テレビ収録にストリップを入れた訳!テレビ創世記のプロデューサー齋藤太朗の「テレビ史の内側」第2弾!テレビの価値創造の中で生まれる名番組「ゲバゲバ90分!」「なんでそうなるの?」の記憶をインタビュー!
今回は齋藤太朗さんの第2回目のインタビューの文字起こしです。
僕がビビッと来たのは「ゲバゲバ90分」を始めるときの井原さんの言葉。
『テレビは見ている人の役に立たなきゃならない。俺たちが教育番組をやったらどうなる?』『テレビは常に新しいことをやらなきゃならない。90分番組はまだ誰もやったことがないな。よしそれやろう!』
テレビ創世記の男たちの戦い。ぜひお読みください。
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土屋:齋藤さんの演出的な師匠は誰になるんですか? 井原さんと秋元さん両方?
齋藤:井原、秋元、横田って、一番下が横田さんじゃないですか。だから、横田さんが僕にいろいろなことを教えてくれました。
土屋:じゃあ例えば、バラエティーの中でも笑いとか、そういうものっていうのは、秋元さん、『シャボン玉』から本格的に?
齋藤:笑いを持ち込もうとしたのは、秋元さんが割と早かったと思いますね。でも、井原さんが『光子の窓』なんかやっていましたから。その辺から、いわゆるバラエティーショーとしての笑いですよね、っていうのは、なんとなく我々の中にはあれして。
土屋:どんどん、どんどん、そういうふうに。
齋藤:はい。要するに、バラエティー風になっていったっていうか。音楽番組が、ただ歌を歌っているんじゃなくて、いろいろと立体的になったっていうか。
土屋:なるほど。っていうふうに、どんどん、どんどん、なっていくっていう時代になるわけですね。
齋藤:はい。
土屋:じゃあ、やっぱり井原さんが天才?
齋藤:そうですね。
土屋:井原さんってどんな……。僕が入った時、制作局長だったんですけど、本当にまさにテレビ史の方っていう感じなんですけど。まあ、いいとこのボンボン、お坊ちゃまだそうですね。
齋藤:そうです。三井の系統ですから。
土屋:そうですよね。御曹司っていう。
齋藤:本家じゃないから「井原」なんていう名前ですけど。
土屋:やっぱり勉強熱心なんですか?
齋藤:あの人、ショーが好きなんですよね。特に踊りなんかがとっても好きでね。あとは、だいたい、チャックワゴン・ボーイズのベース弾きじゃないですか?
土屋:はい。
齋藤:それで売れるだけ売れてたのに、テレビ局に入った人ですから。だから、音楽も結構好きで。
井原さんに一番教えられたことって「おまえ、テレビっていう職業を選んだ以上、テレビに何ができるか、テレビにおまえが何を貢献できるか。それをやれなかったら、おまえ、テレビ局、選んだ意味ないだろう」って言われて。井原さんはいつも新しいものを作っているんです。いつもテレビに新しいものを作っていくっていうことをやらなきゃいけないなって、その時に思って。
それともう一つは「おまえ、テレビ局に入った以上、テレビから何を学べるか、テレビに何ができるか、それをとにかくやれ」っていうので。視聴者に役に立つことをやろうよ。涙を誘うドラマも役に立つことだ、と。楽しい話も役に立つことだ、と。政治の話も役に立つことだ、と。だから我々は、楽しい番組を作るというのは、それはやっぱり役に立つことだ、と。
つまり、そういう役に立つ番組を作っていけなければ、おまえ、テレビ局に入った意味、ないだろうっていうのが、井原さんの考え。僕もだから、ずーっとそれをあれして。僕、結構だから、新しい番組、ずっと作ってきていますよね。
土屋:『シャボン玉』から、今度『ゲバゲバ』ですね。
齋藤:『ゲバゲバ』の間に『九ちゃん!』っていう番組をやっているんですよ。『九ちゃん!』を3年間。九坊のゲストとの対談があり、歌があり、踊りがありっていう、いわゆるバラエティーショーですよね。
土屋:それも30分ですか?
