見出し画像

さりげないシーンやせりふに涙・ゲイの少年たちを追ったドキュメンタリー映画『美麗少年』

イメージフォーラム・フェスティバル2020で、1998年の台湾ドキュメンタリー映画『美麗少年』をようやく見ることができた。

 2018年冬に51歳で急逝された台湾のドキュメンタリー監督ミッキー・チェン(陳俊志)が、10代のゲイの少年を追った作品だ。

 南国のねっとりとした空気を漂わせながらも、どこか懐かしい90年代を背景に、3人のゲイの少年が登場する。いずれも10代。海外留学を前に、恋人との別れを決意する小羽、「おしゃべり女」と呼ばれる、ちょいぽちゃのモーガン。そして、売れっ子ドラァグクイーンの小丙だ。

 母親や兄、その恋人も登場し、小羽の性的指向について話す。モーガンと友人たちの、あけすけなワイ談が繰り広げられる。ドラァグクイーンとしての活動を全面的に支える小丙の家族や友人たちとの日常が活き活きと映し出される。

 登場する人たちは皆、カメラに向かってかなりプライベートなことをオーブンに話す。老婆心ながら「え、そんなこと喋っちゃって、大丈夫?」と心配になるほどだ。被写体である少年たちが、まだ少年ゆえに警戒することなくしゃべっちゃうのだろうか?いや、大人である親兄弟も、胸のうちを打ち明けているところをみると、これはやはりミッキー・チェン監督の人柄のなせる技だったのかもしれない。

 小羽の母は未知の世界に身を置く息子を案じ、モーガンの友人たちは「いじめられないように応援してやれって先生も言ってた」と打ち明ける。小丙が新しい衣装を披露するたびに、皆でプリクラを撮り、シールを大切そうにプリクラ帳に貼る。さりげないセリフやシーンに涙が出てしまった。

 『美麗少年』は、ミッキー・チェン監督「同志三部曲(三部作)」の第1作だ。本作が台湾で公開された1998年というのは、80年代に始まった台湾ニューシネマが国際的に評価されるクオリティを追求した結果、世界的な評価を得られるようになったが、地元台湾のお客さんの映画離れが起きてしまい、台湾映画産業がどん底の状態に陥った頃だ。国産映画が年間10本も作られないような状況だった。

 そんな中、市井の人々に寄り添うテーマで撮られたドキュメンタリー映画が人々を惹きつけ始める。1997年、胡台麗監督の『穿過婆家村』という台湾のドキュメンタリー映画が当地で初めて、商業映画として劇場公開された。それに続き、翌年に劇場公開を果たした2本目の台湾ドキュメンタリー映画が『美麗少年』だった。

 少年の同性愛について、台湾ローカルの、自分たちの物語として取り上げた初めての作品は観客に受け入れられた。金馬奨50周年を記念して作られた台湾映画史ドキュメンタリー映画『あの頃、この時』の楊力州監督(『台湾、街かどの人形劇』(18))の著書『我們的那時此刻』によれば、その年の興行成績の第3位を記録したそうだ。劇映画とは対照的に、いくつものドキュメンタリー映画がヒット作となり、人々のドキュメンタリー映画に対する印象もずいぶんと変わっていった。台湾の人々は「自分たちの物語が自分たちに向けて語られる」作品を見たかったのだ。

 イメージフォーラム・フェスティバルでの上映後、ミッキー・チェン監督と親交のあった字幕翻訳者の秋山珠子さん と、山形国際ドキュメンタリー映画祭の 若井真木子さんが登壇され、在りし日のミッキー・チェン監督についてお話しくださった。魅力的なお人柄が伺えるエピソード、そして自伝『台北爸爸、紐約媽媽 』についての話が印象的だった。

 『台北爸爸、紐約媽媽 』については、たまたま前日に開催した『日常対話』等を語る会で、感想や台湾LGBTの歴史をシェアしてくださった三重大学のアリエル・クッキー・リュウさんが挙げて下さった作品だった。タイトルに見覚えがあったのは、大好きな台湾の劇団「人力飛行劇團」が、2012年にこの本を舞台化していたからだと思う。再演するなら見に行きたい。

 アフタートークで字幕翻訳者の秋山珠子さんが語る『台北爸爸、紐約媽媽 』はとても魅力的だった。前日にアリエルさんがこの本をご紹介して下さった時にも「読んでみたい!」と思ったのだが、秋山さんのお話を伺って、それは「読まなければ!」へと確実に昇格した。果たして私のような素人が、ミッキー・チェン監督の書く文章の魅力をどこまで感知できるかは、はなはだ疑問なのだが。

↑ミッキー・チェン監督が自著『台北爸爸、紐約媽媽』について語っている動画。

↑書籍は2019年に木馬文化から紀念珍蔵版が出版されていた。アーロン・ニエのデザインによるカヴァーだそう。
↓そして、著名人による『台北爸爸紐約媽媽』推薦コメント動画。
ひとり目は偶然にも『日常対話』のホアン・フイチェン監督でした!

----
現在、映画『日常對話』の監督が、母親を中心とする家族の物語を文字で編んだ、もうひとつのセルフ・ドキュメンタリー『同性愛母と私の記録・仮』の日本語翻訳出版クラウドファンディングを実施中。本の予約購入を募り、目標金額に達したら出版するというシンプルな仕組みです。お金が集まらないと出版できないので、ご支援いただけるとありがたいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?