この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ③
僕らのまちに 雪が降る
なんてことのない あたたかな島
僕らのまちに 雨が降る
いつかは止むさ 人生も同じ
僕らのまちに 風が吹く
南から 北から 東から 西から
僕らのまちは まち自体が素敵で
ほんとはどこにも 流されちゃいけない
これは「大署名運動会」が始まってすぐの頃、市街地で行われたライブの中で披露された、ハルサーズの曲の歌詞だ。
ハルサーズはその名の通り農家の若者3人で組まれているバンドで、彼らはそのまま住民投票を求める会の中心メンバーでもある。
三線を演奏し、メインのボーカルを担当するのが、白保(しらほ)の畜産農家の宮良央(みやら なか)さん。パーカッション担当が、於茂登(おもと)でハーブティーを生産している伊良皆高虎(いらみな たかとら)さん。そしてギターとボーカルを担当するのが金城龍太郎さんだ。彼らは同級生でもある。
練習中のハルサーズ。
(手前の男性)右から宮良さん、伊良皆さん、金城さん
(写真提供 /金城龍太郎さん)
島の人たちの声と、僕の家族の声。 駆け抜けた11月
議会に提出する、住民投票条例の請求に必要な署名数は有権者数の50分の1。一方、石垣市の定めた市自治基本条例に基づく請求に必要な署名数は有権者数の4分の1。あえてこの両方をクリアするため、求める会では「1万筆の署名」を目標に掲げた。期限は10月31日から11月30日までの1ヶ月。ちなみに2018年9月20日時点での市の有権者数は38,740人で、50分の1は775人、4分の1は9,685人となる。
そして大署名運動会は本番の11月を迎える。
署名集めは認知、理解してもらうまでが困難で、特に折り返しまではその地道な努力が必要となった。けれど求める会だけでなく、趣旨に賛同した多くの受任者(署名を集める人)が力を貸してくれた。
6日には冒頭で紹介したライブ『ハルサー街に出る。〜yesか農家?〜』を開催。ハルサーズは歌とともにメッセージを届ける。MCで語られた“愛とユーモア”は、おそらくこの後もっとも発信される、運動のキーワードだ。
それを表すように、この期間のどの記録を見ても龍太郎さんは笑顔だし、彼らの姿にはまるで文化祭のような軽やかさまで感じる。1万筆を集めきる確信はあったのだろうか。
「確信はなかったです、最後まで。半月過ぎた時に3割くらいしか集まってなかったので、やっぱり厳しいのかなって。でも自分たちが始めたことで引き返すわけにはいかないので」
タウンプラザかねひで前で署名を集める
(写真提供 /金城龍太郎さん)
署名運動もそんな折り返しの頃、農園で作業中の龍太郎さんの携帯が鳴る。
予定日より早く、妻の陣痛が始まったという連絡だった。
病院に駆けつけた龍太郎さんはそれから丸2日、眠らずに付き添い、第1子の誕生に立ち合った。生まれてきたのは、女の子だった。
特別なひと月の中にあって、それはひときわ深く心に刻まれた出来事だった。
仲間の支えがあったものの、それでも龍太郎さんは余韻に浸る間もなく運動に戻る。
「最後の1,2週間には広報にもっと力を入れたし、僕たちも街頭に出ていっぱいおしゃべりしました。少しずつ署名を集めていることが浸透してきている実感が出てきました」
選挙活動のような演説では言葉を発する側も、聴く側も緊張してしまう。龍太郎さんたちは、あえて仲間同士の会話が風に乗って聞こえてくるラジオのように、道ゆく人の耳に自然に入るようなやり方を選んだ。議論よりも対話を大切にする彼ららしい選択だと思った。しかしリミットが迫り目標数が遠い状況では、普通なら前のめりの強い演説になると思うのだが・・
「それが僕たちにとっての前のめりだったんです。弱くてもやわらかい、押し付けがましくないやり方で伝えることが」
署名の数は、残り1週間という時期に7,000筆を超えた。
署名には氏名以外の個人情報も必要になる。記入する際にそれを知っても、やめる人はほとんどいなかった。
「ここで何をやっているか」と怒鳴ってきた人にも、なぜ住民投票が必要なのか真摯に説明することで、内容を理解して署名してもらえた(残念ながらそうでないこともあった)。
有権者のうち最も若い18歳。高校3年生は陸自配備計画そのものを、今回初めて知ったという声が多かった。そのうち数人が「みんなで意見を出し合おう」という言葉に共感して署名した。
署名集めは反対派の運動と見られがちだ。それでも配備計画に賛成の人が「意見の表明は大事なこと。頑張れ」と署名してくれた。
ひとりひとりの声が、龍太郎さんたちには心から嬉しかったことだろう。
大署名運動会が終わった翌12月1日の夜、閉幕式で発表されたその時点で集まった署名数は、14,844筆。気づけば目標の1万筆を大きく上回っていた。
(出典:八重山毎日新聞)
龍太郎代表の挨拶は、感謝の気持ちを伝えた後このように締めくくられた。
「これから住民投票に向かってスタートを切ります。これからが本番。温かみのある、人間味のある運動として盛り上げていただきたいです」
一方で、彼はこう感じていた。
「島のみんなのためにと行動していることが、いちばん近くにいる嫁に負担をかけてしまっているという矛盾に気づきました」
葛藤しながら、それでも、生まれてきた命のあたたかさに、なお一層島の未来を明るくしたいとの想いを強めていく。
歌はつづく。
僕らのまちに 雪が降る
なんてことのないあたたかな島
だけどこの島に 大嵐が来る
今までもそうだった きっと乗り越えられる
君と手をつないで 暮らしたい このまちで
笑顔でまた明日 ただそれだけでいい
君が目をふさいでるなら 僕は歌を歌う
ずっと笑顔がつづくなら 下手くそだっていい
一緒に歌えたらいい
ただそれだけでいい
「島社会」という名のバイアスが薄れ、私にも見えはじめた。
ひとりひとりが、それぞれの矛盾を抱えながら暮らしている島の景色が。
その島にまた、嵐がやって来る。
文・表紙写真 / 蔵原実花子
■石垣市住民投票を求める会
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https://www.instagram.com/ishigakijumintohyo2018/
■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。
ーArchiveー
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♪この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜④
♪この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤
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