齋藤:30分です。
土屋:『九ちゃん!』は、齋藤さんはフロマネ?
齋藤:いやいや、ディレクター。井原さんと交代で。
土屋:なるほど。
齋藤:ただね、プロダクションが、ギャラアップを言ってきたんですよ。
土屋:九ちゃんの事務所が?
齋藤:はい。ところが、もうお金なくて。公開でやってたんですよね、『九ちゃん!』ってね。公開でスタジオで。あれも新しいのはね、スタジオ公開っていう名前を使っていたけども、だからね、収録が順番に撮っていないんですよ。公開でやったら、頭から順番にいくじゃないですか。
土屋:そうですね。
齋藤:そうじゃなくて、スタジオ公開なんですよ。だから、カメラもステージの上に乗ってるし、っていうやつでやっていたんです。ところが、ギャラアップの話が来まして、お金がかかるのに、お金、もう目いっぱいなんですよね。
しょうがないっていうんで『九ちゃん!』をやめにして『イチ・ニのキュー!』っていうスタジオ番組に変えたんです。この方が制作費がずっと安いんですよね。公開でやるっていうのは、生バンドは入れなきゃいけない、何をするにも大変だったけど。
それで制作費を縮めたんですけども、またギャラアップっていう話が出たんですよ。それでもう、お金どうにもならないから、やめよう。じゃあ次、俺たち、何やろうかって。やっぱり、世間のために役に立つ番組で何かやるっていったら、例えば教育番組なんていうのは、やってみたいよねって。俺たちがやったら、バラエティーの教育番組って面白いんじゃないかね? なんていう話が出てきて。
その頃にNHKの3チャンネルで『セサミストリート』っていうのを月1だったかな? やっていまして『セサミストリート』って見てる? って言ったらね、作家が集まって、いろいろ相談したんですけど、みんな見ているんですよね。それで、あれは面白いよって。だからやるんだったら、あれは教育番組としては最高だから、ああいうのやりたいねっていう話になったんです。
それならばっていうんで、井原さんが、すぐアメリカへ飛んでいって、それでいろいろ話を聞いてきたんですね。そこで出てきたのが、子どもたちっていうのは、長い時間になると我慢できなくなっちゃう。だから、なんとか短い時間でもって、どんどこ、どんどこやっていかなきゃいけない。それを今『セサミストリート』がやっている、と。
その『セサミストリート』が手本にしたのが『ローマン&マーティンズ ラフ・イン』っていう番組があって、それを手本にしてやっているんですよっていう話を聞いて帰ってきたんですよ。
土屋:はあ~!
齋藤:それで井原さんが帰ってきて、ニューヨークの支社に頼んで、白黒のキネコで2本を送ってもらって、それを見たんですよ。これが面白いのね。「ああ、これは面白ぇや!」と同時に、この短いシークエンスでもって、どんどこ、どんどこ笑いを取る。これを身に付けなきゃ駄目だよな。よし!『ラフ・イン』の日本版みたいなやつ作ろうかっていうのが『ゲバゲバ90分!』をやろうというきっかけの始まりなんですね。
土屋:はあ~! 要するに、今までの『シャボン玉』とか『九ちゃん!』の、あのテンポじゃない……
齋藤:もっともっと短い。
土屋:もっと短いので、どんどんやるということが生まれるわけですね。
齋藤:『ローマン&マーティンズ』を巨泉と前武で、バタバタバタとやるというのをスタジオで撮ってっていうのをやることになったんですけどね。
だからあの番組は、井原さんがいろいろプロデュースするので苦労したんですけども、あの頃ね、番組って、60分番組、1時間番組はいっぱいあったけど、90分番組ってないんですよ。
井原さんの発想として、誰もやらないことをやるという意味で、90分やっちまおう! 90分の番組、作ろうじゃねえかっていうのが一つ。それで、スポンサーを彼が自分で行って……
土屋:口説いてきた?
