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女子の孤独を描く:『致親愛的孤獨者』

『致親愛的孤獨者』は、若い女性の孤独がテーマの、2019年の台湾映画です。3話からなるオムニバス映画で、日本未公開作品です。

映画『致親愛的孤獨者』のストーリーと情報

第1話「小玉」
主人公の小玉は中学1年生の女の子。書店の隅っこでこっそり官能小説を読み、小説の中の登場人物を女子生徒に人気の男性教師・デイビッドに重ね合わせる――。
監督: 練建宏
出演:林慈恩(小玉)、鍾政均(デイビッド)

第2話「凱涵」
18歳の主人公・凱涵は、親の反対を押し切って屏東の家を出て台北の大学に入学したばかりの女の子。無事に入学手続きを終えたが、自分が入れるはずの寮の部屋が、大陸からの留学生に割り振られていた。途方に暮れた凱涵は…。
監督:廖哲毅
出演:李雪(凱涵)、謝欣蔚(留学生)

第3話「小薰」
主人公は20歳の小薰。親友が元カレの今カノというややこしい状況だが、孤独を恐れる小薰は元カレと親友の3人で同居している。ホステスの仕事をしていた小薰だったが、酒量の多さに耐えきれず、元カレの斡旋で受刑者に面会し話し相手をする、という変わった仕事を始めることに。ある時、刑務所で2923という受刑者と出会い――。
監督:於瑋珊(サニー・ユイ/『The Kids』(15))
出演:劉冠廷(2923)、張寗(小薰)、姚淳耀(小薰の元カレ)

映画『致親愛的孤獨者』の感想など

 1話目は女子中学生の小玉のお話。生活のために祖父のもとに預けられた小玉には、身近に大人の女性のローモデルがいない状況だ。さらに、貧しさと無理解からスマホを買い与えてもらえず、クラスの女子グループから敬遠されている。成長期にありながら、身近に本音を打ち明ける相手(友達や母親)がいない小玉の"孤独"はかなり深刻だ。

 身体の変化、性への好奇心。妄想でしかなかった大人の世界に触れた瞬間・・・思春期真っただ中の、アンバランスな少女という、エドワード・ヤンの『指望』(『光陰的故事』の第2話)を彷彿とさせるテーマでありながら、男性のある種のロマンを排除し、かなりリアルに迫ってくる、胸にグッと突きささるストーリー。

 教師による性被害を受けた体験を書いた小説『房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園』で話題になった作家、林奕含(リン・イーハン)の自死がきっかけでストーリーが作られたそう。

 2話目は、新生活早々、にっちもさっちもいかない状況に追いやられてしまう新入生・凱涵のお話。大学到着から翌朝までの出来事を描く。

 財布を落としてしまい、お金もなく、早速今日からどこに寝泊まりすればいいのだ?今更親は頼れないし、肝心の大学事務局も非を認めようとせず。知り合いもいない孤独な都会で不条理な状況に直面した凱涵は・・・テンポよく展開していくストーリーと、孤軍奮闘するのに如何ともならない凱涵に、「この後どうなっちゃうの?」と思わず手をぎゅっと握って見入ってしまった。

 凱涵を演じた李雪の演技がとにかく真に迫っていて、さらに、孤独な状況で追い込まれた主人公のくやしさや悲しみ、それでも「なんとかしなきゃ」という焦りが見事に表現された音効に、すっかりやられてしまった。台湾では「破窗效應(英語:Broken windows theory)」のタイトルで、2019年の台北電影節で上映。割れ窓理論…なるほど。

 3話目は、2019年の大阪アジアン映画祭で『2923』というタイトルで上映された作品。スペシャルメンションと芳泉短編賞をW受賞しただけあって、3作品の中でも群を抜いてクオリティが高かった。

 孤独が怖くて、元カレから離れられない小薰が、受刑者番号2923の男と出会う。格子越しの面会を重ねていく中で、次第に心を開いていくふたりの表情に引き込まれる。ふたりの交流はやがて、小薰に「孤独」を受容し、次のステップへ踏み出す勇気を与える。静かだが、確かな希望を感じさせるエピソード。

 監督は『The Kids』のサニー・ユイ。無口な2923を演じた劉冠廷の存在感がすごかった。そういえばワン・シャオディ監督のQPlace出身者でもある劉冠廷、チョン・モンホン監督の『陽光普照』(ひとつの太陽)のラディッシュ(菜頭)役でもクレイジーな役だったけど、とにかく演技力がすごい。主演した最新作、チェン・ユーシュン監督の『消失的情人節』も気になる。


 3つのエピソードを繋ぐのが、台湾の作家・駱以軍による独白「致親愛的孤獨者」。若い世代に向けたメッセージで、「今、あなたが孤独に苦しんでいるのは、若いからだ」という内容なのだけど、これは生きにくい時代に悩み、苦しむすべての人にとって心に響く内容なのではないか。

 この映画に登場する駱以軍のメッセージは、映画と同タイトルのピクチャーブック『致親愛的孤獨者』として台湾で出版されている。中国語と、その英訳が併記されているのもありがたい。

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鑑賞①:2019年9月 光點台北
鑑賞②:2020年9月 台湾文化センター×アジアンパラダイス主催のオンライン映画上映&トークイベント(上映タイトル『孤独なあなたたちへ』)

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