長崎そよは『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の影の主人公である
皆さま、ごきげんよう。
今回は、アニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』のストーリーについて、MyGO!!!!!の甘々ママベーシスト・長崎そよの視点で振り返っていきたい。本編第7話で本性を露わにした彼女であるが、物語の序盤を振り返ってみると、その布石は至る場面に打たれていたのかもしれない。
はじめに
まずはこのキャラクターについて、アニメ公式サイトではこのように紹介されている。
ほ~ん、作中屈指のお嬢様学校の月ノ森女子学園の学生なんだ、しかも吹奏楽部、きっとMyGO!!!!!メンバーの中でも裕福で優しいママ枠なんだろうな~~~、といった印象を受けるだろう、というか私は受けた。
「指先をいじる癖がある」…?まぁ手癖くらい誰にでもあるよな…と流してしまいがちだが、この点に注目してアニメを見返すと、新たな発見が多く非常に面白い。
ここからは作中の時系列に沿って、感想や考察を交えつつストーリーを振り返っていく。
「長崎そよ」となった日
突然だが、第9話の冒頭で長崎そよの過去について描写される。
このシーンより、かつて(小学生まで)は「長崎そよ」ではなく「一ノ瀬そよ」だったことが分かる。
彼女の父親については本編内では描写されていないため、想像の域を出ないが、おそらく両親が離婚したものだと思われる。「長崎」という姓は母親の旧姓であったのだろう。
おそらく小学校は転校となっただろう。今までの当たり前だった生活が急変し、違う名前を名乗って生きていかなければならない、というのは、小学生のそよにとっては重すぎる試練だった。
母と二人で引っ越した先は、都内の超高層マンション。そよだけの新しい部屋も与えられたが、当時のそよにとっては、あまりにも広すぎた。孤独をも感じる冷たい部屋だった。
母は毎日仕事に勤しみ、家に帰らないことも多くなった。以前のように他愛もない話をすることは、もう無い。
もうバラバラにはなりたくない、当たり前を壊したくない、母を支えて生きていくんだ、それが「長崎そよ」という人間の原動力だった。
その後、そよは母の勧めた「月ノ森女子学園」の中等部に進学することになる。
「CRYCHIC」という居場所
周りからズレないように、もうバラバラにはならないように、みんなから頼られる「長崎そよ」として生活する日々。
しかし、所属している吹奏楽部の演奏会の後から、彼女の運命は大きく動き始める。
月ノ森女子学園の同級生、豊川祥子はそよの演奏技術を評価し、一緒にバンドを組まないかと誘うのであった。
自分を必要としてくれる人がいる。本音を隠し続け、偽りの仮面を被り続けた日々、そんな日陰から連れ出してくれる太陽のような人間「豊川祥子」の手によって、そよのモノクロの毎日は温かく彩られていった。
個性的なメンバーとの出会い、心から楽しめたカラオケ、そして「CRYCHIC」という居場所。どれも空っぽなそよの心を埋めるには充分すぎた。
ボーカル・高松燈の心の叫びから生まれた、CRYCHICだけの曲「春日影」。初ライブは大成功、これからも皆で同じ方向を向いて頑張ろう、そう思っていたがその日は突然に訪れた。
久々に練習に顔を出した豊川祥子の「バンドをやめる」という発言。なんとか事態を丸く収めたいそよであったが、5人の向いている方向はみんなバラバラだった。あの日交わした運命共同体の誓いは、あっけなく崩れ落ちた。
「CRYCHIC」という居場所を失ったそよ。しかし彼女はまだ諦めていなかった。運命共同体を取り戻す「長崎そよ」の孤独な戦いは、ここから始まる。
「春日影」という聖域
時系列ではここからアニメ本編(第1話)が始まるわけだが、そよ視点では、元メンバーの椎名立希と若葉睦の居場所のみ分かっており、高松燈と豊川祥子を探している状態からストーリーが始まる。
立希にはともかく、祥子の事を知っていてなお隠し続ける睦には内心イライラしていたはずである。(第8話で直接言っている)
いつものように訪れたRiNGで偶然出会った千早愛音。困っていた彼女を気遣って声をかけたことが始まりだったが、その後も自分の見栄のために接触してきていたことに、そよが気づかないはずがなかった。
しかし愛音の口から「燈」の名前が出ると態度が一変。そよも愛音のことを利用しようと画策する。燈を連れ戻せれば、立希も同時に連れ戻せると踏んでいたそよにとって、愛音は非常に都合がよかった。
その後も紆余曲折ありながらも事は進むのだが、その中でも特に気になったそよの言動を挙げたい。
第2話より、そよと愛音がバンドの楽器編成を相談するシーン。
目立ちたい愛音はギターボーカルを希望するが、そよの中ではボーカル=高松燈であるから、そもそも相手にしていない。
極めつけには、次に必要な楽器としてまずキーボード(=豊川祥子)を無意識に挙げている。
続いて第4話より、新バンドを結成する直前のシーン。まあ、当たり前のように愛音はメンバーに数えられていないのである。露骨すぎるぜそよさん…
その後の「えっ!?」も改めて聞くと非常に面白い。違和感がありすぎる。本人の前で言うことじゃないんだよな…
同じく第4話より、燈がバンド結成を決心したシーン。「無理はしないで」ってそういうことだよなそよさん、何がどう大丈夫なんだ…
第6話より、立希が本音をぶつけた後に、そよと愛音が一緒に帰るシーン。
愛音にとっては、自分も含めた「みんな」と受け取っただろうが、そよの本意はCRYCHICの「みんな」である。こういう互いの認識のズレこそ、このアニメの醍醐味だ。
こうして迎えた初ライブには、そよ・燈・立希・愛音に加え、練習に何度も乱入していた野良猫・要楽奈の五人で挑むことになる。
