ラファエル前派のモデル アレクサ・ワイルディング
Alexa (Alice) Wilding(1845?-84)
サリーの労働者階級の家庭に生まれる。ロセッティと出会ったときは、女優を夢見るお針子だった。ロセッティにモデルとしてスカウトされるも、当時、モデルは尊敬される職業ではなかったため、最初は約束の時間にアトリエに現れなかった。しかし、ロセッティはぜひともアレクサを描きたいと考え、二度目に彼女を見かけたとき、乗っている馬車を跳び降りてモデルとなるように説得した。
ロセッティは他の画家に彼女をとられることをおそれ、独占契約を結んだ。ロセッティのお気に入りのモデルで、アレクサをモデルとして描かれた作品は妻のエリザベス、愛人のファニー・コーンフォースやジェーン・モリスを描いた作品より多い。ロセッティと恋愛関係になかったためか、彼女に関する資料や研究は少ない。未婚のまま37歳で亡くなった。
ロセッティの専属モデル
ロセッティの助手、ヘンリー・ダンは、アレクサ・ワイルディングについて以下のように記しました。
ロセッティの作品に描かれたアレクサの容貌は、豊かな赤毛、長い首、独特の眼差しです。エリザベス・シダルを描くときは簡素で厳しげであり、ジェーン・モリスを描くときは青や緑などを中心とした色彩でもの思わしげな、神秘的な女性を描いたロセッティですが、ここへきて豪華絢爛、甘美、少女趣味が炸裂します。滑らかな触感と、甘い香りが画面から発している印象です。
モデルを務めた作品
アダムの前妻リリス
リリスは、キリスト教ではイヴの前にアダムの妻であったとされる女性である他、ヨーロッパや西アジア地方のさまざまな神話・伝説に登場する妖女です。リリスは神話の女性像の体現としてではなく、「近代的なリリス」として解釈され、家具調度や衣服はヴィクトリア朝風であり、鏡に写る自分の美しさに夢中になっているかのようです。
白いバラは冷たく、官能的な愛をあらわします。バラは、アダムがイヴに出会ったことにより初めて赤くなった、という伝説があります。右手前のケシは、眠りと忘却、リリスの物憂げな性格を示唆しています。鏡のそばに置かれたキツネノテブクロは不誠実を表します。
リリスはフェミニズム運動のシンボルであり、彼女のコルセットを着けていない服装や、豊かな髪をフェミニズム思想と関連付けて論じている研究者もいます。出典
巫女
シビラは巫女です。本作は《リリス》と対になっており、《リリス》が肉体の美の表現であるのに対し、《シビラ》は魂の美を表現しています。
ロセッティにとってエリザベスは精神的な愛を体現する存在であり、ファニーは肉体的な愛の対象で、絵の中にもそのように描かれました。一方、《シビラ・パルミフェラ》と《リリス》のように、アレクサ・ワイルディングは彼にとり、相反する二つの要素を表現できるすぐれたモデルでした。
海の魔術
ロセッティは詩人でもあり、本作と同タイトルのソネットを書きました。この女性は、サイレンで、歌で船乗りを海に引き込みます。サイレンの頭上の鳥はカモメで、サイレンの歌を聴いています。《ヴェロニカ・ヴェロネーゼ》は、本作と対になっており、こちらでは、音楽家である女性が、鳥からインスピレーションを得ています。
ローマの寡婦
アレクサ・ワイルディングをモデルに描いたロセッティ作品は、バラ、特にピンクのバラが描き込まれていることが多いです。ロセッティは、モデルごとに特定の花を組み合わせているようなところがあり、エリザベス・シダルはケシ、ジェーン・モリスは柳の小枝のイメージで、アレクサ・ワイルディングはバラです。ロセッティの理想であり、バラを体現するようなモデルだったのかしらと思います。
バラの現実
アレクサは、30台になると不動産を所有し、家主になりました。当時の労働者階級出身の女性としては、目覚ましい成功です。ロセッティは、アレクサからしばしば借金の申し込みを受けており、手紙で友人に愚痴っていました。バラにも絶世の美人にも生活があります。
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