ローリングストーンズ来日公演秘話中の秘話!テレビで絶対やっちゃいけないことを今だから言ってしまう!
土屋:われわれのテレビの先輩方に、こういう機会でいろいろなお話を伺ったんですけど、墓場に持っていくつもりだった話を一つということがあるので、お願いできればと。たくさんあるとは思います。
棚次:ローリング・ストーンズのときに、マルチで撮って、すごくいい音に撮れてるんですよ。あの頃から音はもうデジタルになっていたんで。コマーシャルでも相変わらずガーンと来るじゃない? 圧縮された、全部天井につきそうな、この辺で入れているようなの。それが嫌だったので、そこで同期のすごい仲がいい技術の人が、コマーシャルのレベル絞りたいんだけど、そいつマスターにいるの。シフトでマスターに入ってたのよ。
土屋:その時間に?
棚次:その時間。コマーシャルをちょっと絞っておいてもらいたいんだけどって言ったら、「僕がそれをできることはないんで、当日来てよ」って言われて。
土屋:へえ~!
棚次:それで、そいつもシフトじゃないのに出てきてくれて。それで「コマーシャル、ここに、このフェーダーに上がってくるからな。押すなよ、押すなよ、絶対にこれは触るなよ」って言って「ここに座って見てて」って言って、その前に座らせてくれたの。いいやつでしょ?
土屋:それでCMにいくと、ちょっと下げるんだ。
棚次:下げる。ちょっとどころじゃない、バッて下がって。
土屋:あら~! えっ、それってバレなかった?
棚次:バレない。バレてないですよ、もちろん。俺はだから誰にも言ってなかったの。
土屋:はあ~! だからそれ、ずっと黙ってた?
棚次:黙ってた。
土屋:今までね。
棚次:そいつはどっかの地方局の偉いさんに、常務か専務になってましたからね、その後。
土屋:ああ、なるほど。それは一番やっちゃいけないやつ……?
棚次:それはやっちゃいけないですよ、民放で。
土屋:ですね? 民放でね。民放で各局全部テレビの70年の歴史の中で、やったの棚次さんだけじゃないですか? それ。
棚次:だと思いますよ。
土屋:ね?
棚次:そういう協力者がいたってことですよね。
土屋:はあ~! 嫌だったんだ。
棚次:「俺はできないって」言って「おまえやれ」ってことですからね、つまり(笑)。
土屋:へえ~!
棚次:このフェーダーだぞっつって。
土屋:ストーンズのライブの音のレベルを聴かせたいから、で、CMがガンとくるから、CMを少し下げておいたら、こっちのストーンズの本編の音がきれいに出るだろうと、家庭で。
棚次:うん。それで押さえとして、東京タワーに送信機があるんですよ、15キロワットかなんかの。もちろんバックアップもあるんで。それにリミッターが入るんですよ、出口に。それがすごい音を悪くするの。リミッターがかからないぐらいから、そのリミッターアンプ自体が。
土屋:はいはい。
棚次:それで連絡票書いて、当時、何時から何時までリミッター外してください。これも全部ダメ元で書いたんですよ。まさか外す、リミッターなんか外してくれないからね。もしものことがあったら送信機イカれちゃうっていうか、ひずんじゃうからね。ひずみが出ちゃうから。
土屋:はい。
棚次:(そうしたら)呼び出されて、「こういう理由でどうしても、絶対ゼロは超えませんから、交渉しますからリミッター外してください。お願いします」って言ったら「わかった、その時間だけなら」。
土屋:外してくれたんですか?
棚次:外してくれたんだよ。
土屋:へえ~!
棚次:リミッターも外してくれたのよ。なおかつマスターフェーダーも。
土屋:触ってるわけですもんね?
棚次:触ってる。
土屋:その頃、オンエアをとってる人間からすると、改めて見ると、普段のレベルじゃないんだ。ってことですよね?
棚次:いい音になってるはずだ、リミッター外してるからね。
土屋:っていうことですね。
棚次:で、コマーシャルのレベルは普段のレベルじゃないわけよ、下げてるから。
土屋:なるほど。で、撮ってる音は、ストーンズのマネジャーっていうかプロデューサーも認めている画だし、日本の誇るものがオンエアとして残ってるってことですね。ああ~! なるほど、わかりました。
多分、今のテレビマンたちも見ると思うんですね。今の現役のテレビマンたちも見ると思うんで、今のテレビマンたちに何かメッセージを頂きたいなと思うんですけど。
棚次:いやいや、よくね、これを今の精神論からいくと、体育会的なアレになっちゃうから。今そんなの、はやる時代じゃないのはわかってるから。だから、そういうふうな話になると、言うことはないんだよね、もう。
だから、いろんな人が、音響さんにしろ、いつも一緒にいる人たちが「なんで後継者つくらなかったんですか?」って言うんだけども、編集とか、編集のアイデアはすごいからさ。「ああ、こういうつなぎ方があるんだ!」とか、しょっちゅう音響さんなんかと付き合っているからね。だけども、それはできないんだよ。
土屋:棚次さんの弟子はつくらない主義ってことですか?
