お金のためじゃなくて、人のために働きたい
中学生のとき、生徒会執行部に所属していた。
そこでの思い出は2つある。
1つ目は、生徒会室の中で大量のベルマークを発見したことだ。
生徒会室を掃除しているときに、棚の奥深くに大量のベルマークを見つけたのだ。
きっと何年か前にあつめて何と交換するかを話しているうちに、うやむやになってしまったのだろう。
思わぬ埋蔵金を手にいれてしまった僕は色めきだった。
パンフレットをパラパラめくりながら、「パソコンもいいな、冷水器もいいな」といろんな世界を想像しつつも、お行儀よく職員室に届けたのだった。
当時、少々子どもっぽかった僕は『不審者撃退!ネットランチャー』との交換を先生に提案したが、即却下。
ベルマークとともに、職員室というブラックホールへ吸いこまれていった。
そしてバタンと閉じられた扉を、僕は能面のような表情でながめていたのだった。
小さなことに思えるけど、あのときのワクワクは良い思い出である。
(何と交換されたのかは知らないが、少なくともネットランチャーではない)
2つ目の思い出は、文化祭。
執行部はとにかく忙しかった。
行事があれば何かと任されるのだ。
特に、僕たちの代は「例年と違った新しいことにチャレンジしたい!」という雰囲気があった。
その情熱は、文化祭で大いに発揮されることになる。
文化祭の例年の課題は、午前中の合唱コンクールが終わると、午後にはお客さんが帰ってしまうことだった。
この記事を書くにあたって、僕たち以前の文化祭が午後に何をやっていたのか思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。
それほど印象的なことはやっていなかったことの裏付けだろう。
そこで僕たちは、高校生クイズならぬ『中学生クイズ』という企画を考えた。
学年学級対抗で、クラスから3人出てきてもらってクイズに答えてもらう形式だ。
もちろん「この国旗はどこの国でしょう?」とか「『 』に入る言葉は何でしょう?」とか、中学生でもわかる問題。
代表の子だけじゃなく、会場にいる全校生徒も、あれやこれやと一緒になって考えられたし、珍回答が出れば爆笑に包まれた。
たしか僕のクラスからは、親友の3バカトリオが出場した。
(この選出だけは今でも謎のままである)
出題されたのは、パスカルの名言「人間は考える『葦』である」の『 』埋めの問題。
ごにょごにょと中身のなさそうな相談をした後、
「人間は考えるのである」
と、ニヤニヤしながら回答して微妙な空気になっていた。
おまえら、全然考えてないやないか。
それはさておき、この企画のおかげで、例年に比べお客さんも大勢残ってくれた。
いろんな先生からも高評価だったらしく、企画した僕たちもすごくうれしかった。
さて、この文化祭の準備中、僕は何をしていたのか。
せっせと学校中を走り回り、各所の調整役を担っていたのだ。
もちろん『中学生クイズ』の準備もあったのだが、それに加え、文化祭の企画としてモザイクアートにも挑戦していた。
「全校生徒で何か一つのものを作り上げたい!」という想いから、新聞紙やチラシを使い、地元にまつわる巨大な絵を作ろうと試みたのだ。
製作には何色のチラシがどのくらいいるのか、どの部分に何色の紙を貼りつけるのか、などを考える必要がある。
大変だったけど、充実感は大きかった。
出来上がったモザイクアートをお披露目したときは、歓声が上がって鳥肌が立ったことは今でもよく憶えている。
この文化祭の中で感じたことが2つある。
僕は、裏でコソコソ働くのが性に合っているということと、人のために働くことが好きだということだ。
会長といった、みんなの前に出て引っぱっていく勇気や気概はない。
ただ、人のために何かをしたいという、誰にも負けない熱はあると自負していた。
目立たないかもしれないけど、縁の下から微力ながらも支え続けることはできるし、そこが僕の生きる場所だと思った。
「あなたみたいに、学校中を駆け回る人がいてくれて助かるわ」
だからこそ、文化祭をおえて、執行部担当の先生からそんな言葉をかけられたとき、正直おどろいた。
誰かが僕の地味な働きを見ているとは思わなかったからだ。
うれしかったのはうれしかった。
だけど、中学生の僕はどういう顔をしていいかわからず先生の顔をジーと見ていたので、変な空気が流れることにはなったが。
生徒会の活動だから、別にお金がもらえるわけではない。
ただ、「これ、この前の文化祭のときの給料ね~」と渡されても、なんかしらける。
みんなが楽しんでくれたり、国語の先生が「その問題、この前教えたでしょー!」と笑いながらツッコんだりする光景が何よりのごほうびで、宝物。
"それらがもつ温もり"と"「助かるわ」の一言"が、手元に残るだけで十分なのだ。
これらの経験は、『将来どんなふうに働きたいか』を考えるきっかけをくれた。
そして、中学生ながらに「お金なんてもんはいらないから、自分に合った場所で人のためになる仕事に就きたい!」と、考えた。