齋藤:口説いて。「巨泉と前武が、まず司会をやります。コント55号も出ます」ってなことを。で、「作家のチーフは、三木鶏郎です」っていうようなことでもって。
土屋:メンバーで?
齋藤:まあ、あんまり意味はよくわからないかもしれないけど、そういう番組やりますからって言って口説いて。武田薬品と、サントリーと、ホンダなんて、すごいスポンサーで。
土屋:すごいやつを連れてきたんだ。8時から9時半ってことですか?
齋藤:9時半。それで作家を集めて、作家、1年目40人いましたね。
土屋:ほお~!
齋藤:三木鶏郎さんがチーフなんですけど、三木鶏郎さんは、いっぺんも書いたことない、何も書いたことないの。
土屋:なるほど(笑)
齋藤:要するに、スポンサーに売るために、名前だけもらっていうようなことで。だから、それ以外の人たちが一生懸命書いてやって。
土屋:短いショートのコントっていうか、ショートの笑いみたいな。
齋藤:ギャグですよね。
土屋:ギャグですよね。でも、どうなんですか? 例えば、上の世代か、偉い人とかいるじゃないですか。その人たちは、逆にいうと『ゲバゲバ』のテンポについていけないから「なんだこれは!」って局内でも言う人がいたりとかっていうのは、あまりなかったですか?
齋藤:さあ、どうでしょうか。僕は知りません。いたかもしれない、いそうだな~。
土屋:その頃は、いわゆる制作が「これだ!」って言ったら、文句は聞こえてこないっていう感じですかね?
齋藤:そうですね。巨泉、前武が、時事の話題を取り上げながら、フリーでしゃべってるじゃないですか。その間にギャグが入ってくるから、巨泉、前武が、ある意味で、出っ張ってるっていえば出っ張ってるんですよ。全体の中でいうと、半分まではいかないかな? でも、巨泉、前武で時間を稼いでいますからね。
そういう意味では、巨泉、前武でもって、助かってるところもあるかもしれない。第1回が、新宿の騒乱が入って、ニュースをそのまま入れちゃったですから。
土屋:あれは生? VはV?
齋藤:巨泉、前武は生です。
土屋:巨泉、前武は生で、コントがVで、差し込むんだ。
齋藤:はい。
土屋:だから、その時事問題がいけるんですね。
齋藤:今起こっているものをやっていますから。新宿騒乱とかね、とにかく報道とあれして、どんどん新しいものを入れたりしましたから。
土屋:68年とか69年の、あの騒がしい頃ですよね、日本がね。
齋藤:ええ。
土屋:なるほど。そこにあの『ゲバゲバ』が入るんだな。
『なんでそうなるの?』はその前?
齋藤:その後です。
土屋:後ですか。コント55号が少し陰ってきたところで、もう一回持ち直す感じっていう。
齋藤:はい。視聴率、よかったですからね。
土屋:そうですよね。
齋藤:ベスト10は、時々しか入らなかったけど、ベスト20にはいつも入っていましたから。
55号を仕込んだんで、番組やるんだけど、ディレクターやってくれっていうのが来まして。『なんでそうなるの?』って、コントがあると、歌が5分ぐらいあって、またコントがあったじゃないですか。
土屋:そうなんですか。
齋藤:10分かな? そういう構成でもって番組を作りたいっていうから「まあ、いいよ」って、コントが面白ければいけるから。普通の歌番組と違って、歌を歌うんだけど、例えば空を飛びながら歌っているとかね。
土屋:ちょっとギャグっぽい感じも?
齋藤:ギャグまではいかないけども、いわゆる普通の、ポーンと立って、ワーッて言ってるんじゃない歌番組っていうのを作ったんですよね。
土屋:なるほど。
齋藤:僕はコントの方をやったけれど、これも作家を7人か8人かで。
土屋:その頃は、もうパジャマ党はいたんですか?