棚次:つくらない主義っていうより、無理だと思うんだよね。何人かは「どうしてもつながらないときはこうするんだよ」とかね、そういう武器を渡しても、武器を使いこなすっていうか、最終的にはこれだからさ。
土屋:(笑)。
棚次:(笑)。
土屋:これですからね、はい(笑)。
棚次:うん。いくら武器を与えてもね、「こんな面白い武器があるんだ! これ頂いていいですか?」「どうぞどうぞ」。心の中で、どうせ使えねえだろうなと思う。
土屋:だから、やっぱり一代のものっていう感覚はあるっていうことですよね。
棚次:そうですよ。
土屋:でも、棚次さんのそれを盗んだ人間も結局、見て盗んだ人間も結果としては生まれなかったっていう。
棚次:うん。まねできないでしょう、だって。
土屋:っていうことなんでしょうね。
棚次:うん。
土屋:だから、テレビのあらゆる撮り方という意味での開発をしたっていうところが、棚次さんは圧倒的にあるんですけど、それは形としては残っている、さっきのいくつかのことなんかは残ってはいるけど、でもそれは棚次さんがゼロから見つけたというか、創ったというか、っていうことですよね。
棚次:そうですよ。
土屋:それを見て使うやつは使えと。
棚次:うん。それを自分のものにできるかどうかっていうのは、今言ったみたいに、これね、駄目なんですよ。
だから、編集所たまたま歩いてて「いいとこで会った! これをどうしても10秒つなぎたいんですけども」って言ったら、そういうアイデアは、すぐ出ると思うんだよね、一回見ただけでね。初見でアイデア出てくると思うんだ。テクニックもあるから、どうしてもつながらない場合の。
その時「この武器を使いなさい」って渡すだけで、僕の手を離れちゃったら、多分そいつは使えないだろうなと思う。
土屋:棚次さんがつくられた、あの時代のテレビ、それから今に至るまで失っていったものってなんですか? 失っていったものなのか、変わっていったものなのか、何が……。
棚次:例えば、そういう台本じゃなくなっちゃったのかもしれないけど、誰々さんがここまでつくれ、こういうことしてくれたらいいなっていうのは、もうその段階でやるはずないからっていって切っちゃうじゃん、多分。カットしちゃったりするじゃん?
土屋:はいはい。
棚次:そういうことがないようにしてほしいって思ったりはするよね。
土屋:ああ~。
棚次:引いちゃったもの、消しゴムで消したもの、あるいは「できないですよね」って言っちゃったもの、それを通す意地っていうのが、「おまえら意地を通したことがあるか?」っていうのは問いたいよね。
土屋:なるほど。だからテレビマンの意地みたいなものが、どんどん薄くなった感じがする?
棚次:そうですね。
土屋:それはなぜなんでしょうか?
棚次:だから、何が楽しいっていうのも多分変わっているんだと思うんですよね。それができたときは楽しくて、それによって給料が増えるわけじゃないけれども。
土屋:テレビマンが、自分の仕事にとっての楽しさみたいなものを諦めていったんですか?
棚次:諦めていった。諦めていかざるを得ないから、諦めっていう言葉でもないんだと思うんだよね。先達たちが、すぐ近くの上の人たちがやっていないから、俺たちもそれでいいんだと思う。もっと上の俺たちも見てほしいっていうのもあるけど。
「それ撮ると、どういうプラスがあるんですか?」って聞かれちゃうと「自己満足じゃいけないの?」って(笑)。
土屋:(笑)。
棚次:「自己満足ではできないですよ、そんなの」ってなるわけじゃん?
土屋:うん。
棚次:だから、定義から全部変わってきちゃってるし。その時、開いた辞書に書いてあるのに、今になって開いても、その項目さえなかったり、項目があったとしても違うことが書いてあったり。
だから僕は本番が終わってから、『今夜は最高!』でも『うわさのチャンネル!!』でもそうだけども、必ず最後までいたからね。少なくとも技術がいなくなるまで。それで終わった頃スタジオに行って、サブ行って、一人一人に「お疲れさまでした」って言って、それを毎週やっていたし。普通みんなタレントと飯食いに行っちゃったりね、するんですよ。
土屋:はいはい。
棚次:だから本番の日は必ず技術さんと一緒に飯食ってた(会社の)地下食堂で。普段は行かないけれども。
土屋:そういう意地と……。でも粋ですよね。
棚次:そうやって言われると、すごいうれしいですね。
土屋:粋なのは、やっぱり教育ですか? 親からの。
棚次:そうですよね、多分。
土屋:その頃のテレビマンが、別に粋ってことでもないですよね?
棚次:うん。井原さんは粋でしたよ、でも。
土屋:ああ、井原さん、粋なんだ。ボンボン同士のアレですかね?
棚次:いや、別にうちはボンボンじゃないですよ。サラリーマンの普通の息子ですけど。
土屋:いや、何を(笑)。そうか~。
ということで、たくさんまだあるし、あれなんだけど、いくつか出てる、やっぱり一番最初に言った、ディレクターは謝りにいくもんじゃないっていう、その現場感っていうか、モノをつくることの姿勢とか大事さみたいなことが、改めて最初からずっとこうやってあれすると、貫かれていたんだなっていうことがわかってとてもうれしかったです。ありがとうございます。
何か言い残したことはもうないですね?
棚次:言い残したことはないです。
土屋:(笑)。
棚次:でも、帰りのゆりかもめの中でいろいろ思い出すと思うんだけど、まあ、また呼んでください。
土屋:はい。じゃあ本日はどうも。
棚次:一番今度は際どい話を。
土屋:はい、ぜひ際どい編を。
棚次:はい。
土屋:ありがとうございました。
棚次:失礼します。
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