (Enlightenment) といった意味合いの方向性が強い言葉のように感じる。
システムとしては、VOID化することによって残機という概念をその周回で取り除き、探索を楽しんだり様々な解法やアプローチ、ゲームへの慣れという行動がとれるようになる。ただし、生存していた状態でないと発生しないイベントがあったり、記憶の欠片などを集めることができなくなるというペナルティがついてくる。とりわけ、エンディングに辿り着けないことは割と大きなペナルティではある。
とはいえ、一周分をお試ししてから次の周回で本番、残機制のゲームで頑張ると言ったアプローチの手段が取れるため、時間をかけた分、後々の行動を高速化できると言ったような設計を意図していたのは素晴らしかった。
【難易度と柔軟性の両立の難しさ】
床の配置・独自の移動を行う敵の存在・無造作に配置されているようで意図的に配置された彫像・床の再配置を制限する彫像などの数々の行動制限を強いてくる一方で、盤面を自由に配置替えできてしまうプレイヤーの能力があるがゆえにボクの考えた最強の突破法、なんかでも十分通じるような柔軟さが保たれている。
パズルを作るうえでは回答があるのは当たり前だが、本作の「盤面の再配置」という行動によってそもそも解決時の盤面自体が統一されないため、プレイヤー側に進行可否の命運を委譲しているのが面白い。
プレイヤーの行動次第では詰む盤面を作れてしまうが、それも自己責任として放置・救済しないというスタンスを取っているのも、なんともこのゲームらしいなと思える。オトナというかなんというか。
後半面になってくると難易度調整がゆえに行動制限の強さが上回ってくるので必然的に解の幅広さも狭まる。難易度と柔軟性は表裏一体・負の相関な概念か。ただ、柔軟性が低いからと言って必ずしも難易度は上がるわけではなく、固定されたパターンを組めば難易度は劇的に下がる場合もある。そのパターンを組むこともまた難しさではあるのだが。
【そのほか感心した点】
いわゆる床取りゲームでは、誤った入力によって床以外へ移動した場合、そのまま落ちてしまうのが基本である。ただ、このゲームの場合は、約1秒ほどバランスを崩した状態になり、その1秒の間で入力した方向と逆方向に入力を入れることで元の立ち位置に戻ることができる。このような動作は見たことがないので、有情であると感じた。
ターン制のゲームのため、ゲームを普通にプレイしているとあたかも自分の行動と敵の行動が同時に処理が実行されているように見えるが、必ず自分の行動が優先的に処理されること。
これによって、敵と自分の間にある像や石の押し合いになったときに、必ずプレイヤー側から行動するため敵を押しつぶすことが出来たり、自らの鏡像を使って出口用スイッチが押されている状態で、出口に隣接している場合、出口を先に通るといった行動が可能になっている。
制約が多い本作のなかで、唯一ともいえるプレイヤーにとっての優位性かもしれない。複雑すぎない敵の動き。かなり我慢しただろうなと思う。やろうと思えばターン毎に無造作かつ縦横無尽に動き回る敵を作ってプレイヤーを混乱の底に陥れることだってできたはずである。だがそれをせず、縦移動・横移動・条件追従・鎮座のパターンに留めたのは最低限ゲームとして機能させるために必要だった制限と感じる。
ゲームであることをゲーム自身が認識し、プレイヤーのゲームというものに対する常識を逆手に取った種々のギミック。ゲームの構成要素に対する固定観念が自身の中に存在すればするほど、己の無意識下に存在するが、実際には存在しない境界、精神的なブレーキ、そういったものを意識できないと詰む。
ダンテの神曲の地獄篇をモチーフとしたステージ構成、各28階層ずつのペースで進む空間が展開されるのは、物語とゲームペースが一定間隔で進行していく感じがあり良かった。最初は死ぬほど長く感じたが。
【感心しなかった点】
複数セーブなんてものはない。ただ1つのセーブファイルのみが繰り返し使われる。セーブデータで1回限り、スキップしたら二度と現れない、そもそもあったことを認識することすらできない、みたいなイベントが多々あり、失敗・取り逃しをすると周回をやり直しても二度とそのセーブファイルでは遭遇できないものがあったりする。非情であると感じた。
定期的に手動でセーブを退避させていたが、わざわざそんなことをしなきゃいけないゲームも近代珍しい。
上記問題に絡めた真ボス。
バカげた難易度の裏ボス。もはや時間の無駄まである。
音楽
【120点 / sokoBANGER】
製作者の前作 ZeroRanger 同様、音楽に関しては文句の付け所がない。eebrozgi氏の作る曲にハズレは1つもない。
sokoBANGER、とギフトで送ってきてくれた方は言っていた。
ゲームの 8bit 調の見た目に合わせて楽曲が全体的にチップチューンを基調にしているものの、表現の幅として生ピアノ、シンセ、スラップベース、など様々な声色の音が違和感なく乗る。
曲の使い分けも適切にされており、聴くだけで苦しめられたパズル、ストーリーの情景を適切に想起させることに成功している。モチーフの旋律をさりげなく入れてきたり、キャラの特徴となっている曲のドラムビートを全く別の曲に昇華させたり(Monの登場曲と隠れ家の部分など)と本当に芸が細かい。
パズル中の曲は4拍子・3拍子の曲が多く、プレイをするにあたって思考を邪魔をしないような曲の作りになっている。しかし、階層・物語がすすむにつれて、深淵の不安定さ、それに関わる者たち奇怪さを表現するかのように変拍子が採用されている曲を耳にするようになる。楽曲としてゲームの雰囲気や特徴を表現する役割を十二分に果たしているように感じた。
個人的に好きな曲は、序盤の方だと2面と4面。後半は、…ad astra とか。Voided も。
さいごに
本作のモチーフの一部となっているダンテの神曲は、
地獄篇 Inferno / 煉獄篇 Purgatorio / 天国篇 Paradiso
の三篇からなるが、本作は 第四篇「深淵篇 Voido」 と言っても差し支えないほどの作品だろう。(内容的には地獄篇のSFアレンジ版みたいなものだが。)それほどまでに丁寧に、丹精を込めて作られていたと感じる。
キャラクター、ゲームプレイ、音楽、すべて違和感なく綺麗にまとまっている。
ただ、異常なほどに高い難易度がそれを嗜もうとする者を阻む。
ここでふと、終局のとある箇所で流れる音のないモノローグを思い出した。それを訳し、ここに記す。(原文を尊重し、意訳を最小限に留めています)
最後のあの隠れ家に到達することが出来たプレイヤーのみにしか伝わらないこのモノローグ。製作者が、第四の壁を破ってまで伝えたかった、あまりにも直接的でこのゲームらしくないメッセージ。
今読むと、このゲームわざとそう作ったんだな、と書き切りかけた今になって理解した。
意図的に、外へ向くように仕向けた。
自分の力だけではどうしようもないことを、外へ求めさせる。
このゲームの真のメッセージ。
抱え込むな、感情・意識・考えを共有しろ。
ゲームの中に限った話ではないのだろう。
繋がりを大事にしろ、助けを求めるのは恥ではない、と。
そう伝えてくれていたように思う。
Thank you, Eboshidori, eebrozgi. 楽しかった。