齋藤:パジャマ党はいました。
土屋:じゃあ、大岩さんとか、詩村さんとか……
齋藤:いました。
土屋:が、書いて。
齋藤:はい。
土屋:『なんでそうなるの?』を、ストリップ劇場? ではないのか……?
齋藤:浅草演芸場ですから。笑い声っていうのがあるじゃないですか。男の人がね、笑うっていうのは「ドーン!」っていう笑いなんですよ。女の人が笑うと「キャーッ」となっちゃう。「ドーン!」って笑いが欲しいっていうのは、欽ちゃんも僕も2人とも言って、男の客、入れたいねって。
僕がうーんって考えて、よし! それじゃあ、コントとコントの間に、着替えの間にストリップ入れる。それで、まず男の客を呼べるというのと、子どもを全部、18歳未満お断りできる。だから要するに、ストリップやるって言ったのが、それは僕なんです。
だから公開の時、オンエア的には全然使わなかったけど、公開の時には、コントとコントの間にストリップが一つ入って、またやるっていう。
土屋:そういうことですよね。それはやっぱり55号も、もともと浅草で出てきたとはいえ、久しぶりの男だけの前だから、結構、一生懸命やらないと、男は笑わないですもんね。
齋藤:そうですね。いや、台本作るの苦労しましたよ。面白いの作らなきゃいけないですしね。だから、本当に何十本とやって、ほとんどNGにして、欽ちゃんに「これ、いきたい」っていうようなことを言って「いってみようか」とか。二郎さんは、ほとんど見ないんですよ。見せないんですよ、逆にね。見せちゃうと、突っ込むとウケがわかっちゃうから。だから欽ちゃんと2人で。
土屋:そういうことですよね。あの名作の山びことか、バドミントンとか、全部欽ちゃんが、二郎さんを翻弄(ほんろう)するというか、っていうことですもんね。
欽ちゃんとは『ゲバゲバ』で一緒? その前からですか?
齋藤:『九ちゃん!』をやっている時に。『九ちゃん!』の時に、日本で初めてやったのが合作方式なんですよ。これもテレビ史で最初なんですけど。合作で5人だったかな? 作家。とにかく、ホテルに、ある日、缶詰めにして、企画から何から考えて、その日のうちに原稿書いて、出来上がらせるっていう方式を井原さんが考えて。合作方式がですね、ここは誰が書く、誰が書く。
それを欽ちゃんが聞きつけて「見学させてください」って言ってきたんですよ。それで、合作ってどういうことなのかなっていって、その日一日付き合って、あの忙しい人が。「ああ、こういうことですか」って言った時が、欽ちゃんとの付き合いの最初なんですよ。
土屋:それは55号の、もう結構、人気に?
齋藤:もう人気なんてもんじゃない時で、そんな暇がよくあったと思いますけども。めっちゃくちゃ売れてた時代です。
土屋:でも、やっぱり新しいものっていうと、来て、一日……
齋藤:多分、合作っていうところをね、彼は学びたかったんだと思う。結局、自分のところのパジャマ党とか、そういう人たちの合作でもって何か作るっていうのは、どうやるんだろうっていうのを、欽ちゃんは見にきたんだと思いますね。
土屋:なるほど。
欽ちゃんが言うことを聞くのは、齋藤さんか、常田さん、この2人しかいないって言ったりするって言われてるんですけど。
齋藤:ええ、僕も聞いたことあります。
土屋:これはやっぱり『なんでそうなるの?』のあたりからですか?
齋藤:さあ、それは欽ちゃんに聞かないとわからないですけどね。彼がとっても僕のことを信頼してくれてるっていうことなんですけど。
土屋:心当たりは?
齋藤:わかりません(笑)。
土屋:そうですか(笑)。