当時は、若さゆえのとげとげしさからか、『お金を稼ぐことはいやしいこと』だと思っていたらしい。
だけど、実際はお金がなければ生きていくことはできない。
だからこそ、「この社会のシステムはおかしい!」と心の中で青春の叫びをしたのだった。
大学3年生のとき、「予想通りに不合理」(著:ダン・アリエリー)という行動経済学の本に出会った。
その本の中で『社会規範』という言葉を知り、中学の頃からのモヤモヤがほどけた気がした。
どんなものなのか、本文中のエピソードで紹介しよう。
全米退職者協会は複数の弁護士に声をかけ、1時間あたり30ドル程度の低価格で、困窮している退職者の相談に乗ってくれないかと依頼した。弁護士たちは断った。しかし、その後、(中略)困窮している退職者の相談に無報酬で乗ってくれないかと依頼したのだ。すると、圧倒的多数の弁護士が引き受けると答えた。 (p126)
『社会規範』と対をなす言葉で、『市場規範』というものがある。
サラッと説明すると、『市場規範』は、金銭的価値で判断される世界。
『社会規範』は、愛情や友情など、"人間くさい価値"で判断される世界のことだ。
今回のエピソードでいうと、前半の場合、弁護士たちは『市場規範』を適用した。
だからこそ、「こんな仕事、安すぎてやってられるかよ!」という思いになったのだ。
一方、後半の場合、『社会規範』を適用し、「困窮している退職者のために何かしたい!」というボランティア精神に駆られ、引き受けるに至ったのだ。
そして、重要なことは、社会規範の方が、より強く人を動かす力を持っているという点なのだ。
やっぱり心の底から湧きあがってくる感情というのは、すごいパワーがあるんだろう。
「お金よりも、人のために働きたい」という、中学生以来の気持ちを見事に説明してくれた気がしてうれしかった。
しかし、当時の気持ちにいったん蹴りがついた僕はスッキリしたわけではない。
「やっぱりお金は必要だよね」と丸くなり、アルバイトをしていた僕はあらたなモヤモヤを抱えていた。
稼いだお金をどうしようか、ということだ。
これは、就職してから人生のことも含んでいた。
もちろん大学生だから出費はそれなりにあるから、使うことは使うのだ。
ただ、「足りなくなったら奨学金を使えばいいか」と、わりと楽観していた。
部屋が物であふれたとき、その場しのぎでベッドの下にねじこむ人に特徴的な考え方である。(当社調べ)
だとしたら、僕は何のためにアルバイトをするのだろう。
答えの1つは、中学生の時に出していた。
人のためになりたいからだ。
アルバイトだから、たくさん働こうが怠けようが、時給は対して変わらない。
だけど、喜んでもらえたり、楽しんでもらえたりする機会は、それぞれの頑張りによって確実に変わってくる。
接客業をしていたから、なおさらその価値を実感していた。
だけど、働く理由はそれだけではないとも思っていた。
大学生になった僕も、大切な働く理由を見つけたのだ。
それは『お金があれば、人のために何かできる』ということだ。
これはアルバイト先の先輩たち(の背中)から教えてもらったことになる。
タイムカードを打刻した後、よく先輩にご飯に連れて行ってもらった。
おなかいっぱい食べて会計をしようとすると、彼らは
「後輩はタダね」
と言いだすのだ。
そして、さっき稼いだアルバイト代よりも高い金額を払い始めるのだ。
「支出の方が多いのに、どうやって生活してるんだろうか」と考えた。
だけど、きっとそれを上回るほど、後輩におごることが幸せなんだろうな、と楽しそうに割り勘する背中を見て思った。
ふと、『社会規範』という言葉がポンと頭の中に浮かんでいる自分に気づいた。
そして、うぶな中学生だった僕に「お金を稼ぐことで、人のためにできることが増えるんだよ」と教えてあげたくなった。
それにああいう人たちは、すごくかっこいいよ。
僕は来年から某メーカーに就職する。
縁の下から社会と人の暮らしを支えられることが、僕の考えにマッチしていたからだ。
きっと人のために働きたいという想いは、いつまで経っても変わらない。
そして、その働きの見返りとしてお金をもらうことで、人のために何かができる。
後輩を連れてご飯に行ったり、ボランティアで各地を巡ったりと、自分なりの『社会規範』を大切にしていくことが、僕の働き方であり、生き方なんだと思う。
その一環として、あのときの雪辱を晴らすように、卒業した中学校にネットランチャーでも寄贈することも考えておこうかな。
そのときは、もしも不具合があったらいけないので、仕方ないから僕が試し撃ちをする。
【参考文献】https://www.jsda.or.jp/gakusyu/edu/web_curriculum/images/mailmagazine/Vol.72_20180726.pdf
https://techlife.cookpad.com/entry/2015/10/19/173354
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