しかし、そよの望むバンド=CRYCHICに愛音と楽奈は不必要だ。
それなりの初ライブ(あわよくば失敗)で終われば、当初の約束通り愛音はバンドを辞め、楽奈も自然と来なくなるだろう、と考えていたはずである。
ライブ前も上の空でチューニングは不十分、楽屋でも緊張は見せない、直前の練習にもあまり乗り気ではない、そよにとってこのライブは、CRYCHIC再結成への通過点に過ぎなかった。ライブの成否などに、そこまで興味はない。
ようやくの出番。祥子と睦がライブ会場に来ていることに動揺しつつも、新曲「碧天伴走」を披露する。
事件はこの後に起こる。祥子の激励で「碧天伴走」を歌い切った燈は、その後のMCで暗に感謝を伝える。
しかし、「ギター弾くのは燈のMCの後!」という約束を守った楽奈が「春日影」を演奏し始めてしまうのだった。
そよにとって「春日影」はCRYCHICだけの歌、他人が安易に足を踏み入れてはいけない聖域である。涙を流し、会場から逃げだす祥子に気づいていたのはそよだけであった。
愛音たちや観客にとっては大成功の初ライブであった。しかしそよにとっては違う。
自分を照らしてくれた太陽、大切な居場所をくれた神様、そんな豊川祥子を傷つけた彼女らを許すはずがない。「春日影」という聖域を踏みにじった彼女らを許せるはずがない。
ここから、そよの物語は再び大きく動き出す。
それでも「離さなかった」手
愛音たちの前から姿を消したそよ。祥子には連絡先をブロックされ、説明することさえできなかった。
しかし、「睦ちゃんのせいだよ」と睦を追い詰めることで祥子に直接会うことに成功。そよは必死に謝罪をするも祥子はそれを拒絶する。
太陽に近づきすぎて灼け落ちたそよ。翼を失った彼女は本性を露わにし、燈たちを自分の手でバラバラにしていくのであった。
そんな彼女を救い出すのが、かつて互いに利用し合った千早愛音であった。
愛音はそよを否定しなかった。本当の彼女を受け入れた。裏表はあるし、嘘もつくし、意地悪。しかしそれら全てを含めて「長崎そよ」である。
「見栄」という言葉で追い詰めようとするも、今の愛音にそれは通用しない。自分の弱さを受け入れ、認め、迷いながらも進み続ける彼女には。
自分で始めたバンドから、もう、逃げない。
それは高松燈も同じだった。自分を必要としてくれた。諦めないでいてくれた。その手を離さないでいてくれた。
CRYCHICを諦めたわけではない。答えが見つかったわけでもない。しかし、自分を受け入れ、必要としてくれる人がいた。
燈の作る歌に自分を重ねてしまっていた、そんな歌詞が苦手だった、と初めて燈に本音を話した場面。あの日交わした一生の契りは、こんな程度では壊れないという、そよなりの信頼の表れかもしれない。
CRYCHICという過去を忘れられない、忘れたくない、という長崎そよの気持ちは、高松燈も同じであった。
過去があるから今がある。たとえ壊れてしまっても、そよにとってCRYCHICは、温かい大切な思い出だ。その想いはみな同じはずだ。
こうしてそよは、燈は、過ぎ去った思い出を忘れずに、未来へとちいさな一歩を踏み出した。
そんな、迷いながらも、迷子のままでも、「一生」進み続けることを誓った「MyGO!!!!!」は、そよたちの新しい居場所になれたかもしれない。
総括
さて、ここまで振り返ってみて、この『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』で最も迷子で、それでも最も前に進むことができたのは「長崎そよ」なのではないかと考える。
もちろん、本来想定されているであろう所謂「主人公」は「高松燈」だろうし、同様に「千早愛音」の成長も序盤から丁寧に描かれていた。
しかし、MyGO!!!!!結成の最後の鍵は紛れもなく「長崎そよ」であった。物語序盤より、伏線とも思わしき彼女の不可解な言動が散りばめられていたことも事実である。
物語の裏で暗躍し続け、メンバーの心をかき乱し、それでも譲れないものがあった。守りたい大切な居場所があった。
過去に囚われ、正しい行き先も生き方も、分からなくなっていた。そんな自分の手を離さず、受け入れてくれたMyGO!!!!!のみんな。
欺瞞でも、おためごかしでも、迷子でも。行き先が違ったっていい。向いている方向がバラバラでもいい。それでも、今という一瞬を進み続けよう。そんな『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』というお話。
悲しみ、迷い、苦悩し、怒り、涙して。ふたたび居場所を手に入れた「長崎そよ」。これは、彼女の成長物語だったのかもしれない。
おわりに
前半はほとんどストーリー紹介のようになってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
第7話の「なんで春日影やったの!」で衝撃を受け、そよりんの虜になった私としては、今回の感想文作成は非常に刺激的でした。
『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』を観たという記録、そして感じた私の心の叫びを、なにか一つの形として残したかったという気持ちが大きく、全力で書かせていただきました。
「迷うことを迷わない」、とても心に響いた言葉です。「何が正解なのか、そもそもあるのかなんて、誰にもわからない、そんな迷路の日々。それでも一瞬一瞬を重ねて、進み続けよう。」そんなメッセージを受け取りました。
私の背中を押してくれた『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』、これからも全力で応援していきます。先日発表されました、続編『BanG Dream! Ave Mujica』も非常に楽しみです。
ここまで読んでくださった皆様、そしてMyGO!!!!!の皆様、本当にありがとうございました!