ボンネットの上から見た一瞬の地獄 #5
私を上空へと押し上げたシルバーの軽自動車はエンジンがかかった。この車には運転手がいるはずだ。なぜ、出てこない。
「ばたっ」
運転席のドアが開いた!老人男性が重い腰をあげたかのように私の元へやってきた。その男性は慌てている様子もなかった。やけに落ち着いていた。
「大丈夫か?どこか骨は折れてないか?」
そう聞かれた私は、「大丈夫です」と咄嗟に答えた。すると、少し安心したような表情で何かメモのようなものを渡してきた。
「これ、私の連絡先ね。何かあったら連絡してねー。じゃあ気をつけて」
そう言われて、え?ってなったのも束の間、彼はエンジンがかかった軽自動車に乗り込み、颯爽と道路を駆け抜けていった。
え?ええ?何これ・・・なんかきったない殴り書きの字で名前らしき文言と電話番号が書いてあるんやけども・・・
え?車で人轢いといて殴り書きのメモ渡して帰ることある?これってもはや新手のひき逃げではないのだろうか?飛び散ったガラスの破片や車の部品らしきものに囲まれた私は何もできず、どうすればいいかわからなくなった。日はもう暮れていた。私は目の前が真っ暗になった!
目撃者なんていないし、割と大きな衝撃音が住宅街を包んだはずだったが、街の人は誰1人外に出てこない。私はおじさんいに渡された殴り書きのメモを握りしめて一旦自宅に戻った。私は生姜焼きを作って待ってくれていた親に自分の身に起こった出来事を事細かに話した。
「それ、ひき逃げだよ」
ですよねー。と心の中で呟きつつ、私たちはとりあえず警察に電話した。すると、警察署に来てくださいと言われたので、親の運転で地元の交番へと向かった。
警察官に改めてことの経緯を説明した。生姜焼きが並んだ食卓で話した時と同じように。すると、とりあえずこの電話番号に電話してみるとのこと。私は事実確認や身体チェックのために交番の奥に通された。初めて入った交番の奥は資料や刺股などが並べられていて、なんだかテンションが上がった。もちろん、テンションが上がるべき場面ではない。すると、メモに書かれた電話番号に電話をしていた警官が慌てて部屋に入ってきた。
「この電話番号、何度かけてもつながりません・・・」
#6に続く。